はじめに
本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年12月20日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。なお、ISWインタラクティブ・マップ等での地図検索上の便を考え、訳文中の所出地名には[ ]を付け、地名のラテン文字表記も記すようにした。
今回訳出した箇所は、バフムート方面とアウジーウカ方面の戦況記述である。ウクライナ戦域全体の前線上の状況に関してISWは次のようにまとめている。
バフムート方面
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
ロシア軍がここ最近、バフムート[Bakhmut]の北方でわずかに前進できたことが確認されている。撮影地点特定済みの12月19日公開の動画によって、ロシア軍がスピルネ[Spirne](バフムートから北東に25km)から南西の方向で少し前進したことが分かる。ロシア国防省は、ウクライナ軍がバフムートから15km北に位置するパゼノ[Pazeno]付近で攻撃を仕掛けたが、不成功に終わったと主張した。
ロシア軍が12月20日にバフムートの西方で前進したことが伝えられているが、ISWはこの地域の前線の変動を確認できていない。あるロシア軍事ブロガーの主張によると、ロシア軍はフロモヴェ[Khromove]西方の前線の530m幅範囲上で、縦深170m分前進し、イヴァニウシケ[Ivanivske]付近でも前線の3km幅範囲上で前進したと主張したが、これらの主張を裏付ける映像資料をISWは今のところ確認できていない。ロシア軍志願兵軍団「セーヴェルV」旅団所属部隊がバフムートから北西方向に位置するボフダニウカ[Bohdanivka]付近で前進し、バフムートから南西方向に位置するクリシチーウカ[Klishchiivka]及びクルディウミウカ[Kurdyumivka]の両集落付近でもロシア軍が前進したと、複数のロシア軍事ブロガーは主張している。ロシア・ウクライナ双方の情報筋は、バフムートの北西側面と南西側面で戦闘が続いていることを伝えた。ロシア軍事ブロガー・アカウントの一つは、ロシア軍がクリシチーウカの北方で作戦行動のテンポを速めつつあると主張した。ドネツク人民共和国(DNR)のヤン・ガーギン補佐官は、ウクライナ軍がバフムートの西方で反撃を行ったと主張した。また、チェチェン「セーヴェル・アフマト」第78自動車化狙撃連隊(南部軍管区第58諸兵科連合軍第42自動車化狙撃師団)所属部隊がロシア軍第88自動車化狙撃旅団(第2ルハンシク人民共和国軍団)所属部隊とともに、クリシチーウカ付近で行動中で、ロシア軍第105自動車化狙撃連隊(第1ドネツク人民共和国軍団)所属部隊がバフムートの西方で行動中であることが伝えられている。ロシア軍第98空挺(VDV)師団所属部隊が、バフムート周辺での作戦任務を継続していることも伝えられている。
アウジーウカ方面
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
ロシア軍が12月20日にアウジーウカ[Avdiivka]周辺で前進したと報告されているが、この地域の前線の変動は確認できていない。あるロシア軍事ブロガーは、アウジーウカから南西方向に位置するペルヴォマイシケ[Pervomaiske]付近で、ロシア軍がわずかだが前進したと主張した。だが、ISWはこの主張を支える映像証拠を確認していない。ロシア・ウクライナ双方の情報筋は、アウジーウカから北西・西・南西の方向、アウジーウカ工業地区付近、アウジーウカ・コークス工場付近で、ロシア軍が攻撃を仕掛けたことを報告している。ロシア軍事ブロガー・アカウントの一つは、ウクライナ軍がアウジーウカ周辺で反撃を行っているところだと主張した。ウクライナ軍タヴリーシク部隊集団報道官オレクサンドル・シュトゥプン大佐の12月20日付発表によると、ロシア軍は過去2カ月間でドネツィク州で戦う兵員約25,000人を失っているとのことで、この損失の80%がアウジーウカ方面で生じているとのことだ。また、アウジーウカ周辺での攻撃を遂行するために、ロシア軍はしばしば戦力の低下した部隊から新たな中隊を編成しているが、一方で、練度が高く、装備が充実した部隊もこの地域で戦い続けていると、シュトゥプンは指摘している。