Russian Offensive Campaign Assessment, November 25, 2024, ISW ⬇️
ウクライナ戦況分析:ドネツィク州西部でのロシア軍の進撃
◆ 戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
ロシア軍はドネツィク州西部で大きな意味をもつ戦術レベルの前進を続けている。また、同軍はヴェリカ・ノヴォシルカ[Velyka Novosilka]包囲を完遂しつつあり、ウクライナ側にとって重要な地上連絡線(GLOC)に向かって前進を続けている。このGLOCは、ドネツィク州西部でウクライナ側に残されている地域への補給路であり、ドニプロペトロウシク州東部とザポリッジャ州を通っているルートである。11月24日公開の撮影地点特定可能な動画に、ロシア軍第5戦車旅団(EMD[東部軍管区]・第36CAA[諸兵科連合軍])隷下部隊がヴェリカ・ノヴォシルカ(ドネツィク・ザポリッジャ州境地区からすぐ東方)の東側郊外地区に進出した様子が示されている。ロシア軍事ブロガーの一部は、ロシア軍がヴェリカ・ノヴォシルカから北東と南東の方向でも、さらなる前進をしたと主張している。第37自動車化狙撃旅団(EMD・第36CAA)第2大隊を含むロシア軍EMD隷下部隊が、ヴェリカ・ノヴォシルカ郊外に向かって前進中であることも伝えられている。
ロシア軍はまた、クラホヴェ[Kurakhove]~ヴェリカ・ノヴォシルカ間のO0510道路(クラホヴェから南東方向、ヴフレダル[Vuhledar]から北東方向)の東側に存在する小規模なポケット地域を殲滅する取り組みを続けている。11月25日公開の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍第5自動車化狙撃旅団(第51CAA隷下、元第1ドネツク人民共和国軍団[DNR AC]隷下)の隷下部隊が、クラホヴェ中心部のポビエディ[Pobiedy]通りにまで前進していることが分かる。11月25日に一部のロシア軍事ブロガーは、ロシア軍がロマニウカ[Romanivka](ヴフレダルから北東方向)を掌握し、ロマニウカ周囲の野外地でさらに占領地を広げたと主張した。ISWは現状、ロマニウカの集落内部でロシア軍が行動していることを確認できる情報に接していないが、11月24日公開の撮影地点特定可能な動画には、ロマニウカの東側に隣接するイルリンカ[Illinka]とアントニウカ[Antonivka]の各周辺で、小隊規模の機械化部隊によるロシア軍の攻撃がそれぞれ行われた様子が映っており、これらの攻撃の際にロシア軍がロマニウカに向かって前進したことを示唆している。第33自動車化狙撃連隊(SMD・第8CAA第20自動車化狙撃師団)隷下部隊がアントニウカ付近で機械化部隊による攻撃を遂行したことが伝えられている。ロシア軍事ブロガーは、この地区のロシア軍が重点を置いていることとして、ウクライナ軍をコスチャンティノポリシケ[Kostyantynopolske](ヴフレダルから北西方向)の方向に西へと後退させようとしていることを指摘した。
先日のことだが、11月24日にISWは、ロシア軍統帥部が戦域全体のこの地区において、想定可能な行動方針(COA)をいくつか有しているという分析を示した。そして、11月24日と25日にロシア軍があげた戦果は、先日示したCOAのなかの2つに該当している。一つは、クラホヴェからアンドリーウカ[Andriivka]~コスチャンティノピリ[Kostyantynopil]線に向かって、H15高速道路を西進するというロシア軍の取り組みであり、もう一つは、ヴェリカ・ノヴォシルカを迂回し、ザポリッジャ州東部に向かうウクライナ側GLOCを脅かすというロシア軍の取り組みである。ロシア軍はすでにクラホヴェ東部に位置するH15道路沿いの陣地を手に入れており、同軍が(H15道路と直角をなすかたちで南へと流れる)ポビエディ通り沿いの新たな拠点陣地を利用して、クラホヴェを通過し、H15道路沿いにダチネ[Dachne]とアンドリーウカ(両方ともクラホヴェから西方向)に向かってさらに前進しつつ、その方面での阻止攻撃も行おうとする可能性は高い。最近、クラホヴェ中心部のポビエディ通りにまでロシア軍が前進できた結果、ロシア軍は現在、アンドリーウカの東方約15km地点にいる。ロシア軍事ブロガーもウクライナ人軍事ウォッチャーのコスチャンティン・マショヴェツも、アンドリーウカが、クラホヴェ西方におけるロシア軍の作戦レベルの目標であると判断している。なぜなら、アンドリーウカがロシア軍に占領されてしまった場合、ロシア軍はヴフレダルから北西と北東に位置するO0510高速道路に沿って連なる集落群を包囲するための発起点として、より強固な拠点を手に入れることができるようになるからだ。ロシア軍が今後も続ける行動として、アンドリーウカに向かってH15沿いに西進する一方で、ヴフレダルから北東の方向のウスペニウカ[Uspenivka]~ハンニウカ[Hannivka]~ロマニウカ線に沿って形成されているポケット地区内に攻撃を仕掛けるという可能性がある。このような作戦戦術的意図を有した機動によって、ロシア軍がこの地域の戦術規模の諸拠点を制圧し、ソンツィウカ[Sontsivka](クラホヴェから北西方向)とコスチャンティノポリシケを結ぶ線で戦線をまっすぐ平らにすることができるようになる可能性があり、その場合、ロシア軍はドネツィク・ドニプロペトロウシク州境から、最も近い地点で約25km東方に位置することになる。
ヴェリカ・ノヴォシルカ周辺における最近のロシア軍の前進は、同軍がヴェリカ・ノヴォシルカをその東方と北東方向の側面から包囲しようと試みているという11月24日のISW予測の内容と合致している。ロシア軍がヴェリカ・ノヴォシルカのすぐ東側でカシュラハチ[Kashlahach]川をすでに渡っていることを裏付ける情報を、ISWは今のところ確認していない。なお、カシュラハチ川を渡ることは、ロシア軍がヴェリカ・ノヴォシルカの市街地で戦闘を開始しようとする場合に行わねばならないことである。ロシア軍がノヴィー・コマル[Novyi Komar]に向かってロズドリネ[Rozdolne]から南西へと進んで、ヴェリカ・ノヴォシルカから北の方向で前進し、ここでの攻撃を補完する目的で、リヴノピリ[Rivnopil]経由でヴェリカ・ノヴォシルカから西方向の地点への北進を、同軍が行う可能性のほうが高い。ウクライナがヴェリカ・ノヴォシルカを喪失した場合、ザポリッジャ・ドネツィク・ドニプロペトロウシク3州を結ぶ地点を持続的に防衛するウクライナ側の能力は、潜在的にみて著しく害されることになるだろう。なお、11月24日にウクライナ志願兵軍セルヒー・ブラッチューク報道官は、ヴェリカ・ノヴォシルカがウクライナ側将兵にとって重要な兵站地点であることを指摘し、ここが占領されれば、ロシア軍はフリャイポレ[Hulyaipole]とオリヒウ[Orikhiv](両方ともヴェリカ・ノヴォシルカから南西方向のザポリッジャ州内に位置する)をもっと積極的に脅かすことができるようになると述べた。ヴェリカ・ノヴォシルカをロシア軍が掌握した場合、ドニプロペトロウシク州の最南東部に攻撃を仕掛けるための、より強固な発起点が、ロシア軍に与えられることになる。
ドネツィク州西部におけるロシア軍の前進は、仮定ではあるが、ロシア軍指導部が現状の戦術レベルの戦果を適切に活用するならば、作戦レベルで重要な大きな意味をもつ可能性がある。ただし、ドネツィク州西部でのロシア軍の前進が、自動的にウクライナ軍戦線崩壊の予兆になるわけではない。ヴフレダルから北東方向の地点でロシア軍SMD隷下部隊によって最近遂行された機械化部隊による攻撃は、ヴェリカ・ノヴォシルカ周辺でのEMDによる機械化部隊攻撃と相互連関しているようにみえ、EMDとSMDの各隷下部隊が現在、ドネツィク州西部地区において相互支援態勢下にある攻勢作戦を遂行中であるというISW評価分析をより強く裏付けている。ロシア軍がザポリッジャ・ドニプロペトロウシク州境に向かって、さらに前進できるかどうかは、ロシア軍EMDとSMDの各司令部が、戦線の各担当地区での戦闘任務を互いにうまく連携させて遂行し続けることができるどうかに、大きく左右されるだろう。さらに、ロシア軍が上述した作戦レベルのCOAすべてを達成できたとしても、モスクワが自ら定めた目標であるドネツィク州全土占領を達成するには、さらに8,000平方キロメートルを超える面積を、ロシア軍は制圧する必要がある。これまでロシア軍が示してきた攻勢作戦における実績を踏まえると、想定されうるドニプロペトロウシク州南東部へのロシア軍進入が、2024~2025年冬季戦期間において、急速な進展につながったり、ウクライナ側主要軍事拠点もしくは大規模都市に対する、差し迫った脅威になったりする可能性は低い。ウクライナ戦域は広大であり、ドネツィク州西部でロシア軍が戦術レベルで占領地を広げることが、短期的にみて、ウクライナ側の異常なパニックを招くとは想定し難い。ロシア軍の戦果は依然として戦術的なレベルにとどまっており、同軍は戦場において作戦レベルの機動戦を行う能力をいまだに取り戻せていない。現在、ロシア軍は前進しているが、同軍が作戦目標を達成できない可能性がある。これは、2024年初めにロシア軍がチャシウ・ヤル[Chasiv Yar]とポクロウシク[Pokrovsk]に対して、当初、正面攻撃を仕掛けた際に起きたことと同様である。
※ISWが参照している情報源を確認したい場合は、報告書原文の後注[1]~[15]に記載されたURLにアクセスしてください。
◆ 報告書原文(英文)の日本語訳箇所
ウクライナ戦況地図(戦争研究所)