本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年2月19日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
アウジーウカ方面:ロシア軍の動向
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
アウジーウカ周辺でのロシア軍攻勢作戦のテンポが、同軍のアウジーウカ占領後、劇的に鈍化していることが伝えられている。ウクライナ軍タヴリーシク部隊集団ドミトロ・リホウィー報道官の2月19日付報告によると、過去一日間、アウジーウカ方面でのロシア軍の攻撃回数は、かなり減少したとのことで、ロシア軍は現在、再編成を行いつつ、アウジーウカ市内での掃討作戦を遂行しているところであるとのことだ。リホウィーは、この地域におけるロシア軍の砲撃と航空活動も著しく減少していると述べた。また、ウクライナ側当局者は、ウクライナ軍が新たな防衛線へと後退していることを発表した。なお、この新防衛線は、ウクライナ軍がこの事態に先立ってすでに準備していたもので、ウクライナ軍によって「複数の水準で」防御強化されたものであるとのことだ。アウジーウカ方面で大規模攻勢作戦を開始する前に、ロシア軍が作戦休止期間を設けなければならない可能性は高く、別の可能性として、アウジーウカ周辺での作戦が攻勢限界に達しないようにするために、ロシア軍が戦線上の他地区からこの地区に追加増援戦力を移送しなければならない可能性も高い。ロシア軍はほかの地区に、このような増援戦力として投入可能な予備戦力を有している。しかし、ロシア軍が現時点で、これら予備戦力をアウジーウカに向けて動かしている兆候を、ISWは確認していない。このような見解とは反対の見方をリホウィーとウクライナ軍ホルティツィア部隊集団報道官イリヤ・イェヴラシュ大尉が示しており、両者によると、ロシア軍統帥部はアウジーウカ周辺に集結させた戦力を、近いうちに戦線のほかの地域に移送する予定でいる可能性が高いとのことだ。なお、移送先についての詳細は述べていない。イェヴラシュは、戦線のどこかほかの地域で行われている戦闘に向けて、ロシア軍がアウジーウカから自軍部隊を移送するのに、少なくとも1週間はかかる可能性が高いと指摘した。なお、現在アウジーウカ地区に配置している兵力を、ロシア軍が他地区に再配置する予定であることを示すものを、ISWは今のところ確認していない。
アウジーウカ方面:戦況詳細
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
2月19日時点でロシア軍がアウジーウカ市全体を占領してしまっている可能性は高いが、ロシア軍はまだアウジーウカ市内の各所で掃討戦を遂行している可能性がある。アウジーウカ方面で作戦行動中のウクライナ軍部隊は、アウジーウカ市北西端に位置するアウジーウカ・コークス工場から全ウクライナ将兵が撤退したと報告した。また、ロシア国防省はロシア軍中央部隊集団所属部隊がこの工場を奪取したと主張した。複数のロシア軍事ブロガーの主張によると、ロシア軍はアウジーウカから北西の方向のステポヴェ付近とラストチキネ付近で前進し、アウジーウカから南西の方向のネヴェルシケ付近とペルヴォマイシケ付近でも前進したとのことだ。2月18日にロシア軍事ブロガー・アカウントの一つは、ロシア軍がラストチキネを奪取したと主張したが、あとになって、その主張を撤回し、この集落付近で戦闘が続いていると修正した。ロシア・ウクライナ両軍は2月19日に、陣地を巡る攻防戦がノヴォバフムティウカ(アウジーウカから北西)付近とシェヴェルネ(アウジーウカの西方)付近で続いていることに言及した。アウジーウカ周辺で作戦行動中のロシア軍部隊は、第41諸兵科連合軍(中央軍管区)隷下部隊であり、それには第55・第35・第74自動車化狙撃旅団が含まれている。また、第6戦車連隊(第90戦車師団)もアウジーウカ周辺で作戦行動中である。第9自動車化狙撃旅団(ドネツク人民共和国[DNR]第1軍団)隷下部隊がペルヴォマイシケ付近で行動中で、第110自動車化狙撃旅団[DNR第1軍団]隷下部隊はネヴェルシケ付近で行動中である。
2月18日にロシア国防省が公開した動画から、ロシア軍がアウジーウカ付近において、撤退中のごく一部のウクライナ軍小集団を攻撃できたことが推察できる。また、アウジーウカ周辺で作戦行動中のウクライナ軍将兵からの報告は、アウジーウカからのウクライナ軍撤退の際にロシア軍が包囲できたのは、孤立してしまったごく小さな戦術規模のウクライナ軍部隊であったことを示している。ウクライナ軍がアウジーウカから撤退する期間に、ウクライナ軍将兵のかなりの数をロシア軍が撃破できた、または包囲できたことを示すものを、ISWは確認していない。ロシア側提供の動画とウクライナ側からの報告は、ここ数日間のウクライナ軍のアウジーウカ撤退に関するロシア・ウクライナ双方の解釈の不一致をよくあらわしているように思われる。ウクライナ軍の撤退は無秩序だった、もしくは、ロシア軍がウクライナ軍を包囲してしまったというロシア側の主張は、小規模な部隊の行動を意図的に、もしくは意図せずに、誇大に示したものだった可能性が高い。
参考ウェブサイト
戦争研究所:ウクライナ戦況インタラクティブ地図 ⬇️