本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年1月4日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ロシア軍、北朝鮮供与の弾道ミサイルを使用
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
米国国家安全保障会議戦略広報調整官ジョン・カービーは1月4日の会見で、北朝鮮からロシアに供与された弾道ミサイルを、ロシア軍がすでにウクライナ領内の目標に向けて発射したと述べたうえで、ロシアがイランから同種のミサイルを得ようとする努力を続けていることも指摘した。カービーの発表によると、北朝鮮はロシアに弾道ミサイル発射装置複数基と、正確な数は不明だが複数発の弾道ミサイルを供与したとのことで、2023年12月30日にロシア軍はウクライナに向けて少なくとも1発の北朝鮮供与のミサイルを発射したとのことだ。キービーはまた、ロシア当局者がイランから弾道ミサイルを購入する努力を続けていることも指摘した。1月4日未明のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙の報道によると、ロシアは早ければ2024年春にもイラン製短距離弾道ミサイルを受け取る可能性があると、米国当局者が語ったとのことだ。ただ、ロシアとイランとの取引がもう完了したとは考えていないと、米国当局者が述べたことも同紙は報じている。
外国から弾道ミサイルを入手する取り組みにロシアが注力している可能性がある。なぜなら、特定の環境下において、この種のミサイルは、ウクライナ領内の目標を攻撃する際に高い効果を示しているようであるからだ。前線に近いウクライナの都市を攻撃するために、ロシア軍は定期的に短距離弾道ミサイルを使用している。そして、このタイプのミサイルは、ウクライナ軍防空網を突破する、もしくは回避するという点で、ほかのものよりも効果的である模様だ。2023年12月29日以降、ウクライナ軍防空部隊は、集中的な攻撃で発射された166発とされるロシア軍巡航ミサイルのうち、149発の迎撃に成功している。しかし、一例をあげると、同時期に発射された弾道ミサイルのうち、一握りの数しか撃墜できていない。ロシア軍はS-300及びS-400対空ミサイルを、ウクライナ領内の地上目標を攻撃するという本来とは別の用途で使用している。そして、ウクライナ当局者が常々認めていることだが、ウクライナ防空部隊は自軍のS-300とS-400を使って、ロシア軍のS-300及びS-400による本来の用途と異なる攻撃を迎撃することに苦慮している。また、ここ最近のロシア軍攻撃の際、ウクライナ軍はイスカンデル弾道ミサイルの迎撃にあまり成功していない模様だ。一方で、12月30日に行われたロシアによる一連のミサイル・ドローン攻撃は比較的激しいものではなく、その際はイスカンデル-Mミサイルの迎撃にウクライナ軍は成功している。12月12日にロシア軍がキーウに向けて発射したイスカンデル-MもしくはS-300/S-400ミサイルのすべてを、ウクライナ軍は撃墜できたと伝えられている。ウクライナ軍はまた、1月2日にロシア軍がウクライナ領内に発射したキンジャール・ミサイル10発をすべて撃墜した模様だが、その際、西側から供与されたパトリオット・ミサイルを用いたとのことだ。これらのことから、ロシア軍弾道ミサイルの効果は、攻撃目標地域のウクライナ側防空網の構成と、空襲パッケージに含まれるミサイルに左右される部分があるように思われる。
ウクライナ領内の目標を攻撃する際、弾道ミサイルに巡航ミサイルとドローンを組み合わせることでロシア軍が比較的成果をあげたことが、外国から弾道ミサイルを入手しようとするロシアの取り組みを加熱させている可能性がある。伝えられた情報によると、ロシアは一月あたりだいたいイスカンデル・ミサイル42発とキンジャール・ミサイル4発を製造できるとのことだ。ただし、S-300/S-400ミサイルの製造可能数に関しては不明である。ロシアの国防産業基盤(DIB)は、ウクライナにおける持続的な空襲作戦に必要とされる規模で、弾道ミサイルを製造することができない可能性が高い。そして、このような空襲作戦の持続は、多くの数の弾道ミサイルを消費できるかどうかにかかっている。そして、ウクライナに向けた大規模ミサイル攻撃を持続させたいとロシアが考えるのならば、同国が外国から弾道ミサイルを入手することに迫られる可能性は高い。
参考
米国海兵隊の元将校で、軍事アナリストのロブ・リー氏がX(旧Twitter)の投稿において、弾道ミサイルとウクライナ軍防空能力の関係に関して、自身の見解を示している。上述の戦争研究所の評価報告内容と関連しているため、投稿リンクを示し、その下に投稿の和訳を示すかたちで、リー氏の見解を紹介する。
日本語訳(https://x.com/ralee85/status/1743018241205678505?s=61):
ウクライナはシャヘド・ドローンと巡航ミサイルに対抗するのに効果的な防空能力を保有しているが、弾道ミサイル迎撃に関しては数少ないパトリオット・ミサイル部隊に頼るしかない。キーウを除くと、都市に対する弾道ミサイル攻撃を迎撃できるウクライナの能力は限られている。
日本語訳(https://x.com/ralee85/status/1743020006353354923?s=61):
たとえば、ウクライナ空軍の発表によると、12月29日に発射されたシャヘド・ドローンと巡航ミサイルの大部分を、同空軍は撃ち落としたとのことだ。一方で、8発のKh-22/Kh-32、14発のS-300/S-400/イスカンデル-M、5発のキンジャールはすべて迎撃できなかった。
日本語訳(https://x.com/ralee85/status/1743021385239126351?s=61):
弾道軌道をもつミサイルをキーウとそのほかの都市に向けて同時に発射することを、ロシアが今後も続けていく可能性は高く、それはウクライナ側の限られた弾道ミサイル防衛能力につけ込むためだ。