【SNS英文投稿和訳】"ATACMSのロシア領内への使用にまつわる問題"(ウクライナ軍元将校Tatarigami氏)
本記事は、上記リンク先のロシア・ウクライナ戦争に関連する内容のSNS英文投稿(日本時間2024年11月10日投稿)を日本語に翻訳したものです。また、この翻訳記事で用いた画像は、Tatarigami氏の投稿に添付されているものを転載して使用しています。
なお、投稿者のTatarigami氏はウクライナ軍元将校で、戦争・紛争分析チーム「フロンテリジェンス・インサイト」を創設し、ウクライナ戦況等の分析を定期的に発信されている方でもあります。
日本語訳
ゼレンシキーとバイデン政権の間に緊張をもたらしている点の一つに、ATACMS[陸軍戦術ミサイルシステム]のロシア領内への使用許可に関する問題があった。フロンテリジェンス・インサイトは地理的情報に基づく分析を行い、米国の元政府関係者及び有力な米シンクタンクの専門家と話し合う機会をもった。以下は、私たちの報告の要旨である。
米国防総省の報道官は、滑空爆弾を用いた攻撃を行うことができるアセットを、ロシアがATACMS射程範囲内の航空基地から移してしまったという推測を示したが、この発言内容は正しいものだった。私たちの調査によって、ロシアが軍用機Su-34/35を、たとえばヴォロネジ空軍基地のような基地から、ほかの基地へと移したことが確認できる。
これと同時に、衛星撮影による9月28日以降の画像を分析した結果、少なくとも14機の戦闘用と輸送用のヘリコプターが、画像が撮影されて時点において、クルスク空港に駐機していた。なお、8機のSu-25近接支援航空機も同様にそこに駐機していた。
リペツク空港はハルキウ州の端から290km超離れた地点にある。ここは各種スホーイ製軍用機の拠点であって、これらの軍用機にはSu-24、Su-30、Su-27、Su-34、Su-35が含まれており、すべてが滑空爆弾を搭載可能な機体である。だが、この基地は、ウクライナがATACMS発射機を国境に据えない限り、ATACMSの射程範囲外にある。
クルスク州のクルスク空軍基地付近を含め、ATACMSの射程範囲内にある前方武装・給油地点[FARP]を、ロシアは相変わらず使用している。ただし、FAPRは多くの場合、ごく少数のヘリコプターしか駐機させておらず、攻撃が与える潜在的なインパクトは乏しい。
ロストフ・ヴォロネジ・ブリャンスク・クルスク・ベルゴロドの各州内に存在する軍用品保管庫、鉄道駅、弾薬保管庫は、ATACMSの射程範囲内にある。補給物資を積んだ列車を破壊することは、トロペツでの攻撃で見られたように、部隊の戦闘能力を阻害する。トロペツでの攻撃では、車両20両に被害を与えるか、破壊するかした。
状況として可能性の高いものに、砲弾輸送用列車の一編成が、有蓋車両10両と無蓋車両10両で構成されており、各車両が2つのコンテナを積載しているというものがある。とすると、一回の攻撃で、152mm砲弾を13,400発超分、破壊でき、さらに貨車と機関車も破壊できることになり、一時的にだが補給路を遮断できることにもなる。
私たちのチームはもっと多くの事例を特定できており、それには防空施設や訓練施設も含まれている。これに関しては、この連続投稿の末尾にリンク先を公開した私たちの報告書で、確認することができる。これらすべての要素と、攻撃が及ぼすインパクトを考えると、次の問いかけをしてしまうかもしれない。「どうしてATACMSを用いた攻撃にゴーサインが出ないのか?」
多くの人々が考えているのとは異なり、米国安全保障コミュニティの懸念の中心は、核エスカレーションにあるのではなく、米国のグローバルな国益に及ぼす、もっと広範な悪影響にある。とりわけ懸念されるのが、世界の重要地域における、敵対勢力とその代理勢力の力を強めることへのリスクだ。
典型例の一つとして、米国がミサイルを供与することへの対応として、ロシアが最新鋭ミサイル(P-800)とロケットの技術を、イランに、もしくはイエメンのフーシ派のようなイランの代理勢力に分け与えるかもしれないという可能性がある。これが現実化した場合、米国と中東における米国側国家への新たな脅威が発生することになりうる。
このシナリオは仮定的なものではない。実際にロシアはフーシ派に攻撃目標データを提供しており、それによって、フーシ派による国際海運に対する攻撃は容易になっており、西側諸国が数十億ドルに及ぶ悪影響を被る可能性というリスクが高まっている。
ロシアは北朝鮮との友好関係による利点を活用し続けており、ミサイル・電子戦・防空に関する技術を移転するという脅しを仕掛けている。ロシアは北朝鮮のICBM[大陸間弾道ミサイル]能力を強化することができるが、これは米国本土に直接的な脅威を与えるもので、ワシントンが無視できることではない。
私たちの情報源の一つが明かしたほかの要素もある。それはATACMSの被迎撃率だ。その数値は、私たちの報告書で確認できる。このことは米国当局者の間での懸念を増大させている。被迎撃率と一斉射撃回数の低さを考えると、どんなメリットよりもリスクのほうが上回るのではないかと、米国当局者は心配している。
これは、ウクライナの2023年夏季反転攻勢の際に生じた問題と合致している。当時、ストーム・シャドウを用いた攻撃は、作戦上の意図との連携に欠くことが多く、ミサイル攻撃をより大きな視点での作戦的見取り図に組み込む能力がウクライナに乏しいことを示す結果になった。
このようなことは正当な懸念であって、簡単に見過ごすことはできない。米国の安全保障コミュニティにとって最優先事項は、米国の安全を守ることである。大事な問題は、ウクライナがロシア領内の航空基地を攻撃する際にATACMSを用いることの潜在的なメリットが、そうすることのリスクを上回るかどうかにある。
米国がすでに多くのミサイルを供与していることを踏まえると、攻撃許可とあわせてさらにミサイルを提供したとしても、当然ながら戦略的状況の変化は期待し難く、リスクとメリットのバランス関係は、魅力的なものではないということが明白になる。
だが、消耗戦が単一の攻撃で決定づけられることは、ほとんどないといえる。そうではなく、消耗戦は行動の累積によって流れが形づくられ、その行動の累積が徐々に双方のバランスを変化させていく。ゆえに、訓練施設・ヘリコプター・近接支援航空機・保管庫・S-300ミサイル部隊を破壊することは、疑いようもなくメリットがある。
滑空爆弾と航空基地に世間の注目が集めることは、生産的ではなかった。ウクライナが戦争に敗北しつつある理由は、滑空爆弾のせいではない。ATACMSの利点は何らかの戦略的枠組のなかで評価検討されるべきだ。なお、戦略的枠組というものは、ATACMSのような兵器システムを、より大きいな視点での、現実的な作戦計画のなかに組み込むものだ。
このことは、ウクライナ政府がいくつかの課題に取り組まねばならないことも意味している。なぜなら、ウクライナはATACMSを用いるような作戦がもたらす利点を、米国側に伝えることが、現状、できていないからだ。そして、ATACMSの供与に関連するリスクを背負うことになるのは、米国側なのだ。
この議論を真剣に受け止めるつもりである場合は特に、私たちはATACMSに関連するリスクを認識しなければならない。これが私たちのチームの結論だ。滑空爆弾とATACMSという問題に固執するのではなく、ウクライナが直面している課題の根底にあるものを取り扱う、もっと広い視野での議論に焦点を移行すべきだ。
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