本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年12月1日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
(記事サムネイル画像:ウクライナ国防省“Armyinform”記事より)
ウクライナ軍の冬の態勢
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
ウクライナにウォロディミル・ゼレンシキー大統領とウクライナ軍総司令官ヴァレリー・ザルジュニー大将はともに、ウクライナ戦域の各所で同国軍の防御力を増強し、陣地強化を進める意図をほのめかしたが、注目すべき点として、現在進行中もしくはこれから進めていく防衛措置の議論にザポリージャ州が含まれていなかったことがある。11月30日のゼレンシキーの発表によると、ウクライナ軍は戦線上の重要方面すべてで陣地強化を進めていく予定であるとのことだ。ゼレンシキーが述べた重要方面には、クプヤンシク〜リマン線、北部諸州、ウクライナ西部、ヘルソン州が含まれるが、特に強調された地区はアウジーウカとマリインカの両方面、そして、それら以外のドネツィク州であった。この発表に加え、ゼレンシキーはさまざまなウクライナ軍作戦集団司令官との会議を開き、アウジーウカ方面とマリインカ方面のウクライナ軍防衛作戦に関して協議した。一方で、ザルジュニーは米軍統合参謀本部議長チャールズ・ブラウン大将と、クプヤンシク、リマン、バフムート、マリインカの各方面におけるロシア軍攻勢に関する協議を行った。ゼレンシキーとザルジュニーの発言から、ウクライナ軍がとりわけ防御に重点を置いている戦線地区が明確に分かる。それはハルキウ・ルハンシク州境(クプヤンシク〜リマン)、ドネツィク州の大半(おそらくバフムート方面とアウジーウカ〜ドネツィク市方面を示していると思われる)、そしてヘルソン州であるのだが、注目すべきなのは、ザポリージャ州方面への言及がなかったことだ。このことは、ウクライナ軍はザポリージャ州で防衛態勢に移行していないことを示唆している。ゼレンシキーとザルジュニーの発言内容は、ロシア軍の動向に関するISWの評価内容とおおむね一致している。ISWの評価とは、ロシア軍は遅くとも11月中旬からウクライナで戦域レベルの主導権を取り戻そうと努めており、そのための手法として、ウクライナ軍が主に防御態勢に移行しつつある地点で、同時並行的な複数の攻勢作戦を実施している、というものだ。また、上述の情報とはつながりのない12月1日付AP通信インタビュー記事のなかでゼレンシキーは、冬の気候が前線に及ぼすと思われるさまざまな影響に重なるかたちで、ロシア軍がウクライナの重要インフラへの激しく集中的な空襲作戦を再開する可能性は高いという注意喚起をしている。