Russian Offensive Campaign Assessment, December 23, 2024, ISW ⬇️
ウクライナ戦況分析:ドネツィク州ポクロウシク方面
◆ 戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
ロシア軍はポクロウシク[Pokrovsk]から南方と南西方向の地点で、少しずつだが前進を続けている。しかし、ロシア軍がこのような戦果を活用して、ポクロウシクを包囲できるかどうか、あるいは、ドネツィク州の州境まで前進するつもりなのかどうかは、依然として不明である。12月23日に公開された撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍が最近、ノヴォヴァシリウカ[Novovasylivka]から南の方向と、ノヴォヴァシリウカ東部内で前進したことが分かる。それに加えて、ロシア軍事ブロガー・アカウントの一つの主張によると、ロシア軍はノヴォヴァシリウカから北の方向で、ソロネ[Solone]とヴォウコヴェ[Vovkove]に向かって前進し、現在、コトリネ[Kotlyne]方向で攻撃を進めているとのことだ。クレムリンに後援されているロシア軍事ブロガー・アカウントの一つは、ロシア軍が現在、攻撃の重点をノヴォトロイツィケ[Novotroitske](ノヴォヴァシリウカから東の方向)とダチェンシケ[Dachenske](ポクロウシクから南の方向)に置いており、ウクライナ軍をリシウカ[Lysivka]~ピシチャネ[Pishchane]線(ポクロウシクの南東方向から南方にかけての地点)へと後退させたと主張した。この軍事ブロガーの見解によると、ロシア軍はまたプスティンカ[Pustynka]とプシキネ[Pushkine](ともにポクロウシクから南の方向)から、ウクラインカ[Ukrainka]に向かっても前進中であるとのことだ。ISWが以前に提示した評価分析は次の内容だ。ロシア軍統帥部はポクロウシクの南方からの迂回攻撃によって同市を包囲する意図をもっている。その一方で、ポクロウシクから南西方向の地点におけるロシア軍の前進は、ロシア側支配下の突出部を広げる目的を有している可能性もある。その目的は、南側からポクロウシクを包囲する準備のためでもありうるし、それとは別の意図として、クレムリンの政治的かつ情報工作的目標であるドネツィク州全土占領を達成する一環として、ドネツィク・ドニプロペトロウシク州境へと進撃するための準備ということもありうる。
ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが、重要な居住地域の占領よりも地理面積的な拡大をロシア軍に命じている可能性があり、ロシア軍統帥部が今後、どちらの取り組みを優先していくのかは、依然として不透明である。プーチンは12月19日に開催された毎年恒例の国民対話の際、ロシア軍が前線のいたるところで「100メートル、200メートル、300メートル」といった単位ではなく、数平方キロメートルという単位で前進していると述べた。そして、プーチンはロシア軍の進撃を、以前そうしていたように特定の居住地域の占領で際立たせる代わりに、平方キロメートルという観点で特徴づけることが増えている模様だ。とりわけロシア軍がドネツィク・ドニプロペトロウシク州境に近づいているなか、プーチンが、野外地域と小集落に進んでいくことで占領地をさらに広げていくことを優先して、ポクロウシク占領を遅らせるようにロシア軍統帥部に命じている可能性がある。ロシア軍がドネツィク・ドニプロペトロウシク州境から10キロメートル以内に位置していると評価するのに十分な、位置確認可能な証拠情報を、ISWは確認しており、プーチンは現時点において、ポクロウシク包囲よりも州境への進撃を進めることを、ロシア軍統帥部に強要している可能性がある。ドネツィク州内の未占領地域を制圧することは、ウクライナにおいてプーチンが以前から目標にしているものの一つであり、もし州境まで進めた場合、国内外に向けて、ウクライナにおけるロシアの成功を誇大に主張するために、州境まで前進できたことを、プーチンが際立たせて示そうとする可能性は高い。国際的な舞台でロシアの軍事的勝利の必然性を示そうとクレムリンが取り組んでいる重要な局面にあるなか、入念に防御された都市に対して、組織的な攻勢作戦を行うことは、ロシア軍の進撃ペースを鈍らせる可能性がある。
ロシア軍統帥部はポクロウシク方面の管轄を、中央軍管区の第2諸兵科連合軍(CAA)と第4CAAに分割した模様だ。なお、ISWは第41CAAの管轄地域(AoR)における著しいロシア軍の動きを、今のところ確認していない。ウクライナ人軍事ウォッチャーのコスチャンティン・マショヴェツの指摘によると、ロシア軍統帥部は主に、ポクロウシクから南の方向に第2CAA隷下部隊を集結させ、ポクロウシクから東と北東に位置するミルノフラド[Myrnohrad]方面とノヴォエコノミチネ[Novoekonomichne]方面に、第90戦車師団以外の第41CAA隷下部隊を集結させているとのことだ。なお、第90戦車師団はポクロウシクから南の方向のノヴォトロイツィケ付近で、ノヴォオレニウカ[Novoolenivka]とウクラインカ(ノヴォトロイツィケから南の方向)に向かって、主に攻撃を続けているとのことだ。第2CAAがノヴォトロイツィケからリシウカ[Lysivka]にまで広げられた、より広域なAoRを任されていると、マショベツは指摘している。また、マショベツは、ロシア軍統帥部が近々に第41CAAをポクロウシクから東と北東の方向で活動させる準備を進めている可能性があることも指摘している。ロシア軍第433自動車化狙撃連隊(第2CAA第27自動車化狙撃師団)と第228自動車化狙撃連隊(中央軍管区第41CAA第90戦車師団)に加えて、おそらく第15自動車化狙撃旅団(第2CAA)が最近、ノヴォトロイツィケ~シェウチェンコ[Shevchenko]~ノヴィー・トルド[Novyi Trud]~ダチェンシケ線に沿って、さらに西へと進むことに苦戦していると、マショベツは述べている。2024年10月末以降、ロシア軍は第41CAAのAoRと伝えられている地域において、比較的活動が低調な状況が続いていた。そして、ロシア軍がポクロウシクをその北東方向と南西方向の両方から包囲するつもりでいる場合、同軍はノヴォエコノミチネとロディンシケ[Rodynske](ともにポクロウシクから北東の方向)の方向で、かなり大きく前進せねばならなくなる。ポクロウシクから東と北東の方向における活動の程度が比較的低調であることは、ロシア軍統帥部が現在、ポクロウシク包囲よりもドネツィク・ドニプロペトロウシク州境への進撃のほうに優先度を高く置いている可能性を示唆している。
ロシア軍の戦闘能力の低下が、ポクロウシク方面におけるロシア軍の進撃ペースを鈍化させつつある可能性がある。マショヴェツはロシア軍第90戦車師団隷下部隊がかなり大きな人的損失を被っていることを示唆したうえで、戦闘能力が低下したため、ポクロウシクから南の方向とクラホヴェ[Kurakhove]から北の方向でさらに前進することに、ロシア軍が現在、苦労していることも、マショヴェツは示した。第90戦車師団に所属する部隊は2024年2月のアウジーウカ占領戦に参加していたと伝えられており、それ以降、トレツィク、ポクロウシク、クラホヴェといったさまざまな方面に投入され続けてきた。ウクライナ軍旅団の将校の一人が最近示した試算によると、2024年12月中旬の2週間でロシア軍はポクロウシク方面において3,000人近くの兵力を失っているとのことだ。そして、第90戦車師団がポクロウシク方面と、そことは別の以前投入された方面において、かなり大きな人的損失を被ってきた可能性は高い。ロシア軍統帥部は第90戦車師団を、2024年において使い勝手の良い部隊の中心と、主にみなしていることもあり、ロシア軍統帥部がこの1年間に休養と再編成を目的とした長期にわたる戦線離脱期間を、この師団隷下の各種部隊に与えていた可能性は低い。第90戦車師団のAoR範囲内に位置するウクライナ東部において、ロシア軍が民生車両を用いた自動車化部隊による攻撃を行った様子が映っている撮影地点特定可能な動画を、ISWは最近、目撃している。このことは、第90戦車師団も装甲車両の損失の埋め合わせに苦慮しながら、前線での戦闘に従事していることを示唆している。
※ISWが参照している情報源を確認したい場合は、報告書原文の後注[1]~[13]に記載されたURLにアクセスしてください。
◆ 報告書原文(英文)の日本語訳箇所
ウクライナ戦況地図(戦争研究所)
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