はげしく怒る

Nくん、Mちゃん、Rちゃんとどこかへ遊びに来てる。
他にもう1人、DJふぉいを僕らくらいに歳をとらせたような、初めて会うダンディーな男性がいる。

Mちゃんは初音ミクと竈門炭治郎を足して割ったような格好をして、耳の上3センチくらいまで剃り上げて、残した髪の左半分を明るいオレンジ、右半分をやはり初音ミクのような緑青色に染めている。
Nくんはそれを古く感じてるけど、Mちゃんは気に入ってる様子。
明日から服飾系の学校に通う、とハイテンションでRちゃんに話してる。

公営の小さな植物園の温室のようなところ。
Rちゃんと僕は、何かの受け付けを待つ列に並んでる。
先にRちゃんの番が来て、すぐに終わり、僕の番。
冷たい印象の女性の係員に申込用紙を手渡し、挨拶する。
折りたたみ式の会議机をはさんで、ふたりとも立ったままで話し始める。

「それで、どうしました?」
「私は5年程前から体調不良が始まり、きょ、きょう、きょう、、」
「大勢の人の相談を受けないといけません。相談内容はしっかりまとめてきてください。今日は特に相談者が…」
「きょ、強迫性障害だと分かりました! それと、II型の躁うつだと。」
「あぁ、なら仕方ないですね。それで?どんな家に住んでますか?」
「え?家、ですか?」
「用紙に書いてないから聞いてるんです。必要なことは書いてもらわないと困ります」

普段の僕なら、必要事項を書き漏らすことはない。
書く欄があったなら、書かなかったのは用紙が不親切な体裁だからだろう。

女性の言葉と態度でスイッチが入った。
肚に意識が集まって、眉間がうずく。
周りの空気が電気を帯びて、全身の毛は逆立ち、視界がゆがむ。
「木造2階建ての賃貸だよ! 家賃●万円のおんぼろ賃貸だっ!!!」
驚くほどの大声が頭蓋骨で共鳴して、頭頂部から放たれた。
全身がビリビリして、僕と女性の間でスパークした。

会議机の足はひしゃげ、鉛筆やボールペンが粉々に割れて散らばってる。
女性はその向こうで、目をひんむいて尻もちをついてる。
後ろを向いて会場を見わたして、深呼吸した。

気を取り直して振り向くと、女性がいない。
会場を探し回ると、バックヤードで用紙を整理してる。
「さぁ、続きを」
と話しかけると、女性は怯えた顔でこちらを凝視して、返答がない。

10秒ほどの沈黙のあと、
「あなたの相談はもう終わりです」
という他の係員の声が聞こえた。
納得いかなかったが、静かに温室を出た。

Rちゃんは温室の外で待っていた。
「Nくんたちどこに行ったかな」
「多分ここだろうと思うところがあるから行ってみよ」

こんな事のあとで楽しく話せるのかな、と心配になった。

おわり


目を覚ましてすぐにスマホで時間を確認した。
2時22分だった。
怒るとたいてい後味の悪さが残るけど、なかった。
エネルギー放出の強烈な爽快感と、全身のだるさが印象的だった。

いいなと思ったら応援しよう!