シンギュラリティ
コパアメリカに参戦していたメキシコ代表がグループリーグで敗退したとのことである。
メキシコ代表、サッカーメキシコ代表。
日本のサッカーファンで「日本代表はヨーロッパ・南米の大国はとりあえず置いといて、まずその手前のメキシコ代表に追いつくことを目指すべき」と唱えていた人は多かった。体格が日本人に近いのにW杯で毎回それなりに存在感を残したり、いわゆるメガクラブでやれる選手を継続的に輩出できていたことが理由である。
当時の常識・通念からするとものすごく妥当性のある意見で、右も左も分からないアホが「世界トップのブラジル代表を目指せば絶対うまく行く!」と鼻水垂れ流しながら唱えるのに比べて「俺らは敢えて世界トップからはちょっと低めのメキシコ代表に注目するけど?」的な”玄人じゃないと理解できない臭”も相まり根強い意見だったと思う。細かな、具体的な、細部を詰めるような、「どうしたらメキシコ代表みたいになれるか?」の議論が専門誌や居酒屋で数年続いた。それが、である
冨安→アーセナル主力
久保建英→バルサ、マドリーを経由しスペインの上位クラブでレギュラー。かつプレミア上位クラブからの補強対象
遠藤→リバプールレギュラー
伊藤洋輝→純粋なガチ戦力として、他に取られないためにシーズン終了直後に慌ててバイエルンが契約
南野→モナコの年間MVP
長谷部→ブンデスで40歳までプレーしそのままクラブのフロント入り
代表→W杯本戦でドイツとスペイン撃破しGL首位
なんもしてないけど気付いたらメキシコ越えちゃってた。。。
全然意味がわからない。俺たちが散々してたあの議論はなんだったのか。議論してるテーブルを横目に、選手達はその上の領域をスイスイメガクラブへと飛んで行った。
現状をなんとかワンランク上に引き上げようとする現場の俺たちの苦悩や葛藤、もがきは無意味であった。なんか知らんけど気付いたら上がってた。つらたん😢
語学界隈(≒英語界隈)にとってもこの数年のAIによる現状認識の刷新は著しい。
もともとAIどうこう以前に(AIの話が登場する以前から)、純ジャパの英語学習者や一般英語講師にとって教材・アプリのアップデート、「何か新しいいいものは出てないか?」にアンテナを張っておくのは常であった。
その結果、2020年頃までに一つの大きな転換が起きていた。
簡単に言うと「メイン教材について:ほぼ紙の本で勉強→一部はスマホアプリメインに代替」という転換である。
2020年ぐらいまでは多少使えるアプリがあったとて、言うても紙の本で学習するのが主体であった。しかしこの時期を境に突然アプリたちのクオリティが上がりさすがに無視してるわけにはいかなくなってきた。
特に例文暗記・音読・シャドーイング・和訳翻訳などのエリアで顕著であった。この時期のアプリたちの向上はすさまじく、とりあえず現場の人間にとっては「十分シンギュラリティ(に思えた)」レベルであった。
なので5年10年と紙の本主体に自分の勉強スタイルを作り上げてきた学習者にはこれらのアプリ導入がとてもしんどかった。
わかりやすい例で言うと「電卓に慣れきった人の前に突如登場したエクセル」みたいなことである。
「今ノウハウゼロからどっちのやり方を選ぶか?」と問われたら絶対に新しい方が効率がいいのである。やり慣れたやり方を捨てる苦痛に耐えながら、その事実を知ってる人間は必死にアプリ導入を進めた。
それが、である。恐らく2年3年、長らく苦痛に耐えながらこの大きな刷新に対処した。それでドカンと自分の学習スタイルが改められ、当面の間この「紙の本+使えるところはアプリ」というやり方でイケるはずだった。そう信じていた。
ところが、ですよ。。。
AI「あれ?俺また何かやっちゃいました?σ(^_^;」
じゃねえよテメえ💢
胃が痛くなるのを我慢してひいこらひいこら言いながら必死に新しいツールの使い方憶える人間の苦労をナメるなよ💢こっちがその気になりゃ地球丸ごと木っ端微塵にすることも可能なんだぞ💢
恐ろしい。「この後10年は戦える( ・`ω・´)キリッ」という腹づもりでせっかく取り入れた「アプリ導入」という刷新がたった3年でもう次の転換を求められてしまった。
しかも今回の転換はこれまでのものとは次元が違う。たとえば「whileを使った分詞構文の例文を5つ出して」「人が主語でat the expense of を使った例文を5つお願い」と打てばダーッと正しい例文が出てくる。
今までは同じアウトプットを出すのにもまず当該単語/熟語を使いこなせる人間があれこれ考えて5つ案を出し、さらにそれをネイティブチェックにかけてようやくできた次第である。それでほんの数秒でできてしまう。とんでもない。
AI登場の余波はそんなもん止まりではない。すでにAI英会話というものが実用レベルで使えるようになってる。小耳に挟んだ程度だがもうすでにその影響で株価が1/10になったり廃業を検討するオンライン英会話スクールが出始めてるとのことである。
他にも「違うニュアンスってことはわかるんだけどその違いを説明できない表現」についてAIに質問すれば具体的な例文を交えて、上位の英語講師しかできない文法事項の説明をクリアにかましてくれる。「定食屋に行ってカツカレーを頼んだら+刺身+ラーメン+ミニチャーハン+チキンカツ+豚しゃぶサラダ+小籠包が出てきた」みたいな話。おいテメえオモウマい店かよ!!☝ まさにシンギュラリティそのものである。
自分がいるその場その時代で考えや経験を積み上げることは必要だ。ある程度の立場を得た社会人でこれに反対する人はいないと思う。でも1枚の巨大なカーペットの上で生み出された多様な議論や発展を、後に生まれた突如とした何かがそのみんなが載ってるカーペットごと丸々ひっくり返してしまう。抗いようがない。とんでもないことだ。
何と言うか、こういう事態を受けて、数学で学んだ「連続関数か離散関数か」というイメージが湧き上がってくる。「連続関数だ」と思って自分の足下、道筋をずっと見ながら進んでいたら気付いていたらブッツリ切れていた。よくわからなくて戸惑い、ふと上を見たら、その続きに自分の場所とは繋がっていないグラフが描かれていた。だから僕は現実がよくわからなくてパニックになった。そういう感じ。やはり数学は人生にとても有用だ。
10年以上携帯電話市場で世界の覇権を取っていたノキアの社長が、突如登場したiPhoneにブチ抜かれ根こそぎ何もかも焼け野原にされて言った言葉がとても含蓄深かった:
「コツコツやって世界を取り、その手腕が方々から絶賛されたからそのままの通りやってたら気付いたら失敗していた」
ポルナレフ乙、である
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40を越えた人間にとって生きるのは大変である。まずそれまであるのが当たり前だと思っていた健康がおびやかされてくる。親の介護も現実的な話となり降りかかる。それだけで十分弱ってるところに「横からクロコダインの斧」的な感じで降りかかってくるのがシンギュラリティである。はあ。40を越えた人間にとって生きるのは大変である。
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