見出し画像

意志を継ぐ

古くから続く由緒ある病院の院長、黒川玄一郎は、名医として名を馳せていました。しかし、彼には悩みがありました。一人娘の優香が、医者になる道を頑なに拒んでいたのです。

「優香、お前は私の後を継いで、この病院を支えていくんだ。」 玄一郎は幾度となく優香を説得しようとしましたが、優香の意志は変わりませんでした。優香は、絵を描くことに情熱を燃やし、画家になる夢を抱いていたのです。

「お父さん、私は医者にはなりたくない。私は私の人生を歩みたいんだ。」

優香の言葉に、玄一郎は落胆しました。しかし、優香の夢を応援したい気持ちもありました。葛藤の末、玄一郎は優香にこう告げました。 「わかった。お前が本当に望む道を進みなさい。ただし、お前の子どもが医者になることを約束しなさい」 優香は、父の言葉に感謝し、画家になる夢を追いかけるために家を出て行きました。

数年後、優香は画家として成功を収め、個展を開くまでになりました。しかし、ある日、優香は玄一郎が倒れたという知らせを受け、急いで病院に戻りました。 病床の玄一郎は、優香にこう言いました。

「優香、お前は立派な画家になった。私は嬉しいよ。しかし、この病院は後継者がおらず、閉鎖の危機に瀕している。お前も早く結婚して子どもを産み、孫が医者になって、この病院を救ってくれないか。」

優香は、父の願いを聞き、悩みながらも結婚する決意をしました。しかし、その理由が子どもの人生を自分たちの価値観の押し付けであることに気づいていなかったのです。

優香は、父の願いを叶えるため、結婚相手探しを始めました。しかし、心の中では、自分の夢を諦め、父の期待に応えるために結婚するという現実に、どこか納得できない気持ちを抱えていました。

そんな中、優香は、幼馴染の拓也と再会しました。拓也は、優香の絵の才能を高く評価し、常に応援してくれる存在でした。二人は、昔のように心を通わせ、お互いに惹かれ合っていきました。

ある日、拓也は優香にプロポーズしました。

「優香、僕と結婚してくれませんか?君を心から愛しているし、君の夢を応援したい。」

優香は、拓也の言葉に心を打たれました。しかし、父の願いと拓也への想いの間で、心が揺れ動きました。

悩んだ末、優香は拓也に正直に打ち明けました。
「拓也、私はあなたと結婚したい。でも、父は私の子どもに医者になってほしいと願っているの。私は、自分の夢を諦めて、父の期待に応えるために結婚するべきなのかと悩んでいるの。」

拓也は、優香の言葉に静かに耳を傾けました。そして、優しく微笑みながら言いました。

「優香、君の気持ちはよくわかった。でも、僕は君を愛しているからこそ、君の幸せを願っている。もし君の子どもが医者になることを望んでいないなら、無理に医者にする必要はないと思う。君の子どもが、自分の好きな道を選べるようにしてあげればいいじゃないか。」

拓也の言葉に、優香は救われたような気持ちになりました。そして、拓也のプロポーズを受け入れ、二人は結婚しました。

数年後、優香は二人の子どもを授かりました。優香は、子どもたちに自分の夢を押し付けることなく、自由に好きな道を選べるように育てました。

一方、玄一郎は、孫たちが医者になることを期待していましたが、優香夫婦の考えを尊重し、孫たちの意思を尊重することにしました。

そして、玄一郎は、優香が描いた家族の肖像画を眺めながら、静かに息を引き取りました。肖像画には、優香と拓也、そして二人の子供が、笑顔で寄り添う姿が描かれていました。

優香は、父の死を悲しみながらも、自分の人生を歩み、家族の幸せを築くことができたことに感謝しました。そして、これからも、自分の夢を追い続け、子供たちの夢を応援していくことを誓いました。

優香は、二人の子供たちが自由に好きな道を選べるように育てました。長男の一輝は、絵を描くことが好きで、母である優香の影響を受け、画家を志すようになりました。一方、次女の美羽は、幼い頃から体が弱く、病院に通うことが多かったため、医師という職業に興味を持つようになりました。

ある日、美羽は優香に打ち明けました。

「お母さん、私、お爺ちゃんみたいな立派なお医者さんになりたい。」
優香は、娘の言葉に驚きながらも、嬉しさと複雑な気持ちが入り混じりました。自分が叶えられなかった父の願いを、娘が叶えようとしていることに、運命の皮肉を感じながらも、娘の夢を心から応援したいと思いました。

「美羽、それは素晴らしい夢ね。お母さんは、あなたがどんな道を選んでも応援するわ。」

優香は、美羽の夢を応援するため、医学部受験のサポートを始めました。美羽は、持ち前の努力家精神と、優香のサポートのおかげで、見事医学部に合格しました。

一方、玄一郎の病院は、閉鎖後も地元の人々から愛され続け、建物の老朽化が進んでいたものの、取り壊されることなく残されていました。優香は、娘が医者になることを決意した時、この病院を再建することを決意しました。

優香は、自身の貯金と、地元の人々からの寄付金を募り、病院の改修工事を始めました。そして、美羽が医学部を卒業する頃には、病院は以前よりも modern な設備を備えた、新しい病院として生まれ変わりました。

美羽は、卒業後、この病院で働き始めました。彼女は、持ち前の優しさと、患者一人ひとりに寄り添う姿勢で、たちまち人気のある医師となりました。

そして、美羽は、ある日、優香に打ち明けました。

「お母さん、私、医者になって本当に良かった。この病院で働くことができて、本当に幸せ。」

優香は、娘の言葉に涙を流し、心から喜びました。そして、父である玄一郎の遺影に向かって、心の中でこう呟きました。

「お父さん、見ていてください。あなたの願いは、娘によって叶えられました。そして、私は、私自身の夢も叶えることができました。私たちは、それぞれが選んだ道を歩み、幸せになることができました」

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #ショートショート#パンダ大好きポッさん #名も無き小さな幸せに名を付ける

いいなと思ったら応援しよう!

紀州鉄道とパンダが大好きポッさん
オススメをお願いします。