怖い夢
「やあ、ずいぶん早起きね」台所で朝食の準備をする男に、女は声をかけた。階上から降りてきた彼女は、先ほどトイレに立ったのだろう。
「ああ、悪い夢を見てしまってね。目が覚めてから、怖くて眠れなかったんだ」
「あらまあ。悪い夢は人に話して、早く忘れるに限るわよ」
他人事のような口調に、男は苦笑した。
「大勢の人が乗っているエレベーターになんとか駆け込んで、『早く、早く』とドアを閉めるボタンを連打しているんだ」
「あなたにしては珍しい行動ね」
「そうなんだ。ドアが閉まりかけた時、まだ乗ろうとしている人が目に入ったのに、無視してしまったんだ」
「ふうん、それが怖いことなの?」
「いや、違うんだ。エレベーターが動き出して、次の階で止まって、ドアが開くと、目の前は真っ暗闇で、君がそこに立っていたんだ」
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