皮肉な自由(神)
男は「神」と名乗った。しかし、ここは天国でもなければ、神の国でもない。高い塀に囲まれた矯正収容所だ。鉄条網が張り巡らされ、監視塔には銃を持った看守が目を光らせている。
政府の定めた「正しい生き方」から外れた者たちが、ここで「教育」の名の下に再調整される。怠惰な者、反抗的な者、社会に貢献しない者...。彼らは「劣等生」の烙印を押され、自由を奪われた。
神と名乗る男は、そんな収容者たちに語りかける。「続けるとは、今を全力で生きることです」
宗教じみた言葉に、男の目は狂信的な光を宿す。痩せこけた頬、長い髭、ボロボロの衣服。その姿は、まるで荒野を彷徨う預言者のようだ。
「自分の価値観を信じて押し付けでは無い、多様な価値観の融合を伝え続けるのです」
しかし、男の言葉は空虚に響く。
この場所で許されるのは、ただ従うことだけ。朝6時の起床、規律正しい食事、単調な労働、そして毎晩の自己批判。個人の意志は徹底的に否定され、画一的な価値観が押し付けられる。
多様な価値観など存在しない。
あるのは、ただ「神」と名乗る男の価値観のみ。男は自らを絶対的な存在と信じ、他の価値観を異端とみなす。
男は続ける。
「続けるとは、今を全力で生きることです」
しかし、それは誰のための「全力」なのか。
男の言葉は、この監獄に囚われた者たちの心を蝕んでいく。絶望に打ちひしがれた者、怒りに燃える者、狂気に陥る者...。
それは、救済ではなく、新たな呪縛。
「神」と名乗る男の言葉は、この監獄に新たな闇を落とす。それは、希望の光を閉ざし、絶望の淵へと突き落とす。
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