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『褒めてくれてもいいんですよ?』 〜はじめに〜

「面白い人だと思われたい」「みんなを笑わせたい」という一心で、私はとあるコミュニティの会合に、クロワッサンのクッションをかぶって参加した。かぶるというか、クロワッサンの真ん中の窪みに無理矢理頭をはめ込んでいた。

初めて会う人が何十人もいる中で、どうにかして一発で私のことを「面白い人」として強烈に印象付けたいと思い、勇気を振り絞ったのだ。コミュニティ内で普段から「パンが好きです」とアピールしていたため選んだクロワッサン。枕のサイズくらいのクロワッサンをかぶっている以外は、黒髪にネイビーのワンピースという至って普通のいでたちで、特に何をするでもなく会が始まるまでの自由時間を、ただパイプ椅子に座って静かに待っていた。

みんな私の頭を見てざわざわしている。当然だ。
「さあみんな、笑っていいんだよ! どんどん話しかけてきて!」
そう思ってじっと待っていたけれど、誰も話しかけてこなかった。
「なんで誰も話しかけてこないわけ? 私、クロワッサンかぶってるんだよ?」
冷や汗が流れてきた。だんだん恥ずかしくなってきて、もうこの場で爆発して消えられないかなとまで思えてきた。

「ウケる! 何かぶってるんですか?」を期待していたのに、全然だめだった。考えてみれば、着ぐるみキャラ的におどけていたりしたらまだ話しかける余地もあったかもしれないが、ただ静かに一点を見つめて座っているクロワッサンをかぶった人なんて、とにかく「近づかない方がいい」としか思われないだろう。通報されなかっただけまだよかったのかもしれない。どう考えても私が浅はかだった。人気者になりたかったのに、大失敗だった。

子どもの頃から静かに読書やゲームをするのが好きで、人とワイワイするよりも一人でいる方が心地良かった。小学校の休み時間は、教室の隅っこで一人もくもくと漫画を描いていた。妖怪に詳しい女性教師が生徒たちとともに怪事件を解決していくという、どこかで聞いたことのあるようなストーリーをふくらませ、自分の世界に篭って描くことに没頭した。明るく元気な同級生らがチャイムと同時にゴム跳びやドッジボールに飛び出していく様子を横目で見て「休憩時間なのにわざわざ疲れに行くなんてバカみたい」と悪態をついていた。

でも、本当は友達いっぱいの人気者たちがずっと羨ましかった。自分から「入れて」と言うことはできないけれど、校庭から帰って来た彼らが私の漫画を見て「なにこれ、面白いじゃん!」と言ってくれないかな、それをきっかけに私も人気者の仲間になれないかな、なんて夢見ていた。

期待もむなしく時は流れ、私はそんな面倒臭い羨望をこじらせたまんま大人になった。ブログブームの到来を機にインターネットで文章を書くようになり、部屋の隅っこで書くものは漫画からエッセイに変わったけれど、今も相変わらず「面白いじゃん!」のひと言を待っている。

友達が欲しい。認められたい。愛されたい。本心ではそう思っているのに素直になれない。どうにかして「面白い」と思われれば人気者になれるかも、と体を張ってはスベり倒し、キラキラして見える人気者に「別に羨ましくなんかないけど?」とひねくれた予防線を張り、その歪んだ承認欲求を飽きもせず書き続けている。

そんな姿をネットの海に垂れ流していたところ、このたび「エッセイを本にしませんか?」と声をかけていただき、恥ずかしながらこの欲望と自意識の葛藤を本にまとめることとなった。

子どもの頃からずっと欲しかった、書いたものを「面白い」と言ってくれる人たちがようやく現れたのだ。X(Twitter)のフォロワーは増え、SNSを通じて人と交流することもできるようになった。

それでも、まだ私は今の自分に「これでいい」なんて言えない。インターネットの世界では理想の自分に近づけても、現実の私はジメジメと暗く、勇気を出して頑張ってみても失敗ばかり。ついつい周りを見て、友達がいっぱいで仕事で成功していてキラキラと充実した毎日を生きていそうな人と自分を比べて落ち込んでばかりの毎日だ。結婚、出産を経ても、もっと認められたい、もっと愛されたいという気持ちは消えないどころか年々大きくなり、その結果、暴走して頭にクロワッサンをかぶったりしてしまう。

この本には、私が理想と自意識のはざまでウダウダしまくっている無様な様子をたっぷり詰め込んだ。「あんた、40年も生きてそれ?」と哀れまれるんじゃないかと不安ではあるが、私のように「愛されたい」を拗らせてしまっている人に「私だけじゃないんだ」「こんなふうに承認欲求をさらけ出して生きている人もいるんだ」と思ってもらえたら、とても嬉しい。

クロワッサンは結局、会が始まる直前のタイミングでしれっと鞄に仕舞った。


書籍『褒めてくれてもいいんですよ?』〜はじめに〜より


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