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本当は憧れていたアフタヌーンティーに一人で行ってみる
私はお茶の時間が大好きだ。毎日、10時や15時には「ちょっと休憩、お茶しよう」とコーヒーや紅茶とお菓子で気分転換をしている。一人で。
そんな私の目に、ここ最近しつこく入ってくるネットのある広告。
「この時期だけの限定メニュー、クリスマスアフタヌーンティー!」
「自分へのご褒美に! ストロベリーアフタヌーンティー!」
アフタヌーンティー!
アフタヌーンティーってあれでしょ? クラシックが流れる豪華なホテルで、上品なお紅茶と、3段重なった丸いケーキテーブルに美しく盛り付けられたスコーンや小さくて可愛らしいスイーツなどを、上品な服を着て「ウフフフフ」と優雅に嗜むやつ。
いやいや、お茶は大好きだけどアフタヌーンティーは……ねえ?
キラキラしたかわいい女子が複数人でフリフリした服着て「キャーかわいいー、美味しそうー」とかなんとか言いながら「かわいいスイーツとかわいい私」の写真を大量に撮ってSNSにアップするやつでしょ? あっち側の世界のイベントでしょ?
陰キャで品の無い私にはそぐわないよ。それに一人でどんな顔して食べればいいんだよ。そりゃあ私にも一人や二人くらい友達はいるけれど、一緒に行ってくれそうな人はいないし、なにより「ナミってアフタヌーンティーとか好きなの(その見た目で)プププ」と思われるのが恥ずかしい。
「そ、そんなの興味ないしっっ!」
とはいえこれだけしつこくSNSの広告で目にするということは、だ。
つまり私が本当は普段からめちゃくちゃアフタヌーンティーを気にしていて、無意識にその情報を見てしまっているということだ。バレてる! 恥ずかしい! 心を覗き見しないで!
本当のことを言おう。そう、実はずっと憧れていた。ずっと行ってみたかったんだ。スコーン大好き。スイーツ大好き。お茶時間大好き!
今年はやけに目に入った。そして天使だか悪魔だかが囁いた。
「素直になれよー。本当は行きたいんだろ? 出版頑張ったじゃん、ご褒美に行っちゃえば? 一人で高級レストランにも行けたんだ。アフタヌーンティーだってきっと行けるよ。」
よし、行ってみる! 一人で!!
早速「ヒルトン名古屋」で開催されているアフタヌーンティーの予約を入れた。ヒヒヒヒヒヒルトン…! 何着ていけばいいの? ドレス?
*
やってきた当日。12時30分というめちゃくちゃランチタイムの予約だが、これで今日1日の朝、昼、お茶を一回で済ませる。なんせ、5000円だから。さすがヒルトン。
最寄駅から数分歩いてヒルトン名古屋に到着。めちゃくちゃでかい。一体、何階まであるんだ? 空とヒルトンの境目を見上げると首が痛い。
一応、スニーカーはやめておいた。
高級ホテルでたびたび起こる、正規の入り口はどこ? ここはトラックの搬入口? タクシー専用? 反対側? というお約束のウロウロをかましていると、何やら紳士なスタッフさんが「ご案内しますね」とエスコートしてくださった。さすがヒルトン!
紳士の後ろにくっつき、たぶん正規の入り口ではないところから無事入店。名前を告げ、予約の席に着席した。
来てしまった、アフタヌーンティー。これから始まるファンタジーに胸が高鳴る。
周りを見回すと、女子女子女子、カップル、女子女子女子……。予想通り。女性ばかりだ。6人くらいの女子グループもいる。そして、一人で来ている人は見当たらない。くうー、やっぱり…!
なんだかみんなが私を見ている気がする。耳がかあっと熱くなるのを感じた。
いやいや、大丈夫。みんな自分のテーブルのかわいいスイーツに夢中だ。私は風景。
私は知っている。一人だと、この「手持ち無沙汰タイム」が一番苦痛なんだ。前にも味わったことがある。
自意識が無限に恥ずかしさを生み出してくる。早く何かやることをくれ。そう思ってジリジリしていると、スタッフがやってきて本日のメニューを説明してくれた。
今はいちごの季節のため「Strawberry Chocolate Factory」という、いちご尽くしのアフタヌーンティーらしい。やったね、いちご大好き!
紅茶やコーヒー、ソフトドリンクなどはいくらでもおかわり可能だ。よーし。ガブガブ飲んで、元をとるぞー!
とりあえず最初はスタッフさんおすすめの紅茶にしてみた。
「かしこまりました。少々お待ちください」
手元の紅茶メニューを隅々まで読んで待つことにした。やることができたからもう平気だ。こういう「待っている間」にはメニュー表の活字に頼るに限る。
へえー、紅茶ってこんなに種類があるのか。リプトンの黄色い紅茶くらいしか知らない私は、その豊富な種類にたまげた。今日は14種類もあるらしい。いろいろあるんだ。たくさん飲んで学んでみたいなあ! 紅茶に詳しくなったら、もっとお茶の時間が楽しくなるかも?
外に出てみると、こういう思いもよらない新しい世界に出会えるところがいいな。今まさに自分が新しい世界の扉を押し開いている手応えがして、ワクワクした。
すると……
きたー!
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夢にまで見た、アフタヌーンティーだ!! なんだか思っていたより現代的でおしゃれなケーキスタンドだぞ。丸いお皿が3段じゃないんだ?
ここぞとばかりに写真をパシャパシャと撮った。
これはさすがに撮っても「クスクス」とは思われないだろう。みんなやるでしょ? 恥ずかしくない恥ずかしくない。
あれ? なんなんだ、この器具は?
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紅茶のパックをカップから上げる的な…? もしくは、ケーキを運ぶための器具? だとしたら、この中のどれをこの器具で運ぶんだろう? ムースは、ぐちゃっと潰れてしまうんじゃないだろうか? グラスに入ったゼリーなんかは逆に器具を使うと落としてしまうんじゃないだろうか? そもそも縦に使うのか横に使うのか? ああ、無理してこの機械を使って失敗をした時の「クスクス、初めて使うのかな、やり方知らないのかなプププ」の視線が怖い。
そんな思いをするくらいなら、最初から全部、手でいこう。
「ワイルドでしょ、アフタヌーンティーは手で直接いく方が実は通なんだよ、お寿司みたいにね(嘘)」みたいな顔をして、堂々と手でいくことにした。君(謎の器具)は、このままここにそっとしておこう……。
さあ、ではいただこうではないか。……ん? これは、とんかつ?
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アフタヌーンティーって、とんかつとかもあるの!? 食事系ってサンドイッチとかなんじゃないの? でも嬉しい!
とんかつの上に乗っている何か(らっきょう?なわけない?)が、甘くて、酸っぱくて、しょっぱくて、シャキシャキした。
一口でいろんな味と食感と香りがするとか……とてもヒルトンぽい!
共有できる相手がいないので、とんかつが出てきても一人でニヤニヤするしかない。でもこれもまたじっくり味わえている感じがしてなんだか心地良い。
とんかつは一口で終わってしまった。さあこっからスイーツだ。どれからにしようかな?
(注:後日調べたところ、こちらはとんかつではなくハムカツでした!)
そうだ。一人だから、じっくり自分の好きなペースで楽しめるんだ。好きなだけ美しさを眺めてもいいし、全部を一口ずつ順番に齧るなんていう貴族みたいな食べ方もできる。
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1つずつ細部までこだわったクオリティの高い小さなスイーツを、ちょっとずついろんな種類食べられるなんて、たまに見聞きするセレブの自慢小話みたい!
油断するとすぐに「みて、あそこ! 大きくて黒い無愛想なおばさんが1人でかわいいアフタヌーンティー楽しんでるよクスクス!」と周りに思われているかもしれないという自意識がよぎるけれど、ブンブンと首を横に振り、目の前のスイーツと自分の幸せに集中した。
一皿ずつ下げられて次の一皿を待つコース料理と違い、アフタヌーンティーは全部が目の前にあるから、ずいぶんと気が楽だ。
おお! いいじゃん、ソロアフタヌーンティー!
だんだん楽しくなってきた! 貧乏出身の私からすると、このラグジュアリーな空間にいるだけでも既にとても贅沢な気分だけれど、5000円分のお菓子を1度に全部食べてしまうなんて、ものすごい豪遊だ。
ケーキなんて1ヶ月のご褒美として月末に1個でしょ? なんて後ろめたいんだ!
いいんだ。私、去年、頑張ったもんな! これでまた、今年も1年頑張るんだ!
きっと周りは誰も他人(わたし)のことなんか気にしていないと信じ、いちごアフタヌーンティーを心ゆくまで楽しんだ。
なんだよ。もっと早く正直に体験してみればよかった。もったいなかったな。これから紅茶のことを知っていく楽しみもできた。
私にはきっとこのアホみたいな自意識のせいで楽しめていないことがまだまだたくさんあるんだろうな。
こうなったらもうどんどん挑戦していこう。
一人高級ランチに、一人アフタヌーンティ。次は、何を一人で体験してみようかな?
私はこれからまだまだ楽しいことをたくさん体験できるんだと思うと、帰り道の名古屋の空は、もっと高く、青く、広く見えた。
*
そういえば、あの謎の器具は結局なんだったんだろうか……
私のテーブルを片付けたスタッフの人は「あの人、これの使い方わかんなかったんだクスクス」と思ってなければいいけれど……
おしまい
*撮影・掲載許可を得ております
【今回お邪魔したお店】
ヒルトン名古屋
インプレイス3-3(1階)
レストラン予約 TEL: 052-212-1151
鮮やかな赤色が映えるいちごのスイーツやセイボリーをお楽しみいただけるいちごアフタヌーンティー「Strawberry Chocolate Factory」は2025年1月9日(木)~3月9日(日)の期間でお楽しみいただけるようです。