鈴蘭の剣・運命の螺旋という実質コンシューマ系フルプライスSRPG(まじでプレイ無料)世界の紹介
「鈴蘭の剣」はXD Entertainmentが運営するソーシャルゲームだ。
日本版は2024年8月にリリースされたばかりの作品であり、日本の名作オールドゲームである「タクティクスオウガ」への熱いリスペクトがあるなどで話題になった。
ユーザーによる噂レベルではなく公式がそういった趣旨でのマーケティングを展開し、「タクティクスオウガ」開発者との対談動画なども公開している。
対談動画:
実際に1ヶ月ほど遊んでみて、なるほどこれは『普通のソシャゲではない』という感想に到った。
本作品は『ソシャゲとしてのゲーム部分』と『実質コンシューマゲームな部分』が別個に格納されているという非常に特殊な構造を有していた。
本記事では『実質コンシューマゲームな部分』の方をメインに「鈴蘭の剣」という作品を紹介してみたいと思う。
●オープニングからの誘導はソシャゲパートへ
ゲームスタートすると、記憶を失った主人公がラヴィア・マイサ・ファカールという3人組と出会うオープニングイベントが開始される。
大暴動の真っ只中という胡乱なシチュエーションから物語は始まり、すぐさま衝撃的な展開を迎える。
それにより主人公たちは『楽園』と呼ばれる不思議な場所へ辿り着くことになるのだが……。
この『楽園』での冒険がソーシャルゲームとしての「鈴蘭の剣」のメインコンテンツとなり、プレイヤーはチュートリアルとして『愚者の旅路』を案内されることになる。
しばらくプレイしておそらくこう思うだろう。なるほど普通のソシャゲだと。『愚者の旅路』は非常によく出来たコンテンツだが、ストーリーラインは断片的でややわかりにくく、いかにもなソシャゲ感も強いため元々それが目的であれば問題はないが、往年のコンシューマSRPGのようなゲームが遊べるという噂を聞きつけて開始したプレイヤーはここで少し落胆するかもしれない。
その要素は別のコンテンツとして切り離されており、それが『運命の螺旋』となる。
ある程度進めると上記画像の3コンテンツからプレイヤーの任意で遊びたいものを遊べるようになるので、『運命の螺旋』を覗いてみるとしよう。
※『交差する世界』はソシャゲ側コンテンツで、素材集めなどのいわゆるミッション系
●突然はじまる据え置き系フルプライスゲーム
『運命の螺旋』はゲーム全体のオープニングイベントで展開された『楽園への到達』を拒否した場合のIFルートだ。イリヤという王国を舞台に、周辺大国が干渉してくる一大戦乱と向き合っていく物語となる。
イリヤは古イリヤ時代・イリヤ邦国時代などの長い歴史を持ち、かつては大国だったが今は列強に囲まれた小国と化しているという王国だ。
晶石という、現実世界で例えるならダイヤモンドでありつつ石油でもあるとでもいうような鉱石の産出国であるため、周辺大国との折衝を常に迫られている国家でもある。
主人公はウェーブランという街で発生した大暴動を経たのち、比較的平穏で情勢が落ち着いている『鈴蘭の街』へと到達し、そこに根差すことになる。
『傭兵団・鈴蘭の剣』の団長となった主人公は、仲間のサポートのもと、鈴蘭の街の平和維持・あるいはイリヤ王国の恒久的平和を目指して邁進していくことになる。
ゲーム的には傭兵団育成シミュレーション+SRPG型戦闘パートといった形だ。教会で加護を受け、鍛冶屋で武具を精錬し、酒場で仲間を勧誘し、戦術を組み立て、日々の訓練を行いながら、様々な依頼・任務をこなしていく。
世界的な情勢が変化するメインシナリオは緊急イベントとして展開され、時に重要な選択を迫られる。
ゲームの進行速度は個人差があるものだが、初回プレイではエンディング到達まで数時間~十数時間を必要とし、その時点でもうちょっとした『1本の独立した作品』と呼べるボリューム・クオリティとなっている。
『運命の螺旋』はマルチシナリオ・マルチエンディング型コンテンツであり、イリヤ王国&周辺大国とプレイヤーがどう関わっていくかで物語が大幅に変化する仕組みとなっている。
イリヤ王国は王室の評判がすこぶる悪い。王は民の前に姿を見せず第一王子が摂政的存在だが暴君と罵られており、親衛隊である『吊るし人』は民衆を虐待する秘密警察的存在として恐れられている。
騎士諸国連合は複数国家による大連合体であり、武力を背景とした他国干渉が得意な存在だ。連合組織らしく一枚岩からは程遠く、騎士連合内での政治闘争や権力闘争を抱えたままイリヤ王国に介入してくる。
ロディニア法皇国はファンタジー作品定番でもある、非常に強力な権力を持つ一神教を中核とした宗教国家だ。魔法や神の奇跡が実在する世界であるため、その庇護の力は国境を越えて大陸中に伝播している。
基本的にはこの3国家のどれと、あるいは誰と関係を深めるかで物語が変化していくが、序盤必須イベントで邂逅するルトフィという謎の人物もメインキャラクターとして物語に影響を与えたり、山岳民族であるウィルダ部族の存在なども重要となってくる。イリヤ国内ではウェーブランでの暴動発生以来多数の難民が発生しており、難民集団からは自然と彼らをまとめるリーダー的存在も出てきている。それらとの関係性も無視できないだろう。
また『闇の光』と呼ばれる邪教的テロリスト集団が一大勢力を築いており、これへの対処も重要課題となっている。
国家や組織を信じるか、人物を信じるか、身内である傭兵団以外は全て敵と割り切るか。選択は自由だ。プレイを進めて迎える最初のエンディングがどういった結末になるかは千差万別だろう。
そして最初の結末を迎えた時、『運命の螺旋』というコンテンツが本当の意味ではじまる。
クリアすることで、貴方が巡った物語は『運命の螺旋』の膨大なIFにおける1つの可能性に過ぎなかったことを知ることになる。人によっては10時間以上かかる物語はコンテンツ全体におけるわずか1/10に過ぎなかった!
これは全て見なければ収まらない、そう思ったなら貴方はもう鈴蘭の剣の完璧な虜となっていることだろう。
周回前提コンテンツとしてのフォロー機能も存在する。プレイ記録に応じて2周目以降は『特定のキャラとの関係性を深めた状態からスタート』『物語の途中からスタート』『キャラステータスや備品などにボーナスありでスタート』など、様々な恩恵を受けることができる。それでもエンディングコンプをしたいと思えば数十時間、人によっては100時間越えもあるかもしれない。そういうコンテンツだ。章ごとにプレイ代として鍵と呼ばれる特定アイテムを消費するが、基本無料で定期的配布ありのアイテムのため課金要素0コンテンツと言い切ってしまえるところが凄まじい。
※毎日数章単位でこれしかやらないなどだとさすがに鍵は枯渇するが、無料配布石を使ってガチャ1回分より安い石での鍵補充は可能
●ソーシャル版との物語連動
ソーシャル版コンテンツである『愚者の旅路』をメインコンテンツと呼ぶ人と、コンシューマ的コンテンツである『運命の螺旋』をメインコンテンツと呼ぶ人は両方いる。既に多数ある紹介記事でもその両方があり、多少混乱した人もいるかもしれない。これに関してはどちらも正しい。
物語面だけを解説すると『愚者の旅路』では主要キャラクターの過去や主人公が知ることが出来なかった内心などが断片的に描かれる。これは『愚者の旅路』だけをプレイしていると要領を得ない描写であることが多く、物語がわかりにくいという印象がある。だが、『運命の螺旋』内の物語とあわせて咀嚼すると一転して深みや味わいへと変化する。そういう意味で『螺旋の物語を補強するサイドストーリー枠』という解釈は成立する。
一方で、オープニングイベント→楽園到達こそが主人公の人生における正史であり、イリヤの真の平和を求めた旅路の果ては楽園の先にのみにある、螺旋を巡る物語はあくまでも可能性のIFに過ぎないという解釈も成立する。
このゲームにおいてはどちらもメインコンテンツである。おそらくそれが正解なのだろうと思う。
●トゥルーエンドはどこにある?
筆者は約1ヶ月ほどで『運命の螺旋』の全エンディングコンプに到ったが、『愚者の旅路』はまだ全クリアできていない。
『愚者の旅路』は最新まで進めてもまだ完結していないとは聞き及んでいるので、まあ焦らずプレイしていくつもりだ。
『運命の螺旋』はいくつかのグッドエンディングと多数のバッドエンディングで構成されていたが、それらの感想や、グッドエンディングの中にこれぞトゥルーエンディングというべきものはあったのかなど、そういった部分はネタバレ全開版として別記事を執筆したいと思う。
公式が名前を挙げている「タクティクスオウガ」に限定せず、SFCやPS1~2時代のRPG・SRPGに熱中した者、あるいは小説・アニメ・漫画などでファンタジー戦記ものなどを愛好した者、割と近年のゲームでなら「十三騎兵防衛圏」や「ユニコーンオーバーロード」などが刺さった者などにも相性が良いかもしれない。そんな「鈴蘭の剣」、ソシャゲ好きなら『愚者の旅路』『交差する世界』をとことんやりこむも良し、往年のゲーム観と物語性の高さを求めるなら『運命の螺旋』にひたすら潜るも良し。
是非ともプレイしてみてほしい。
今最も「他で見たことがない不思議なソシャゲ」なのは間違いない。そんな作品だ。