
大きなスモールステップ(5年ぶりの駅のホーム)
うれしい。
うれしい、うれしい。
うれしくて仕方がない。
5年。
パニック障害で5年も電車に乗らずに過ごしてきた。
ホームに立つのも怖くて不安で避けてきた。
この5年間、電車に乗れるようになった夢を何度も見て、起きてガッカリして、でも行ってみたら行けるんじゃない?と改札前に立つと足がすくんだ。あの日の発作を思い出して、苦しくて怖くて悲しくなって。
なのに約5年ぶりに駅のホームまで行った。
行けた。行けたんだ!
なんとなく夜の人が少ないホームなら行けるような気がした。あまり考えすぎると予期不安が酷くなって私生活にも影響するので、「思いついた今行ってみよう!」と車で駅へ向かった。
駐車場で車を止めてさっさと券売機へ。
何も考えないように、ただひたすら目の前の情報だけを読み取る。
券売機のボタンを押す。
「入場券」ピッと音がして金額が表示される。高っ!
入場するだけなのにこの値段なんだ…初めて買ったから知らなかった。でも5年出来なかった大きな一歩をこの金額で買えるならとても安い。
や、やるぞ!と意気込んで小銭を入れ、切符の取り出し口に手を置いて待つ。
入場券なんて買う人がほとんど居ないのか、お金を入れたあとしばらく切符が出てこなかったものだから焦った。
少しして無事出てきた切符を手に取り、改札前へ。
何度も諦めて入れなかった改札。
立ち止まったら終わりだと思って券売機から足を止めずに改札をくぐる。
あ、なんかこの感覚だった。
そうだった。こんな感じだった。
ブワッと一気に、まるで映画のワンシーンみたいに、5年前の、パニック障害になる前の、あの頃の感覚に引き戻された。
人の声、通り過ぎる人たちの足音、匂い、それから風の通り抜ける感じ。
目の前に停まった電車の扉が開く音に車内の吊り革。
「あれ…なんか乗れちゃうかも。」
そんな気持ちにまでなった。
パニック障害克服の絶対条件。
スモールステップ。
いけそうと思える気持ちはとても大切だけど、決して焦ってはいけない。
調子に乗るとすぐ痛い目をみる。
でもそう思って挑戦しなければ変わらない。
本当に加減が難しい。
でもこればかりは絶対今日乗るべきではない。
今日は「5年ぶりに 通れなかった改札を通れた」ことだけでハナマルなのだ。
しばらくホームの椅子に座って何本かの電車が通り過ぎるのをぼーっと見送った。
「入場券」と書かれた切符を握りしめて、ホームの天井にぶら下がっている時計と電光掲示板を見つめる。
これ、毎日見てたんだよなあ。
ただただ懐かしかった。
怖くなんてなかった。
過去の自分が何とも思わず毎日見ていたもの。
なんだかタイムスリップしたみたいだった。
時々電車が停まって、降りてくる人たちがチラッとこちらを見る。
この先は普通だろうが急行だろうが停まる駅はほぼ変わらないので、電車を見送る人はあまりいない。
私何してるように見えるんだろう。
まさかパニック障害で乗れなかった電車に乗るために練習でここに座ってるなんて思わないだろうな。
なんて自分にしか分からないちょっと謎の優越感に浸る。
さて、寒いしそろそろ帰ろうかな!と勢いよく立ち上がり、来た時とは比べものにならない軽い足取りで改札へ向かう。
電車から降りた人たちに紛れて切符を入れて現代へ戻る。
駐車料金が発生するギリギリ前で精算。
危なかった。あと1分だったよ。
気持ちがフワフワして嬉しくて、今にも踊り出してしまいそうなくらい気持ちが高揚した。
車に乗ってノリノリの曲をかけて家に帰った。
あーーーすごい。すごいよ!
自分すごいじゃん!!すごいじゃん私ー!!
何回も自分を褒めて讃え、拍手を送った。
心の中の私の手はもう真っ赤になっている。
行って良かった。挑戦して良かった。
今まで諦めずに頑張って良かった。
きっとまた波があるから しんどくなる日もあるけれど、
私なら乗り越えていける。
ありがとう私。
寝る直前、一瞬「こんな経験も勇気も、彼と別れなければ無いままだったかもしれない。本当に別れて良かった」と思ったけれど、すぐに ホームに行けた喜びにかき消され、そのまま眠りについた。
そんなわけで私の初めての大きなスモールステップは大成功だった。
また期間が空きすぎる前にホームへ行ってみようと思う。
(家族には、ホームに行けたことは言っていない。
それには色んな理由があるのだけれど、それはまたおいおい…😌)