HIYORI BROT 塚本久美さんに憧れてパン職人になった私 その四

別の場所で新しい自分を見てみたくなった私は、新卒1年目を終え、2年目に突入した辺りから少しずつ転職活動をしていた。本当に入社したいと思える会社だけを選別し面接を受けていたのだが、なかなか内定を貰えなかった。そう言う事もあり、本当に自分がやりたくて、かつ向いている仕事とは?と迷走していた。
転職活動をしていく中で、自分がやりたいだけでは無く、適性を見極めることも大事な事だと気付いた。やっていて苦ではない、楽しいと思える仕事かつ、自分の性格に合っている仕事とは何だろうと考えていたところ、コツコツ地道に物と向き合うパン職人という道はなかなか合っているのではないかと、次第に思い始めていた。

実際のところ私は、パン職人という道をかなり躊躇していた。それは、お金や労働時間などの現実的な心配からくるものだった。職種は違えど、実際に同じパン業界で働き、よりシビアな面を見てきていたということも大きい。この仕事をどうしても続けることが不可能になってしまったらどうしようという気持ちが頭の中に居座り続けたし、続けられたとしても苦労は避けられないだろうなと思っていた。しかし、当時はそれよりも挑戦してみたい、1日でも早く美味しいパンを作れるようになりたい、という気持ちの方が勝っていた。

そして本格的にパン職人になろうと思ったのはある日突然。
特別な何かや、誰かに背中を押されたという訳でもなかった。様々な事を考えてきた上での自分自身での決断ではあったが、ほとんど直感と衝動に任せたものだったのではないかと思う。
「悩んでいつまでもうじうじしてるくらいだったら、一回挑戦すればいいのでは?駄目だったらその時考えればいいじゃないか!」と半ばやけくそに、とあるパン屋の求人へ募集したのだった。

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