番手の謎解き!糸の太さを理解する
「番手」とは、糸の太さを表す単位のことで、繊維業界において重要な指標の一つです。織物やニット製品の品質や外観に影響を与えるため、繊維業界においては必ず覚える必要がある用語です。
番手には、「綿番手」「毛番手」「デニール」など複数の概念があり、用途やその計算方法を説明します。
恒重式番手と恒長式番手
番手表記ごとの説明に入る前に、「恒重式番手」と「恒長式番手」について解説します。
恒重式番手
恒重式番手は、一定の重さを基準として測定する方法で計算されます。「ある重さに対してどれくらいの長さがあるか」によって糸の太さを表します。
恒長式番手
恒長式番手は、一定の長さを基準として測定する方法で計算されます。「ある長さに対してどれくらいの重さがあるか」によって糸の太さを表します。
番手の概念
綿番手(恒重式番手):略号 ⇒ ECC, Ne, NeC
文字通り、綿素材の時に主に使用される概念です。
1ポンド(約453g)の重さで840ヤード(約768m)の長さを「1番手」と定めています。 つまり、1ポンドの重さで1,680ヤードの長さとなるものが「2番手」、25,200ヤードの長さとなるものが「30番手」となります。 結果的に、2番手の糸は1番手の糸よりも軽い(細い)糸ということになります。
また、綿番手は「ECC(イングリッシュ・コットン・カウント)」とも呼ばれます。
麻番手(恒重式番手):略号 ⇒ NeL, Lea
文字通り、麻素材の時に主に使用される概念です。
1ポンド(約453g)の重さで300ヤード(約274m)の長さを「1番手」と定めています。 つまり、1ポンドの重さで600ヤードの長さとなるものが「2番手」、9,000ヤードの長さとなるものが「30番手」となります。 結果的に、2番手の糸は1番手の糸よりも軽い(細い)糸ということになります。
毛番手(恒重式番手):略号 ⇒ MC, Nm
文字通り、毛素材の時に主に使用される概念です。
1kg(1,000g)の重さで1km(1,000m)の長さを「1番手」と定めています。 つまり、1kgの重さで2kmの長さになる糸は「2番手」、30kmの長さとなるものが「30番手」となります。 結果的に、2番手の糸は1番手の糸よりも軽い(細い)糸ということになります。
毛番手は「メートル番手」とも呼ばれ、異なる番手表記を統一する際にその中心となる表記方法です。
デニール(恒長式番手):略号 ⇒ D, d
化学繊維(フィラメント)に使用される概念です。
店頭でもストッキング等で「90デニール」といった表記を見かけたことがあると思います。あれは「糸の番手≒生地の厚み」を表現した言葉なのです。
(「≒」としたのは、生地の厚さは糸の太さ以外にも影響を及ぼす要因があるからです。)
デニールは、9,000mの長さで1gの重さがあれば「1デニール」と定めています。 9,000mの長さで10gあれば「10デニール」、90gあれば「90デニール」となります。 結果的に、1デニールは10デニールよりも軽い(細い)糸ということになります。
「90D」「150D」のように「D」を後ろに付けるのが一般的です。
デシテックス(恒長式番手)略号 ⇒ dtx, dtex, T, dT
デニールと同じく化学繊維(フィラメント)に使用される概念です。
デシテックスは、10,000mの長さで1gの重さがあれば「1デシテックス」と定めています。 10,000mの長さで10gあれば「10デシテックス」、90gあれば「90デシテックス」となります。 結果的に、1デシテックスは10デシテックスよりも軽い(細い)糸ということになります。
「78dtx」「167T」のように「dtx」や「T」を後ろに付けるのが一般的です。
また、単位を統一しようと制定されたテックスという単位もありますが、現状ではあまり浸透しておらず、本来は「T」=「テックス」、「dT」=「デシテックス」と分別すべきところが、さらにごちゃごちゃになり、デシテックス=「T」として流通してしまっていると考察しています。
この5つの中でよく使われる番手は、「綿番手・毛番手・デニール・デシテックス」の4つです。シルクには「毛番手」が使われています。
シルク×綿、ウール×リネンなどの異素材を掛け合わせた素材であったとしても、基本的には上記5つの表現方法が用いられます。
では、次の番手を太い順番に並び変えるとどうなるでしょうか?
綿番手 の 30番手
毛番手 の 51番手
デニール の 180番手
正解はこのようになります。
綿番手、毛番手、デニールは、それぞれ算出の根拠となる計算方法が違う為、「綿番手 の 40番手」=「毛番手 の 40番手」とはなりません。
また、番手の数字部分のみを比較して「30<51<180」だから~…とすることもできません。
①綿番手と②デニールを毛番手の計算方法にあてはめて、順に計算してみます。
① 綿番手 の 30番手
[綿番手]1ポンド(約453g)の重さで25,200ヤード(約23,040m)の長さが30番手
[毛番手]1kg(1,000g)の重さで1km(1,000m)の長さが「1番手」
1,000g ÷ 453g = 2.2
23,040m × 2.2 = 50,688m
50,688m ÷ 1,000m = 50.7
② デニール の 180番手
[デニール]9,000mの長さで180gの重さがあれば180デニール
[毛番手]1kg(1,000g)の重さで1km(1,000m)の長さが1番手
1,000g ÷ 180g = 5.6
9,000m × 5.6 = 50,400m
50,400m ÷ 1,000m = 50.4
よって、
となるわけなんです。
どうでしょうか。かなりややこしいですよね。
異なる番手表記同士で糸の太さを比較したければ、毛番手(もしくはデニール)に統一してあげた上で数字の比較をします。
繊維業界では、素材によって紡績方法や番手の表現方法が異なる為、これらの計算をスピーディーに行う必要があります。
「現在(綿番手の)30番手を使っている企画(綿素材)で、仕様はそのままでウールバーションのものを考えたいから、ウールの糸を探したい」となった場合は、(毛番手の)51番手付近のウール糸を探すことになります。
もちろん、糸の太さだけで製品の仕様設計が決まるわけではない為、もっともっとたくさんの事象を考慮していかなければいけません。非常に奥の深い世界なんです。
こと番手においては、実は計算の公式も存在します。
最後に番手計算の公式もご紹介しておきます。
ここまで読んで気づいた方もおられるかもしれませんが、厳密に言えば、「糸の太さ」とは「(糸をぶつ切りにした時に目視できる断面の)直径の大きさ・小ささ」を表す表現ではないということ。またここでいう「糸の太さ」は、専門的には「繊度」と呼ばれます。
例えば、糸の断面の直径(=目視した時の糸の太さ)が同じであっても、一方は中身が空洞でスカスカしているものと、中身がギッチリ詰まっているもの。これって重さはきっと違いますよね?そういう時は、(ぱっと見同じ直径に見えたとしても)番手の数字は異なってくるように設計されています。
糸には毛羽があったり、形状が真っすぐでなく凸凹していたり、ふわっとしていたり、様々な種類のものがあります。
どんな糸であっても変わらない指標、それが「長さ」と「重さ」なんです。