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実験室を出てビジネスへ。研究者をサポートする事業で起業した振り返りと、これからのこと

はじめまして、パンゲア株式会社の代表の米川と申します。早いもので、会社を立ち上げてから、時間が溶けるかのように数年が経過しました。

色々な試行錯誤を経て、「どうやらこの道を行けばよさそうだ」と方向性が見えてきたので、現時点での考えを振り返っておこうとnoteに書き残すことにしました。

「研究者を支援する仕事がしたい」と思って大学院を中退し、商社勤めを経てなんだか会社を作ることになった経験が、起業に興味を持っている方や、研究業界に関わる方にとって、少しでも参考になれば嬉しいです。


自己紹介と、起業に至るまでのこと

博士課程を中退。研究とビジネスをつなぐ仕事を探す

高校生くらいの頃から、将来はバイオ系の研究者になろうと思っていた気がします。

大学は理学部生物学科を卒業後、当然のように大学院に進学します。無事に修士の学位を取得し、博士課程への進学も決めていましたが、実はそのタイミングで、これまでの実験から得られた仮説が間違っていたことが判明します。修士2年間の研究の成果は白紙になり、まさに振り出しに戻る状態に。

博士課程の在籍中に月20万円が支給される学振特別研究員というプログラムの審査にも通らず、経済的にも先行き不安になり、博士過程入学の4月1日に休学届けを出し、新たな道を探すことにしました。

当時ぼんやりと考えていたのは、研究には「リスクが高い研究」と「リスクが低い研究」があるということ。リスクが高い研究とは、まだ誰もその分野に取り組んでいないような、成功すると新しい研究分野が花開くが、失敗する確率は高いというイメージです。

自分が取り組んでいた研究テーマはそんな大それたものでは無く、単に自分の能力不足による失敗だったのですが、研究業界の発展には、そういったリスクが高い研究に挑む研究者が不可欠だと感じていました。リスクが低い研究は、放っておいても誰かがやるだろうと。
では、どうすればリスクが高い研究に挑む研究者が増えるのか。当時の自分が出した答えは、研究は「儲かるもの」であるべきというものでした。研究はやってみるまでは答えが出ないものなのだから、失敗する確率は制御できない。であれば、何度失敗してもまたリスクの高い研究に再チャレンジできるような、失敗を許容できる余裕こそが必要だろうと。

研究がもっと儲かるようにしたい。じゃあビジネスを学ぼう、と考えた自分は、大学院博士課程を自主退学。コンサル会社に入って3年間働き、その後転職をして住商ファーマインターナショナルという住友商事の子会社に入社します。

住商ファーマでは、医薬品の研究を行う日本の製薬企業の研究者の方々がお客様でした。そのお客様が興味を持ちそうな、最先端の技術を持つ海外のバイオベンチャーを探してきて、紹介する、という研究技術の海外バイヤーのような仕事を担当しました。これが非常に面白く、仕事にのめり込む日々を過ごします。

医薬品の研究、特に新薬を生み出す研究は非常にお金がかかります。1つの新薬が世に出るまでに使う研究費は1,000億円ともそれ以上とも言われていて、商品を一つ発売することにこんなにお金がかかる業界は他にはありません。

お金がかかるということは、裏を返せば研究費が使われるマーケットが存在するということでもあります。研究がビジネスになっているわけですね。

このマーケットで重要な役割を担っているのは「バイオベンチャー」と呼ばれる企業で、様々な研究アイデアや、新しい技術を持つバイオベンチャーが、世界中で次々と設立されています。

製薬企業は、自社に無い新しい技術を求めて、バイオベンチャーと提携したり、ときに買収したりして、自社の技術を強化して研究を進めて行きます。設立して数年にも満たないバイオベンチャーが100億円を超える金額で製薬企業に買収されることも全く珍しくなく、そこでは研究がお金に変わるダイナミックなエコシステムが存在することを知りました。

私が担当していたのはバイオベンチャーと製薬企業との橋渡しをする仕事で、「この研究者の方が抱える課題は、ドイツのあのバイオベンチャーの技術で解決しそうだ」「このアメリカのバイオベンチャーの技術はユニークなので、日本で紹介してまわろう」と、日々の仕事は最先端のサイエンスの発見に満ちていて、うまく行けば研究者の方からもバイオベンチャーからも感謝される、とてもやりがいのある仕事でした。

もし、将来研究者になろうかどうかで迷っていて、でも研究に関われる仕事がしたい、という院生やポスドクの方には、研究支援という仕事もお勧めです。

バイオベンチャーの情報を、一箇所に集約しよう

住商ファーマでの仕事は充実していましたが、経験を積むうちに「もっと良いやり方はないだろうか」と考えるようにもなりました。

新しいバイオベンチャーの情報は、基本的には足で稼ぎます。論文を読む、ググって探してコンタクトを取る、海外の学会やパートナリングイベントに参加する、知り合いのバイオベンチャーから他の面白いバイオベンチャーを紹介してもらう、などなど。
製薬企業の方に聞いても、大体は同じやり方で、情報を収集しているとのことでした。

「それって、誰かがバイオベンチャーの情報を一箇所に集約し、それを皆で活用すればいいのでは?」
誰でも思いつきそうなことですが、現実は皆がそれぞれ地道に、同じ様なやり方で情報収集をしている。つまり、理想的なソリューションは今のところ存在していないということになります。

この時、自然な流れで「なければ自分で作ろう」と思い立ちました。

定時後や週末にpythonの本を読み、クローリングやなんやと手を動かしました。数ヶ月もしないうちに「これは片手間では無理だ..。一生終わらん」ということに気付き、「じゃあフルタイムでやるか?」という考えに。
商社での待遇は恵まれていたので、その環境を捨てて起業することは正直リスクでしたが、最終的には「たとえ失敗しても、バイオベンチャーのデータベースが後に残れば研究者の役に立つだろうから、やる価値はある」という思考になりました。
心の何処かで、リスクの高い研究に挑む研究者を増やしたいなら、まず自分がリスクを取らなくてどうするという気持ちがあったのかもしれません。

約8年勤めた住商ファーマを退職し、その月にパンゲア株式会社を設立。
世界中のバイオベンチャーの知恵や技術をつないで、研究を加速させたいという想いから、かつてヨーロッパ、アメリカ、アジアやアフリカが陸続きであった太古のパンゲア大陸を社名に付けました。

起業後。自分のやりたい事と、研究者の困り事が交わるまで

起業した後は地道にバイオベンチャーのデータベースを作っていきま
す。バイオベンチャーに投資している世界中のVCの投資先や、創薬系の学会で展示している企業情報、創薬系のニュースサイトのプレスリリースなどの情報から、半自動的に、新しいバイオベンチャーを見つけてくる仕組みを構築しました。

この情報を活用して、まず最初に実験受託サービスを提供するバイオベンチャーの検索サービスを作って、リリースしました。

受託サービスを提供するバイオベンチャーは「CRO(シーアールオー)」と呼ばれています。やりたい実験があるが、良いCROが見つからないという研究者の声を聞いていたので、ニーズがあるだろうと踏みました。
しかし、このサービスはうまく行きませんでした。サービスをリリース後、面白い、役に立ちますといったフィードバックはもらえたのですが、マネタイズの段階でつまづきます。直面した課題は、

「新たにCROを探す頻度は、それほど多くない」
というものでした。

新たにCROを探している時は非常に強いニーズとして相談されるのですが、一度良いCROが見つかると、しばらくはそのCROに継続して委託するため、一人の研究者が年に1〜2回しかサービスを使わないことになります。

結果として、このサービスはビジネスの拡大が見込めず、無料で公開する方針に切り替え、マーケティングツールの一つとして活用しています。

売上は単価×数量で決まるので、たとえニーズがあって高単価が見込めそうでも、数量(頻度)が無いとビジネスにならないという教訓になりました。BtoCの事業であれば1,000万人に1個ずつ売る、というタイプのビジネスもありえるかと思いますが、BtoBで更に業界特化型の弊社の事業では、顧客1社あたりの売上がめちゃくちゃ大事だと感じます。

この失敗以降、「焦ってプロダクトを作らない」という方針を心がけています。なるべくシステムを作らない。まずは人の手を動かしてサービスとして提供してみる。その中で明らかにシステム化すべきところがあれば順次システム化して、まずは社内で使う。それを繰り返した先にプロダクトがある、というやり方です。

資金調達をして、X年後に上場するぞ!というスタートアップではそんな悠長なことは言ってられないと思いますが、弊社のように資金調達はせずコツコツ売上を積んでいくビジネスであれば、アクセルを踏むよりも一歩ずつ確実に進む方が大事だったりします。

この失敗の一方で、研究者から依頼を受けて、人の手を動かしてバイオベンチャーを調査する「調査サービス」は、ありがたいことに少しずつ売上が伸びていました。

その日々の活動の中で、新しいニーズに気が付きます。それは、CROではなく「自社創薬型のバイオベンチャー」を探すニーズでした。

お客さんの声を聞くと、CROと違って、自社で創薬を行う自社創薬型バイオベンチャーは、取引がしたいだけの理由で探すわけではない、ということでした。どちらかというと、
「最新の研究動向やトレンドを把握したい」
「競合の製薬企業より先んじて情報を掴んでおきたい」
「自社創薬型バイオベンチャーはWebsiteに技術情報をあまり載せないため、技術評価に手間がかかる」
といった、複合的な情報収集のニーズや課題が存在していることがわかってきました。

一方、調査サービスの経験を通して、自社創薬型のバイオベンチャーをどのように評価・分析すればよいかという社内のノウハウも溜まってきていました。

今度はニーズの大きさだけでなく、複合的なニーズによって数量(頻度)も見込める。それならば..ということで、「自社創薬型バイオベンチャーの技術評価をパンゲアが行い、企業の深掘り情報を提供するデータベース」を作ろうと決めました。

今度こそいけるぞ!プロダクト開発だ!というやり方はもちろん取らず、「なるべく小さく初めて、最初のフィードバックをもらう」という動き方を意識できたのは良かったと思います。ノーコードのツールを駆使して、調査サービスで使う社内ツールを徐々にプロダクトに発展させていきました。

また、プロダクトのβ版が出来た頃、最初にデモユーザーになって頂いた研究者の多くは、普段から弊社の調査サービスを利用頂いているお客様でした。プロダクトを作らず、まず人の手を動かすサービスを売るという方針を取ってよかったと感じています。

プロダクトは、「collectio(コレクティオ)」として2023年4月に無事リリース。8月現在で、有り難いことに大手企業複数社に導入されています。

これからのこと

まだcollectioが軌道に乗った状態とは言えないですが、ようやく事業拡大期にさしかかってきていると感じています。

そうなると手が足りなくて、一緒に働いてくれる仲間を心底募集しております..!

もしパンゲアで働くことに興味を持って頂いた方がいれば、是非ご連絡ください。特にバイオベンチャーの評価を行っていただける方、データベースのデータ作成を担当していただける方を、アルバイト、インターンでいつでも募集しております。勤務はフルリモートになります。詳細は以下の求人をご覧下さい!(アカデミア関係者の方は、JREC-INからの応募も可能です)。

Indeed求人URL
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↑ たくさんのご応募を頂き、ありがとうございました!採用決定し、募集締め切りました。

また、弊社の仕事内容をもうちょっと知りたい、もしくは弊社のサービスに興味があるなど、弊社と連絡を取りたい方はお気軽にTwitter(今はXですね)のDMにてご連絡下さい。

弊社Twitter(X)アカウント : https://twitter.com/pangaea_petri

研究者がリスクの高い研究に安心してチャレンジできる世界になるよう、今後も事業に邁進して参ります。その結果として、誰かの病気を治せる薬が世に出れば、最高ですね。


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