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11/06

散歩をしているうちに、気づいてしまった。
もう、輝いていたあのころには、戻れないんだなって。

人にはそれぞれ、自分が戻りたいと思う時代があると思う。
僕の場合は大学時代。独り暮らしで初めて住んだ街中。
人の行きかわない田舎から出てきた人間には、沢山の人たちの生活の営みを歩いているだけで感じられることが嬉しかった。
路地裏の本屋さんで漫画を買う小学生、スーパーの前で話をするおばあ様方、家路につくサラリーマン、その横をすり抜けるピザーラの配達バイク。
生活の息吹を肌で感じることが楽しくて、講義が終わるとよく自転車で当てもなく走って回ったものだった。

人が生きているのを実感したい。
それも繁華街に充満する非日常ではなく、何の変哲もない普通の日常を。

そうやって自分の住んでいる近所を徘徊して回り続けて、もう20年近くになった。
こう習性はこの歳になるまでずっと続いている。
これが自分にとっての精神安定剤。

日本は、大体どこの町に行っても似たような景色ばっかり。
それを味気ないと思う人もいるけど、俺は嫌いじゃない。
なんでって、散歩するたびに目につく景色を見るたびに
「あぁ、あんな建物、大学時代に住んでたアパートの近くにもあったな」
「西日に照らされる国道のバイパス横の道、学生のころバイト帰りによく通ったな」
なんてあのころを思い出せる。
あの頃の美しい記憶に郷愁とちょっぴりの哀愁を覚える。

今日もさっきまで散歩してた。
楽しかったあのころを思い出して、自然と笑顔になる。

でも、それと同時に、若干の吐き気。
食べ過ぎたわけでも風邪ひいたわけでもないのに、おかしい。

でも理由はハッキリしてる。

「楽しかった時代の記憶に縋って生きてるけど、どれだけ懐かしんだってあのころには戻れない」

当たり前のことだし、口ではずっと言えてたこんな当たり前のことを。

綺麗な夕焼けと、それを浴びて遊ぶ子ども、それを見守るお母さんたち。

そんな日常の風景を微笑ましくながめているうちに、やっと自分の中で受け入れることが出来たんだと思う。



受け入れがたい事実を受け入れられるようになったんだと思うと、ちょっと大人に近付いた気がして嬉しいね。

それはそれとして、これから散歩するたびにちょっとだけ憂鬱な気持ちにはなる。
それもまあ、しょうがないね。

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