デジタルマッピング事始め・フィールドワークその2.OpenStreetMapを編集してみよう
OSMって何だろう?
オープンストリートマップ(OpenStreetMap、OSM)は「誰でも自由に地図を使えるよう、みんなでオープンデータの地理情報を作るプロジェクト」です。誰でも自由にこのプロジェクトに参加し、地図を編集、利用することができます。わかりやすいたとえとしては、「地図のウィキペディア」と言われることも多いです。OSMが英国で始まった経緯や、ハイチの大地震で注目されたこと、国境なき医師団も利用していることなどは2015年のニュース番組 Map that saves lives にまとめられています。この「デジタルマッピング」コースでは、これまでにも、OSMの使い方(ある地域の地図をURLまたは画像としてシェアするなど)を紹介してきましたが、今回は、簡単な編集をやってみようと思います。
地図を「編集」するとは?
これまでは、OSM地図を使うだけでしたが、今回は地図に必要なデータを自分たちで追加する、またはすでにあるデータを変更します(こうした作業をまとめて「編集」(edit)と言います。編集するにはOSMのアカウントを作成する必要があります。登録に必要なのはメールアドレスだけです。OSMを編集すると、世界の人たちがパソコンやスマホで見ているOSM地図が変わってしまいます。間違った情報を載せないようにすることはもちろん、編集ガイドラインには、次のような決まりがあります(一部)。
ここは僕の家、有名人のXXさんが住んでいるのはここ…など個人のプライバシーをマップしない
過去に起こった出来事は記録しない(たとえばこの交差点で死亡事故が起こったなど。ただし、その付近で起こった災害や事件を記録する記念碑のようなものがある場合は、それを追加することは可能)
位置が変わるもの・移動するものは追加しない(たとえば車両、航空機、フードトラックなど)
Yelpや食べログではないので、評価はマップしない(「最高においしいXXラーメン店」など)
地図に加えてよいものとそうでないものの区別としては、たとえば飛ぶ飛行機はマップしませんが、すでに現役を引退した航空機が空港や公園に展示されている場合などはマップ可、フードトラックはマップしないけれど、毎週決まった日に朝市が立つ場所はマップ可ーーなどがあります。
編集方法
大きく分けると2種類の編集方法があります。ブラウザー上でOSMを開き、そこでそのまま編集する "Edit with iD (in browser editor)" と、JOSMを使う方法です。JOSMはソフトウェアをインストール必要があるため、ここでは、ブラウザーでそのまま編集できるiD editorを使います。
iD editorにはWalkthrough(ウォークスルー)という、編集の練習をするための機能があります。アカウントにログインして、編集に切り替え、ヘルプ・メニューからアクセスできます。ここでは①ポイント・データ、②ポリゴン・データ(OSMではエリア・データと呼ぶ)、③ライン・データのそれぞれについて、指示に従って試しに編集してみることが可能です。
ウォークスルーでウォームアップができたら、実際に編集をやってみます。エリア(面)データ、ライン(線)データを追加したり変更するには、右端のメニューから「背景の設定」を選び、衛星画像・航空写真などの中から適したものを選び、建物や道路をトレースして加えます。
今回の演習では、OSMにまだ慣れていないことを前提として、面と線データではなく、ポイント(点)データの編集のみを行います。
ポイント(点)データとは、この地図(上)にあるような、店舗、医院、飲食店などのほか、郵便局や駅、警察署、消防署などなどの位置を地図上に示すものです。グレーの箱は建物ですが、同じ建物の中に複数の事務所、店舗などが入っていることはよくあります(同じフロアに複数ある場合もある)。なので、建物一つにつき、ポイントデータが複数あっても全く問題ありません。
今日の演習ではグループに分かれ、それぞれのグループに割り当てられた地域をOSM地図を見ながら歩いて、点データを追加する、または変更します。この例(上)ではたとえば、OSM地図には載っていない「レオ」という名前の美容院を見つけたとします。その場合は現地で、紙に印刷した地図上に大体の位置を赤い丸で書きこみます。店の名前などもメモしておきます。
現地調査を終えたら、iD editorで「ポイント」を選び、データを追加したい位置をクリックすると新たなポイントがOSM地図上に現れます。この地物(feature)のタイプは何ですか?ときかれるので、適切なタイプをリストの中から選びます(たとえば美容院)。名前(たとえば「レオ」)がわかっている場合は追加します。よくある地物タイプの場合は、わかりやすいピクトグラムが追加されます。
土地勘のあるところでマップする意義
町を歩きながら、地図作りのための情報を集めることをフィールドマッピングと言います。OSMを教材として使うために用意されたTeachOSMにも、"Field mapping is a time-honored mapping method in the OpenStreetMap community, dating back to the project origins in 2004. And it’s still the best method to verify what’s on the ground. This is a fun project you’ll do in your own neighborhood" と書かれています。
毎日通っている道であっても、詳しい地図と見比べながら観察すると、それまでは気づかなかったことが見えてきます。遠く離れたところをマップするRemote mappingにも意味がありますが、自分たちがよく知っている地域をマップすることで、①より正確な地図ができる、②地域のことをより深く知ることができるーーという2つの効果が期待できます。
編集の例
では、どんな編集ができたでしょうか?大型の商業施設には多くの店舗などが入っており、そのすべてがOSMに載っているということは、東京などの都会でも稀です。逆に言うと、追加できるポイントデータは必ずあるということです。この地域では、建物はほとんど全てすでにOSMに存在しますが、OSMにマップされていない店舗、医院、美容院などなどはまだまだたくさんあります。
上の例のほかにも、
店舗がなくなっていたので削除した
「モスバーガー」の店が「モスカフェ」になっていたので変更した
歯科医院の名前が間違っていたので訂正した
などの編集がありました。時には、「このあたりって、歯科医院がやたらに多い気がするけど、どうして?」、「美容院がたくさんあるけど、経営が成り立つのか?」、「テナントの入れ替わりが激しいビルは賃料が高いのだろうか?」といった疑問が湧いてくることがあります。自分たちがよく知っているはずの地域であっても、「マップする」という目的を持って歩いてみると少し違った風景が見えてくるーーというのが、フィールドマッピングのいいところです。
そして、編集が終わった地図は前より少しだけ正確で情報量が多くなっていて、きっとこの地域を訪れる誰かの役に立つはずです。住んでいるところ、通勤・通学しているところ、身近なところから、マッピングをしてみませんか。日本での活動についてはこちらをご覧ください。