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【読書記録】馬主ってサクセスの極地よね
2025年9冊目。
競馬小説。
長編競馬小説。
競馬に始まり競馬に終わる。
504ページ丸々競馬に関する物語。
まず前提として、私は競馬の経験がない。むしろ見た事すらない。
パチンコ、パチスロは大好きだった。他にも競艇、競輪、オートレースといった競馬以外の公営ギャンブルは一通り経験してきた。が、競馬だけは意図的に避けてきた。
理由は3つある。ひとつ目はのめり込むとヤバい気がした事。ふたつ目に馬の気持ちなんて分かるわけがないと思っていた事。みっつ目に流行っていたが故にあえて自分はしないという逆張りだ。重度の厨二病を患っていた後遺症かもしれない。
ともあれ、上記理由のせいでずっと頑なに競馬を避ける自分がいたのだ。
そんな私がなぜこのゴリゴリの競馬小説を手に取ったのかというと、長編小説を読みたい気分だった時にたまたまブックオフで目にしたこの帯がきっかけだった。
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惹かれた。
別に泣きたい気分だった訳ではない。そもそも「病む」という概念がないので。
感受性は人一倍豊かな自信はあるけど小説で泣いた事はない。多分。
ウルっときたりジーンときた事はあったけど涙を流した事はない。多分。
いや、「ステップ」のラストシーン、義父が「俺の息子だ」って言った時は泣いたかも。いや、涙は流れていないな。多分。
ともあれ、興味が湧いたのだ。
「そんな俺を泣かせてみろよ」と。
競馬に全く興味がない奴を引き込むあたり商売においてやはり「装丁」はかなり重要なポイントなんだなと改めて実感する。
しかし買ったはいいが暫くは「積読」だった。なんせ競馬…手が出ない。途中で挫折する未来しか見えない。
そして年末年始の仕事が落ち着いた頃にようやく意を決して読んでみる。
無事、挫折することなく読了できた。
めっちゃくちゃジーンときた。
泣いてはないけどね。
良かった。
素晴らしかった。
こんな温かい小説が書けるものなのか。「小説家」というものはつくづく天才の集まりだなと改めて思い知る。
中学2年生の時に初めて「GO」を読んで以来、読書が趣味の一つとなって20年余り。(全く読んでいないアホでサルだった時期が10年以上あるけど)おそらく現時点の人生でベスト小説と言ってもいいかもしれない。
それくらい読後感が幸せに満ち満ちていた。ずっと終わってほしくない。そのまま次の世代、また次の世代とシーズン100くらいまで続いて欲しい。
競馬の知識なんて必要ない。これは「ヒューマンドラマ」だ。いや、「ヒュ馬ンドラマ」か。いや、やっぱり「ヒューマンドラマ」でいこう。危うくスベリ散らかすところだった。危ない危ない。我がnoteが稍重(ややおも)になる所だった。
ちなみに馬主って「ばぬし」ではなく「うまぬし」と読むらしい。それすらも知らない知識で読んでもなんら問題は無い。
この小説を読むと全く経験が無いくせに競馬について詳しくなった気でいてしまう。喫煙室で有馬記念の話をしてるオッさんがいようものなら「やっぱパドック見らんと馬の善し悪しは分からんね〜」なんて言って話に入っていきそうで怖い。気をつけよう。喫煙室の空気が重(おも)になってしまう。
あらすじをざっくりと説明すると、
この物語は馬主である山王耕造(さんのうこうぞう)の長きに渡る馬主人生を隣で支える秘書、栗須栄治(クリスえいじ)を主人公として進めていき、2人でG1優勝を目的に奮闘する第1部と、山王が亡くなった後に息子である耕一(こういち)が愛馬の血統と親父の意思を受け継ぎ、栗須もそのまま耕一のパートナーとしてサポートをしていく2部構成となっている。
そして愛馬にも1部2部で主役がいて、1部は「ロイヤル・ホープ」2部は「ロイヤル・ファミリー」となっている。
この「人」と「馬」が凄まじく絡み合って最高の化学反応を引き起こしているのだ。
物語は主人公、栗須の主観で進んでいき、20代だった栗須がアラフィフになるまでの20年間を記している。備忘録のような、まるで読者に語りかけているような敬語文が物凄く読み心地が良い。
主な登場人物は多過ぎて割愛するけど、総じていいヤツばかり。主人公、主人公のヒロイン、主役馬主、ライバル馬主、主役ジョッキー、ライバルジョッキー、それぞれの家族、馬の調教師、記者、そして様々な馬たち。
そしてそれらの意思や血統を受け継ぐ次の世代たち。
物語の大軸となるのがこの「継承」だ。
親から子へ、師匠から弟子へ、どんどんと未来へ託し続く。「終わり」なんて無いんだと改めて気付かされる。自分が後退してもまだ意思を継ぐ次世代がいるんだと。
短い人生で私なんかが娘や孫に遺せるものはあるかと考える。
「パパは本気をだしたら世界で一番足が速いんだ」という嘘は果たして玄孫(やしゃご)まで届くのだろうか?
本作に話を戻す。
読んでいて何が一番凄いって、やはり「レース描写」だろう。臨場感が半端じゃなかった。競馬を見た事がないのに頭の中で競走する馬たちが鮮明に思い浮かぶ。息をするのも忘れる程に。
素人だからそう思うのか、最後の最後までどの馬が勝ったのか分からない展開が凄まじく面白かった。
どっちが勝ったん⁈
どっちが勝ったん⁈
どっちが勝ったん⁈
って何度もなった。
あ、勝ってたんや‼︎
え、やっぱ負けてたん⁈
ん?これどっちが勝ったん⁈⁈
とも何度もなった。
書き方が上手すぎる。馬だけに。
ライバルと称される最強の馬との対決も、怪我や調子や諸々の要因によりずっと叶わず、やっと…やっと実現した初対決が最高グレードの決勝戦という。ドラマ・オブ・ドラマ。決勝戦っていう表現は違うな。まぁいいか。素人やし。
競馬を知らない私は何となく「ロイヤルホープvsバルシャーレ」が「薬師寺保栄vs辰吉丈一郎」に思えてならなかった。さしずめ、「ロイヤルファミリーvsソーパーフェクト」は「井上尚弥vs中谷潤人」といったところか。
少年ジャンプ出身の私は「待ち望んだライバルとの対決」と聞くと芯から熱を発さずにはいられなかった。何歳になっても心が踊る。
そして馬の調子がいい表現に「沈む」というワードを使った時は身震いがした。カッコ良すぎる。危うくまた厨二病が発症して左手にチェーン巻いて出勤する所だった。危ない危ない。
最後の終わり方も素晴らしい。
ある意味での王道展開。
もう素晴らしいに尽きる。
心の底から読んで良かったと満足した。
是非ともおすすめです。
これを機にちょっと競馬をしてみたいと思う。もちろんローリスクで。調子に乗りすぎると我が家の馬場が「不良」となってしまうので注意が必要だ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
良かったらスキとフォローをよろしくお願いします。
良かったら時間かけて書いたネタバレ解説も読んでいただけると嬉しいです。
また書きます✍️