読切小説/狸の話_20210630
「たーぬきさん、たーぬきさん、遊びませんか」
遠くから間の抜けた韻を踏んだ歌が聞こえる、どうやら阿呆がおるらしい。俺は今、孤高を楽しんでいるのだ、なぜ人間と遊ばねばならん。だいたい、散々我ら一族を虐げて時に無惨に肉片にせしめるかたわらで、平然と遊びましょうなどと撫で声をかけるとは、人間とはどこまで傲慢でモノの理を越えた存在であろうか。俺は自分に向けられているであろう声に「僕は、遊びません!」と丁重に断りを入れておいた。しかし、人間の耳には狸が「ぴー」と鳴いたとしか聞こえない