朝活俳句アワード2022を読む 第1回 川嶋ぱんだ「別方向に走る」
これから7週つづけて朝活俳句アワード2022のノミネート作家が、アワード作品について書いていきます。第1回は川嶋ぱんだが担当します。
今回の友定洸太さんの作品は取り合わせ主体の作品が並びました。
取り合わせられる言葉は日常のどこかで私たちが既に出会ったことがありそうな光景です。それぞれどんな言葉と季語が取り合わせられているのか見ていきましょう。
しりとりに喇叭ふたたび石蕗の花 友定洸太
しりとりといえば序盤に出てくる定番が「喇叭」。そのラッパがふたたび出てくる。「あれ?喇叭てさっき言わんかった?」というシーンはこれまでに体験したような感覚があります。
山茶花や雨の染みこむスニーカー
雨の染み込むスニーカの嫌な感じ。未舗装の場所を歩いていると染み込むよりもドロドロになると思うので、これは舗装路を歩いていてスニーカーに雨が染み込んだのだと思います。
プロパンガスボンベごろりと彼岸入り
プロパンガスのボンベを転がして設置するシーンをときどき見かけます。
プロパンガスを設置する場所は個人宅だと玄関側と反対にある台所側。人から見えない場所に咲く彼岸花が咲いている様子がいいですね。
水筒に波音のして花あやめ
水筒の残りを確認しようとして栓を開けた時に広がる水筒の波紋。
花あやめは葉っぱのあいだからこっそり顔を出すように咲くのでその感覚が通じているように感じます。
冒頭にも書きましたが、友定さんの取り合わる言葉の一方は日常の細事を掬いあげて構成されます。「しりとりに喇叭ふたたび」、「雨の染みこむスニーカー」、「プロパンガスボンベごろり」、「水筒に波音」、これらの日常の細やかな風景が俳句の構成要素「1」を担っています。
そして構成要素「2」は季語が担います。しかし、その季語は核となる言葉を中心に日常の物語と別方向へと走っていきます。
どういうことかと言うと、例えば「しりとりに喇叭ふたたび」に取り合わせられている「石蕗の花」で考えてみましょう。
この俳句の場合、「喇叭」という核があり、その喇叭が、「しりとり」のなかで再び出てくる喇叭だというふうに物語が「1」前進していきます。
そして同時に喇叭という核から別の連想がスタートします。それがこの作品では「石蕗の花」です。喇叭の色や形を石蕗の花で押さえつつ、「しりとりに喇叭ふたたび」という物語とは別方向に石蕗の花のイメージは広がっていきます。
「山茶花や雨の染みこむスニーカー」の核が「雨」だとすると、雨から山茶花のしっとり散っていく感覚を押さえつつ、「雨の染みこむスニーカー」とは別の方向で季語「山茶花」が選ばれています。
そういうように「1」進むのとは別方向に働く季語によって友定句の取り合わせは奥行きを作り出していきます。
物語が右にいくと季語は左にズレるような。そんな感覚が友定俳句にはあるような気がしました。