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転先生 第2話

 溜息を一つ吐く。誰もいない静かな教室。児童が帰りきったこの時間のみが、僕が唯一落ち着ける時間帯である。やっと終わった。あの地獄の様な日々から一時的にでも開放された。僕は今という瞬間を噛み締めながら、一学期を終えた教室で急ぎではない二学期用の掲示物の制作をしていた。
 ふと時計を見ると、時計の針は一七時を少し回る時間を指し示していた。授業中はあれ程時間に追われるというのに、児童が帰った後は途端に疎くなってしまう。気づけばもう夕暮れ時である。夕暮の日差しが、児童の居ない教室を照らし出す。
オレンジ色の彩光が壁面の画鋲に乱反射し、教室を不規則に彩っている。その煌めきは被写体の上で幻想的にゆらゆらとゆれ動く。何かもの言いたげな動き様は、紫外線によるプロジェクトマッピングを見ている様である。
 不思議な光景。僕は放心したかの様にじっと見つめる。すると、教室に映る日差しはまるで生き物の様に一人でにどんどん動き出していった。やがて、動く彩光は一か所に集まり、形を成していく。 

   黒板に「僕の一学期」が上映される。

昔々、一人の無能な新人先生がいた。その先生は無能ではあるものの、児童の事が大好きであり、立派な先生になることをを胸に志していた。だからこそ、先生はたくさん失敗するが、その分、児童等とよく遊び、沢山の教材研究に邁進していたのである。教室の児童等も初めての先生の事を好きになれそうであった。
 そんな先生は、ある日、自分の胸に一つの傷をがあるのを見つけた。いつついた傷かはわからない傷である。しかし、酷く痛む傷であった。この痛みにより、先生は中々児童に積極的に関わる事が難しくなった。先生は傷を癒すため、少しだけ児童と遊ばなくなり、少しだけ教材研究をお休みすることにした。そうする事で先生は少しずつ児童と関わる時間も減っていった。そうして1ヶ月程が経った。すると、気づけば傷は治るどころか、先生の体のいたるところに大小様々にが広がっていたのである。なぜだ。先生にはその傷の原因がわからなかった。痛い。あまりの痛みに耐えきれず、先生は児童等に助けを請おうとした。久方ぶりに児童らに目をやった。そうすると、先生はやっと自分の傷の原因に気づいたのである。なるほど、この傷の原因はお前達であったのか。なんと児童には角が、牙が、鉤爪が生え揃っていたのである。先生が気付かぬうちに、いつのまにかあの可愛いらかった児童はおどろおどろしい化物へと変貌していたのであった。化物達を前に、先生はどうする事も出来ないのでした。


その話は醜悪な話であった。意味もわからないし、オチすら無い駄作である。こんな物を映画として流そうものなら酷評の嵐であろう。つまらない。つまらない。つまらない。こんな映画では誰の心も動かない。二度と観たくもない映画である。
 夜の帷がおり、徐々に教室は暗転してゆく。上映時間はとっくに終わったのである。 
 映画を鑑賞していたのは一人だけであった。登場する主人公の余りの不甲斐なさに涙する観客がただ一人だけであった。
 ふと我に返り、後ろを振り向けば、青白い月明かりが職員室への帰路を照射していた。

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