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サイを連れて18世紀ヨーロッパを巡った男
お久しぶりです。
ヤキソバライターです。
せっかくだから、お題を使ってみようと思います。
今回ワタシが推薦するのは、『サイのクララの大旅行―幻獣、18世紀ヨーロッパを行く』という本です。著者は「18世紀学」を専門とするグリニス・リドリーで、翻訳家の矢野真千子が日本語訳しています。
より詳しい書誌情報を知りたい人のためにアマゾンのリンクを貼っておきましょう。
まずことわっておきますが、この本は史実に基づいて書かれたノンフィクション作品です。
18世紀のヨーロッパにおいて、サイは幻の動物まさに「幻獣」でした。
ほとんどの人間は見たことはおろか存在すら知りませんでした。
そんなサイはユニコーンのモデルになった動物としても有名です。
ユニコーンは気性がとても荒く、処女にしか心を許さないとされています。
サイも人間が飼い慣らすのはとても難しいと言われていました。
そんなサイを連れて海を越え山を越え、ヨーロッパ中を連れまわした男がいます。
その男の名はヴァン・デル・メール、オランダ東インド会社の船長をしていました。
彼は会社をやめて、クララというメスのインドサイとともに17年間、ヨーロッパ各地で大興行を行いました。根っからの商人であるヴァン・デル・メールは、その人脈や経験をフル活用して、クララを売り込むためにさまざまな作戦を考えます。
例えば興業に先行してポスターを配布したり、展示場ではクララの版画やメダルなどのキャラクター商品の売り場を設けたりしました。いまでいう物販です。
クララを描きたい画家たちは彼に金を払い、その版権はヴァン・デル・メールが持つという契約をしました。
なんと彼は版権収入という現代でも通用する商売を繰り広げたのです。
そうした努力も実り、クララはヨーロッパ各国で熱狂的な人気を持つようになりました。
庶民だけでなく王侯貴族も、この珍獣に夢中になりました。あのフリードリヒ大王やマリア・テレジア(マリ・アントワネットのお母さん)わざわざ見に来たというのだから驚きます。
クララがやってくる前、ヨーロッパの人々は間違ったサイのイメージを持っていました。
それは1515年にドイツ人画家アルビレヒト・デューラーの描いたこのサイの姿でした。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/23396141/picture_pc_bcbde0cfb5a2d09c7f5026202cf5ca7c.jpg?width=1200)
デューラーはサイを直接観察しておらず、知識と想像力を頼りに描ていたのです。この絵が長らくヨーロッパで知られたサイの姿でした。
ヴァン・デル・メールがサイを連れ歩いたおかげでヨーロッパ各地にサイの本当の姿が伝わりました。その姿がこちら…1,2,3!!
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/23397094/picture_pc_b21ef8f1487e8c2f2f0f394fd9de0ab1.jpg?width=1200)
…全く違うじゃないか!!
これ以降、クララがサイの代名詞となります。
ところでクララはなぜそんなに人間になついていたのかという疑問が浮かぶでしょう。
彼女は子どもの頃から人間に飼われていましたし、おそらくサイの中では珍しくおとなしい性格だったのだろうと著者は推測しています。
計算高いヴァン・デル・メールと鈍感なクララ、そんな1人と1頭のコンビがこの物語の面白さに一役かっていますね。
さて、本の中身を細かく説明していくと読まずに済ませてしまう方がいると困るので、次に著者の専門分野について説明していきます。
著者のグリニス・リドリーは2009年現在、アメリカはルイスヴィル大学の英文学部で教鞭をとっています。彼女は「18世紀学」という学問を専門としています。聞きなれない学問だと思いますが、「18世紀関係の何でも屋」といえばわかりやすいかもしれません。
本書の執筆にあたって研究書や公文書などのいわゆる「史料」だけでなく、絵画や木版画、マイセン磁器などの工芸品まで調査し、当時のヨーロッパ各都市の歴史や民衆の生活、社会にいたるまで細かく観察しています。
歴史が苦手な人でも読破できること間違いなしの一冊です。
ぜひ、ステイホームのおともに。本を開けばそこは、18世紀のヨーロッパ。となりには次の戦略を考えているヴァン・デル・メールと干し草を食むサイのクララ。さて大旅行の始まりです。
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