14~お帰りと タシデレおじさん ダージリン~

 5時ごろ目覚める。曇り。窓いっぱいに広がったカンチェンジュンガの、お腹の部分だけがかすかに浮かんでくる。ここからのカンチは圧倒的な大きさだろうと、残念至極。

 アンパンマンテープをかけて萌、彩を起こし、霧の中をゲイジングへ下る。バスは SILIGURI行きで、途中のJORETHANGまでの私たちにはシートをくれない。でも、出発直前になって何とか座席を確保する。

 お父さんと末娘は一番うしろ。ドア前の車掌の後ろに長女と姪っ子、その後ろのインド人のおじさんのとなりに私。ところがこの車掌、ドアを閉めない。開け放したドアから今にも落ちそうで、姪っ子と席を替わってもらう。下って、曲がって、登って、下って・・・。

 長女は気持悪いという。姪っ子も不安と、隣のおじさんの臭いで、吐きそうだったという。

 大きな立派な橋を渡るとジョラサン着。ここからダージリンヘはジープに乗り換える。そのジープは何台か並んでいて、お客が集まれば出発するという。

現在のGoogleマップから
きっと、30年前のルートではないと思うが

 ドライバーらしき人に声をかけて予約をしておき、食堂に入って例によってトーストにオムレツの朝食だ。

 食堂の窓からはバパイヤやハイビスカスが見える。ずい分標高が低いのだ。食事中、予約の声をかけたおじさんが何回も来る。お客が集まったようだ。となりの洒屋で急いでシッキムの地ウィスキー『シャングリラ』を買う。

 ジープのまん中の席は先客でいっぱい。前の席に私と子供3人とドライバー。お父さんは後ろの席に片足出して乗る。橋を渡り返し、荒れた道を行く。轍が深くえぐれていて、バスが通っていない理由が分かる。

 日差しは強く、夏山の林道という感じ。木もまばらで埃っぽい。となりのドライバーは、しょっちゅうつばを吐いている。眼下となった川幅のひろーい川では、投網を打っている姿がうつっていた。

 さらに登ると茶畑が広がり、茶摘みをしている。消毒もしているのにはビックリ。インドの紅茶は無農薬と思い込んでいたが、間違いらしい。

 途中、水道(とはいっても谷筋の水をそのまま蛇口へ引いたものらしい)があり、ドライバーはラジエターに水を補給する。タオルをゆすぐがドロだらけの水だ。顔を拭くと、キラキラ雲母のかけらが顔に張りついて光っている。

 汗と埃にまみれた1時間40 分の苦しいジープの登りで、なつかしいダージリンヘ帰ってきた。

 ダージリンは霧の中。すぐホテル・ベルヴューヘ。ずっと「部屋が空いていますように」と願っていた甲斐があった。坂道を上がってホテルが見えだすと、3階の窓から大きく手を振るタシ・デレおじさん。おじさんは、8日ぶりに帰ってきた私たちを“帰ってきたぞ!!”という思いにさせてくれる。

 レセプションに行く。と、さっそく預かってくれた荷物と私たちの荷物を、空けておいてくれた部屋に運んでくれる。ほかの予約客を断って確保しておいてくれたのだ。ありがたいことだ。

 激しい夕立の後、はれて美しい夕焼け。ホテルの屋上に上がると、きのうのペマヤンシー付近がくっきり見える。虹、ブロッケン現象も見る。マネジャー氏も来てブータンとテイベット方面を教えてくれ、この雲と山々の連なりの果てにあるティベットに思いを馳せる。

 プジャ真近かのダージリンは、ツーリスト(その殆どがインディアン・ホリディの休暇でカルカッタやボンベイから来ているインド人である)であふれている。チョウラスタに出ると、今までなら駆け寄って客を奪い合ったポニーのお兄さんたちも稼ぎ時だ。


祭りのためチョーラスタ広場へと、不通のトイトレインのレールを通って向かう人々


 キャベッ、ワカメ、桜エビ入りラーメンと、いそべ巻で疲れをとる。姪っ子は疲れ過ぎて、洗髪する元気がない。お父さんは風邪気味で、薬を飲む。私はひとり日本洒を飲みながら旅の日記を書いている。12時をまわった静かな町に犬のほえ声がひびく。旅も後半に入った。

 9月23日 シッキムの旅が終わって疲れがでたのか、お父さんと姪っ子は風邪気味だ。長女と末娘が張り切って濡れタオルを交換する。その甲斐あってか、昼には起きられる。

 チョウラスタ広場のStardust Restaurantにいってみる。店の中は名前とは程遠く、トイレの臭いプンプンだし、働いている男の子は、まだ子供っぽい(インドでは小さい子供が店などで働いているのをよく見かける。学校にはもちろん行けず、月に何ルピーかの賃金で、朝早くから夜遅くまで働かされる。ダージリンではほとんど見かけなかったのだかが.....) 。

 メニューを見ると、嬉しいことにマッサーラ・ ドォサイがある。これは南インドの食べ物で、ポテトカリーを薄いおやきで包んで、ココナッソースをつけながら手でちぎりちぎり食べる。 8年ぶりの味に大感激しているのは私だけで、みんなには不評。子供たちはナンをココアにつけて食べている。

 祭りの準備でうきうきしている広場をながめなからホテルにもどり、昼寝&休養。私はカルカッタヘのチケット購入のため駅に行く。この旅で初めての一人歩きだ。緊張する。

――そう言えば、昼前に子供たちだけでお菓子を買いにでかけた。姪っ子は出かけるのにかなりの決心がいったようだが、三人して無事にチョコレート、あめ、ピーナツ菓子を買ってこられた。握りしめたお菓子を披露しながらの報告は、興奮ぎみだった――。

 駅のブッキングオフィスは日曜日でも開いていたが「席は無いよ。シリグリ Siliguriに行って交渉してごらん」というそっけない返事。しかたがない、行き当たりばったりしかないな。

 帰りがけ、バザールをぶらつく。観光客が増え、子ども目当ての風船売りやお菓子売りが道路にいっばいで、たいへんな賑わいだ。冷たいジュースを買って帰り、昼寝から覚めたところでこれから先のスケジュールを検討する。

 サンダクプーヘのトレッキングはあきらめ、ふもとの3日間のトレッキングに変更とする。夕食のレストランでは、しきりと稲光がしていた。

 ホテルのお兄さんが、「明日、天気か良かったらTiger Hill (カンチェンジュンカを望む絶好の展望地)に行くよ」と誘ってくれた。お父さんは行く気になって早々と寝る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?