絵本開中鏡

夜は居酒屋をやっている、とある定食屋の壁が春画で、その端っこに初代歌川豊国の『絵本開中鏡』がある。女の骸骨と絡み合う男の絵。それがどういういきさつでそうなったか、いったいどういう物語であるのか解説をみればわかるのだが、切り抜かれたその一片の絵では、手掛かりは男の表情をみないとわからない。女の正体が骸骨であることを知った男の恐怖の顔? にはちょっと見えない。恐怖にしては、目じりが静かだ。それに骸骨の肩に触れている男の腕が優しくみえる。僕はこの男がやはり泣いているように思われてならない。女が死んでかなしい。骸骨になっても永遠に抱いてやる。そんなふうに見えるのだ。二人とも、肉体があるときよりとても刹那だ。ぼくはそんな絵を見ながらランチを食べる。骸骨の女には黒目だけの目がついてあり、目は開いていて、反対に男の目は閉じている。

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