ロッテリアのジャズ

夜9時前にコーヒーを飲みに行った。このロッテリアには喫煙スペースがあるため、近所のおじいさんがよく揃っている。寝ているおじいさんが多い。そのなかに交じって、DJおじいさんがいる。店内BGMに合わせて机を楽器にみたてて演奏するのだ。知らずに横に座っているときに初めて気づいた。横目のほうでちらちらと浮かんでくる指の動きがだんだんと激しくなっていき「ヒュ」という声も混じっていた。
ドラムからはじまり、ピアノすらすら、テーブルを弦のかかる駒にみたてコントラバスを弾いていた。
しまいにはその姿は椅子にしがみついて音楽になりつつなっていた。僕はそんなおじいさんをじっと見つめる。僕はもともと人と接するとき、相手の目をじっと見つめてしまう癖があるのでたいがいの人に不快な思いをさせているのだが、DJおじいさんは違った。僕の目にも念仏というか、人間を終わらせて馬というより音楽になりつつあるおじいさん。負けているぞ、僕。そしてロッテリアのBGM……
……寝ていたおじいさんたちはいつのまにか帰ってしまった。
寝姿、とか、こういうとき僕は、普通に接している人の、心の中の形を妄想する。
指の腹の聴こえてこない音のそのまわりに崩れる形。
聴こえてこない足音のそのまわりに翅めいた形。
いろんな方向に引き伸ばされていったりするポテトをシャッフルする形。
消防車のサイレンが吸う心臓の形。
中身が流れ出したような風の形。
そのジャズは、
サイモン&ガーファンクルの「アメリカ」という曲だった。
2周目が来た。


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