入り江
「灰色じゃない」とずっと言っている誰かがいた。
「なんで灰色やっているの」とずっと問いかけられる誰かもいた。
誰かはゴミ役で、ほうきに掃かれると「入り江」と言う。
それから「私はゴミだから灰色なのであって、灰色をやっているわけではない」と言った。
身を縮められながら、灰色はどんどん濃くなっていく感じがした。
僕は本を破くのが好きだ。
破く前、本のノドと言われる部分が人間の肘の関節のようにポキッと言うのが好きだ。
ある日、100円で買った「饗宴」を破いた。
本当は「生誕の災厄」を買いたかったが高すぎたので「饗宴」を買った。
結果、きれいに破けた。
破いてもソクラテスに論破される哲学者は出てこなかった。
そのなかで
「灰色じゃない」とずっと言っている誰かがいた。
「なんで灰色やっているの」とずっと問いかけられる誰かもいた。
そんなの答えられるわけないじゃない。
僕は灰色が好きだ。
灰色の島が好きだ。
ごろごろしている重たくて軽くなりたい死にたい誰かが好きだ。
「言葉にすぎないね」と最後に発した誰かが誰かに殴られたそいつも好きだ。
そんなことを考え
ゴミを散らかしながら、
僕は眠ることをせずにぼうっとしていた。