「恋するスピリチュアル 第二部」あの日の夢
あれは、もうずいぶん昔の事だった。
私はその頃、短大生で、生まれ故郷の南の島を離れ、本土の学校へ通っていた。
短大では、寮に入り、文学ゼミで、週に三冊もの近代文学を読んで感想文を書かされ、放課後は美術部で油絵を描いていた。
同年代の女の子達と切磋琢磨し、お喋りに興じ、漱石や鷗外、鏡花や有島を読む日々…。
充実はしていたが、なにせ生まれて初めて親元を離れたので、寂しかった。
幸いそこは、本土とはいえ、同じ県内だったので、親戚たちがおり、私は、母方の叔父さんの家へしょっちゅう遊びに行っていた。
そこには、まだ小学生の従兄弟たちがおり、私は彼らの遊び相手になっていた。
ある日の事だった。
私は、いつものように、学校が終わると、叔父さんの家へと向かった。
その日は、高学年のお兄ちゃんはおらず、弟だけがいたので、
「バトミントンをしょう」と誘うと、
「友達もいい」と聞くではないか。
見ると、従兄弟の後ろに、小さな男の子が見え隠れしていた。
「この子は、〇〇君。まだ一年生なんだ」と従兄弟は紹介した。
〇〇君と名前を伏せたのは、一度聞いただけのその名をまったく思いだせなかったからだ。
「ふ〜ん」と私は思った。
その時、従兄弟は確か小学二年生だったと思う。それが何故、学年の違う子と遊んでいるのだろうと疑問に感じた。
家が近所で、よく遊んでいたのだろうか。
学年が違うと帰る時間が違うから、なかなか一緒に遊べないものだけど…。
私なら、年の違う子と遊んだりしないなぁ…と。
従兄弟は続けて、
「〇〇君のお母さんは、本当のお母さんじゃないんだよね」と言ったのだ。
そうして、同意を求めるように、
「ねー」と〇〇君の方を振り返った。
私はびっくりした。
そんなプライベートな事が、子供の口から、いとも簡単に飛び出した事に、面食らったからだ。
〇〇君も初対面の私に、そんな事を知られるとは思ってもみなかったのだろう。
泣きそうな声で小さく「う、うん」と頷くと、その場に固まってしまった。
私は、なるだけ、何でもない風を装って、
「そうなんだ」とだけ言って、
「さ、やろう」と二人をバトミントンに誘った。
その時の私としては、気落ちしているだろう〇〇君の気を、何とか紛らわしてやりたいと思っていたのだ。
いつもなら、高学年のお兄ちゃんと二人でバシバシ打ち込む白い羽根も、その日は、私、従兄弟、私、〇〇君、とゆっくり回っていった。
まだまだ10代の血気盛んな頃の私。
従兄弟とのラリーを楽しみにしていただけに、急に小さい子たちの子守りをすることになり戸惑っていた。
さして、面白くはないゲームだったが、それでも、私は従兄弟よりも、この突然の闖入者の方へ気を配っていた。
最初はぎこちなく、遠慮がちに羽根を返していた〇〇君も、だんだんと慣れてくると動きが大きくなってきた。
私は、「はい、隆君。はい、〇〇君」と声を掛けてながら、羽根を打っていった。
やがて、羽根を打ち返す度に、〇〇君の顔が上気してきて、輝きはじめた。そうして、いつの間にか彼は、私を見つめていた。
その瞳には、憧れとも親しみとでも言うような光が宿っていた。
そして、その顔はこう語っていたのだ。
〝あなたが、僕のお母さんだったらいいのに…〟。
私はその熱烈な視線を痛いほど感じながら、これ以上、この子に期待をさせるのは酷だと考えていた。
つづく
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「恋するスピリチュアル」第一部、前回はコチラから
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