クリスマスの扉
ピッ
痛む腰をかばいながら改札を出ると、キラキラ光るイルミネーションの向こうに白い息で走る子どもが見えた。その後ろにはベビーカーに山盛りの荷物を乗せた夫婦の姿。
もうすっかり陽も落ちて、指先がかじかむくらいなのに子どもの頬は真っ赤だ。
「コート着なさーい!」
「やだ、暑い。」
「風邪引くから。」
「へーき。」
駅に向かう笑顔の人々とすれ違い、僕はいっそう強く光るゲートに吸い込まれていく。
「おはようございます。」
ユニフォームに着替え、大きな掃除機を担ぐ。賑やかな昼の残骸が溢れている。
BGMの消えた遊園地はなんとなく異世界感がある。本来の姿ではなく、仮面を剥がされたウラの顔。
床に散らばるポップコーンを吸い上げ、テーブルやイスを端から整えていくと、そこに小さなカギが落ちていた。
家の鍵でも車の鍵でもない、どう見てもオモチャの、金色のカギ。
「拾得物センターに行ってきます。」
周りのスタッフに声をかけ、センターに向かう。
「りょ〜、こっち片しとくな。」
「ありがとうございます。」
遠くから突然、コインゲーム機の音が響く。思わずビクッと振り向く。こればかりはいつまで経っても慣れず、つい驚いてしまう。
暗いアトラクションの前を通り過ぎる時、僕を励ますみたいにカギを持つ指先が不意に熱を帯びたように感じた。
僕はそのままカギをポケットにしまった。
向こう側に行きたくなった時、カギがなくては進めないから。
キラキラ光るそのカギはまるでクリスマスの贈り物のようで、
痛む腰が少しだけ軽くなったような気がした。