見出し画像

在職定時改定

65歳以上の老齢厚生年金を受給している在職中の人は、70歳になり資格を喪失するか退職(退職時改定)しない限り毎月保険料を納付していても年金受給額が改定されていませんでした。令和4年4月より在職定時改定という制度がスタートし1年働いて納めた保険料の成果が毎年(10月)、年金受給額に反映されることになりました。

(在職定時改定)
受給権者が毎年9月1日(以下「基準日」という。)において被保険者である場合(基準日に被保険者の資格を取得した場合を除く。)の老齢厚生年金の額は、基準日の属する月前の被保険者であった期間をその計算の基礎とするものとし、基準日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。

ただし、基準日が被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの間に到来し、かつ、当該被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの期間が1月以内である場合は、基準日の属する月前の被保険者であった期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、基準日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。

厚生年金保険法 法43条2項

条文から読取れるのは
・毎年9月1日(基準日)に被保険者
・基準日の属する月前の被保険者期間を計算
基準日の属する月の翌月(10月)から年金額改定

9月1日(基準日)に被保険者で10月(翌月)改定なので
ザイショク(九)テイジュ(十)改定と覚えちゃいましょう。

ただし書き以降は
9月1日(基準日)被保険者で無くても「資格を喪失してから再び取得するまでの期間が1月以内」であれば同様に改定しますという意味です。


✅在職定時改定の要件と改定時期

65歳以上の老齢厚生年金受給者については、毎年基準日である9月1日において被保険者である場合、基準日の属する月前の被保険者であった期間をその計算の基礎として、基準日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。

厚生労働省HPより

在職定時改定は65歳以上70歳未満の受給権者が対象です。60歳台前半の老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)には適用されませんので注意が必要です。

✅退職時改定の要件と改定時期

条文では在職定時改定の下、第43条3項に記されています。

(退職時改訂)
被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して1月を経過したときは、その被保険者の資格を喪失した月前における被保険者であつた期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、資格を喪失した日(その事業所又は船舶に使用されなくなったとき、適用事業所でなくなること又は任意単独被保険者の資格喪失について厚生労働大臣の認可を受けたとき、適用除外に該当するに至ったときは、その日)から起算して1月を経過した日の属する月から、年金の額を改定する。

厚生年金保険法 法43条3項

被保険者が資格を喪失して、かつ被保険者となることなく資格を喪失した日から起算して1月経過したら、資格を喪失した日から起算して1月経過した日の属する月から年金の額を改定します。

問題. 在職老齢年金の受給者が平成28年1月31日付けで退職し同年2月1日に被保険者資格を喪失し、かつ被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して1カ月を経過した場合、当該被保険者資格を喪失した月前における被保険者であった期間も老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、平成28年3月から年金額が改定される。

過去問 平成28年 厚生年金保険法

解答 ✕
在職老齢年金の受給権者が資格を喪失したのは2月1日です。かつ被保険者の資格を喪失してから1か月が経過。退職時改定の要件にあてはまります。条文をみると「資格を喪失した日から起算して1月経過した日の属する月から年金の額を改定」とありますので

2月1日喪失→1か月経過した属する月→3月から改定
では無く正解は2月から改定されるんです。条文のカッコ内に注目

資格を喪失した日(その事業所又は船舶に使用されなくなったとき、適用事業所でなくなること又は任意単独被保険者の資格喪失について厚生労働大臣の認可を受けたとき、適用除外に該当するに至ったときは、その日

その事業所又は船舶に使用されなくなったときとは「退職日」のことなんです。
例として1月9日に退職したら翌日喪失なので1月10日に資格を喪失、すると2月から年金額改定となりますので問題ないのですが、月末退社した場合、資格喪失が翌月になってしまい年金額改定が3月となり反映されるのが遅くなってしまいます。そこで「その事業所又は船舶に使用されなくなったときは、その日」と出来るだけ早く年金額へ反映されるよう配慮されているんですね。理屈が分かってから、もう一度条文を読むと理解が進むと思います。

✅年金額改定の整理

年金額が改定される在職定時改定退職時改定を見てきました。まだ改定されるタイミングが存在します。特別支給の老齢厚生年金を受給中の人は65歳に到達すると失権し「本来支給の老齢厚生年金」の受給権が発生します。ここでも在職しており厚生年金の被保険者があると年金額の改定が行われます。

在職定時改定65歳以上の本来支給の老齢厚生年金の受給権者しか対象ではありませんので60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金の受給権者に在職定時改定は行われません。特別支給の老齢厚生年金の受給権者が在職し保険料を納めた結果が年金額に反映されるのは「退職時」「65歳到達時」となり、そして本来支給の老齢厚生年金の受給権者が在職である場合は「毎年10月(在職定時改定)」「退職時」「70歳到達時」となります。

イメージ

✅老齢厚生年金を繰上げした場合

在職中で特別支給の老齢厚生年金と「繰上げした老齢厚生年金」では年金額改定のタイミングが違うのに注意です。老齢厚生年金を繰上げして受給している人は退職して1か月経過しても退職時改定されません

・65歳に達するまでは原則、退職時改定はない。
・在職中でも、65歳に達したら改定する。

なお退職時改定等によって新たに増額された部分は、繰上げによる減額の対象とはなりません

例えば64歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できる人が繰上げ支給を請求して60歳から受給する場合はどうでしょうか?

この場合は特別支給の老齢厚生年金を受給できる64歳に達するまでは、退職時改定されませんので一番早く年金額が改定されるのは64歳となります。在職中であっても一旦、特別支給の老齢厚生年金を受給する年齢に達したら翌月改定されます。特別支給の老齢厚生年金を受給開始後は退職時改定されますので退職時改定か65歳到達時の、どちらか早い方で改定されます。

問題. 特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が61歳である昭和29年4月2日生まれの男性が60歳に達した日の属する月の翌月からいわゆる全部繰上げの老齢厚生年金を受給し、かつ60歳から62歳まで継続して第1号厚生年金被保険者であった場合、その者が61歳に達したときは、61歳に達した日の属する月前における被保険者であった期間を当該老齢厚生年金の額の計算の基礎とし、61歳に達した日の属する月の翌月から年金額が改定される。

過去問 平成28年 厚生年金保険法

解答 〇
特別支給の老齢厚生年金の対象者が、老齢厚生年金の支給繰上げの請求があった日以後の被保険者期間を有する場合は特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢に達したときに、年齢に達した日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。設問の方の特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢は61歳なので60歳から62歳まで継続して第1号厚生年金被保険者であった場合、一番早く改定されるタイミングは、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢である61歳。年金額が改定されるのは61歳に達した日の属する月の翌月で正解となる。



いいなと思ったら応援しよう!

パルにゃん|社会保険労務士
記事を読んで頂きありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。