【敗者の街番外編】いずれ理想に至るまで
犬を飼っていたことがある。正確に言えば、今もオランダの実家で飼われているはずだ。
友人の家庭環境の変化で、飼えなくなったのを引き取った。今実家にいるのは、その子世代だ。
困った者を見過ごせない正義感が、確かに救った命。
それなのに、僕はどうして、奪う側に回ってしまったのだろう。
泣きながら飼い犬に謝る友人を励まし、全て任せろと言った日から、いったい何が変わってしまったのだろうか。
僕が犯し続けた罪は、その友人を撃ち殺すことと同じだったというのに。
***
時折、闇の中で過去を追想する。
悔いたところで、もう取り返しはつかない。自分を罰するだけの行為にしかなり得ない。
けれど、忘れたくない。……忘れてしまったから、僕は、自分の正しさだけを信じて突き進んだのだ。
振り返るべき時に、振り返らなければならない。
***
友人の家庭環境が悪化したのは、青天の霹靂だった。
父親が失業し、薬物中毒に陥ったのだと聞いたのを覚えている。
まだ若かった友人も、それで多少荒れた。ギャングの集会に行こうとしたのを、殴って止めたことも覚えている。
友人は犬を可愛がっていた。……それでも、父が、そして自分が殴ってしまうからと、泣く泣く手放すことを決めた。
僕は友人の慟哭に心を痛め、我が家で犬を引き取れるようにと両親を説得した。そして、今も、その子供たちが実家で両親に愛されている。
なあ、僕。あれは友人だけのせいだったのか?
彼を殺せば解決するような問題だったのか?
闇雲に命を奪えば、あの犬を……荒れた環境に巻き込まれた弱者を、救うことになったのか?
そうしなかったから、あの犬は、子供を産んで、今も穏やかに暮らしているんじゃないのか……?
……追想に戻ろう。
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