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※R18注意【有料記事】ある農夫の恋 part.1【「堕ちた神父と血の接吻」番外編】
※「ヴィルがもし盗賊にならなかったら」というIFの物語です
あの人に初めて出会ったのは、肥料の買い付けで街に出た時だった。
たまたま教会の前を通った時、信徒に挨拶をしているところを見かけて、目を奪われた。
太陽に照らされた銀の髪がきらきらと輝いて、黒いカソックの上に流れていた。
女性と見間違うほどの綺麗な顔立ちに、背が高くてしっかりと筋肉のついた体格。
たぶん、一目惚れだった。
「どうされましたか?」
「えっ」
じっと見つめていたせいか、視線に気付かれちまったらしい。声をかけられて、思わずうろたえた。低めの声も耳に心地良くて、心臓が高鳴る。
「あ、や、その……」
しどろもどろになるオレを見て、その人は不思議そうに小首を傾げた。灰色の瞳が、怪訝そうに細められる。
「お、オレ、田舎から来たもんで、道わかんなくて……あの、役場行きてぇんですけど……」
怪しまれたくなくて、必死に用事をでっちあげた。
「ああ……それはそれは。大変でしたね」
どうにか、怪しまれずに済んだらしい。
心の中でほっと胸を撫で下ろし、道案内の声にそっと耳を傾ける。
落ち着く声だ。低めで少し掠れていて、優しくて、ほんのり甘くて、ずっと聞いていたくなる。
「……大丈夫でしょうか? 辿り着けそうですか?」
「あ、は、はい! 大丈夫っす!!」
背筋をぴんと伸ばし、「ありがとうございます!」と礼を言う。
オレの様子を見て、目の前の彼はふわりと笑った。
ずっと見ていたくなるような、優しい微笑みだった。
「それは良かった」
後に、その人が教会の助祭さんで、コンラートという名前だと知った。
買い付けなんてめんどくせぇと思っていたけど、その日から、買い付けも作物を売りに行くのも、街に行く用事は全部オレが引き受けることにした。
親父は嬉しそうにしていたけど、お袋にはちょっと怪しまれた。食事中に、「好きな人でもできたのかねぇ」なんて図星を指されたけど、どうにか適当にはぐらかしておいた。
叶わない恋だってのは分かっていた。
男同士である以上に、相手は聖職者だ。時々遠くから眺めて、たまにミサにこっそり潜り込むぐらいで我慢するしかねぇ。……それと……
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