【有料記事】敗者の街 ― Happy Halloween VI ―
※敗者の街シリーズ未読の方はネタバレ注意です
「よく集まってくれた。そろそろ、俺たちが恋しくなってきた頃じゃねぇかい?」
ハロウィン。
生と死の境界が曖昧になる日。
僕とロッド義兄さん、アン姉さん、オリーヴの四人は、レニーさん、レヴィくんからの呼びかけによって、再び集まることになった。
場所は「繋がりやすい」という理由でロッド兄さんの仕事部屋。ちょっと狭苦しくは感じるけれど、これでも人選は考えた方なんだと思う。
……あ、そうだ。名乗り忘れてた。
久しぶりに語り手になった気がするな。 僕はロバート・ハリス。一応は、歴史学者だよ。
「記録が必要だからな」って言われたけど……もしかして、これ、議事録担当にされてない……?
「……あれ。そういえばレオさんいないね。いいの……?」
「構わねぇさ。俺らは魂で通じ合ってる。必要のねぇ時にまで、わざわざ呼ぶこたねぇ」
……そっか。野暮なことを聞いちゃったかもしれない。
やっぱり、二人は僕たちには分からないほど深い絆で繋がって……
「あと、今回はアイツがいたらややこしくなるしな。バカは使いようが大事なんだよ」
……って、バッサリ切り捨てたー!?
もしかして、今日は肉体派が必要とされない日!? レヴィくんいるのに!?
「ロバート、念の為言っておくが、俺は頭脳派だ」
待って、レヴィくんまで僕の心が読めるようになってる……!
本当に頭脳派になっちゃったのかも! すごい!
「さて、そろそろ本題に入るぜ。俺は本来ツッコミ担当じゃないんでね。ツッコミはロデリックがまとめてやっといてくれや」
「キラーパスが過ぎるだろ……!?」
あれ、レニーさん、もしかして疲れてる?
もしかしてレオさん呼ばなかったのも、ツッコミやらされがちだから??
「できれば一分以内にまとめてくれねぇかい? それで本題に入れる」
「え、えーと……ロバート、お前分かりやす過ぎんだよ……。顔に全部出てるし、俺ですらエスパーになれるわ。それと、レヴィ……さん、は……まあ、一応頭脳派じゃねぇかな……」
「い、一応とはなんだ!」
「よし完璧だ。本題行くぜ」
「レ二ーさん!?」
レヴィくんの抗議を「気にしなさんな」と軽く流し、レニーさんは皆の前に向き直った。
うーん、なんというか……。強いなぁ……。
「知ってのとおり、ロデリックのスランプで『敗者の街Ⅱ』の進行は長いこと止まってる」
「まじごめん……」
「まあほら、幼馴染のロブと協力するのと、友達の雑誌記者さんと協力するのとでは勝手が違うだろうし……」
「そうだよ! 元気出して!」
ど凹み中のロッド義兄さんを慰めるアン姉さんとオリーヴ。
っていうか、そもそも童話作家なんだよねロッド義兄さん。考えてみれば、僕に産業革命とか世界大戦について論文書けって言ってるようなもんだよね。お疲れ様……。
「……だが、俺らは知られなきゃならねぇ。それは分かってくれるかい?」
「歪んだ理の中で秩序を成すには、他者の目が必要不可欠だ。……『認識されること』。それが何よりも、俺たち『死者』にとっての力となる」
そう。
レヴィくんとレニーさんの言うこともよくわかる。
「死者」である彼らの魂は脆く、不安定な存在だ。
そんな彼らの存在感を高め、世界に干渉する力を強めるには、より多くの人の共感と支持を集める必要がある。
レヴィくん達は、それだけ大変なことをやろうとしてるんだ。
僕だって、できることなら応援したい。
「だが、ロデリック・アンダーソンに無理を強いるわけにもいかん。……そこで、だ。また別の切り口から対策を練ることにした」
「対策? どんなの?」
「まあまあ、焦りなさんな。今説明するところだよ」
真面目な顔で腕を組むレヴィくんの横で、レニーさんはひらひらと手を振りながら、あくまでも軽い調子で語る。
……なんやかんや、いいコンビなのかもしれない。レヴィくんは頑張りすぎる方だし、こういう大人……大人? 見た目は完全に子供だけど……まあいいや、経験値の高い霊がそばに居てくれるのは、すごく助かるんじゃないかな。
「事の発端はこうだ。コルネリス・ディートリッヒからの報告で何者か……おそらくはロナルド・アンダーソンが脱走を試みた形跡が発見された。母さんの見立てでは、『街』とはまた異なる亜空間に繋がりかけていたとのことだ」
うわ。ロン義兄さん何してるの……。
流石というかなんというか、やりたい放題だなぁ。
「毎回ウチの兄貴がまじですんません……」
「ロッドは悪くないだろ。カス野郎の罪はカス野郎だけが背負うべきだと思うな」
アン姉さんの言葉はサラッとした感じだけど、語る内容にはずしりとした重さがある。
僕が何も言えずにいると、今度はレヴィくんが口を開いた。
「俺も同感ですね。奴を赦すことは、これから先も絶対にない」
瞳にも、言葉にも、激しい怨嗟が満ち満ちている。
……僕では決して理解できそうにない、壮絶な憎悪が、そこにはある。
「お前さん達の気持ちはよく分かる。後でゆっくりじっくりしっかり聞いてやるから、今は話を続けようぜ」
レヴィくん、そしてアン姉さんの瞳に宿った怨みの炎を、レニーさんが静かに鎮めてくれた。
僕からも何か言おうかなと思ったけど、やめた。
今は、傷に触れるべき時じゃない。……彼らの傷にも、僕の傷にも。
「……失礼した。要するに……此処とは異なる『死者の世界』の存在が判明した、ということだ」
「えっ、そんなのあるの?」
「敗者の街」と名付けられたあの空間以外にも、死者の世界がある。
そっか。世界には、僕の知らないことがまだまだたくさんあるんだ。
僕の知らないところで凄い発見があったみたいで、何だかワクワクしてしまう。
「残念ながら、交流までは不可能だった。だが、ある程度、断片的な情報を得ることはできた」
すごい。本当にすごい。
異なる「死後の世界」から得られた情報……いったい、どんな情報なんだろう。
「その『情報』のおかげで、今後の方針も定まったって寸法さ」
レニーさんはニヤリと笑い、言葉を続ける。
「ってなわけで、俺たちは乙女ゲームを作ることにした」
「なるほど乙女ゲー……うん?」
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