※R18注意【有料記事】ある農夫の恋 part.3【「堕ちた神父と血の接吻」番外編】
神父様が家に来て、数日が経った。
忙しくなることは覚悟していたけど、現実は、予想以上に変化がなかった。
神父様はずっとベッドに座って大人しくしているし、食事もまともに摂らないから、そのぶん食い扶持が減ることもない。
「面倒見る余裕なんかないよ」と言ってたお袋でさえ、「そろそろちゃんと食わせな!」と焦り出したくらいだ。
とはいえスープを飲ませようとしても、力なく首を振るだけで口に入れてくれない。
無理やり流し込もうとするぐらいまで行って、ようやく根負けしてくれるほどだ。
……どうしよう。このままじゃダメだ。
神父様が「吸血鬼」とやらになっちまったのは、でまかせじゃなくて本当だった。死ににくくなった代わりに、血を飲まなきゃ生きられない身体になってる……はずだ。
それなのに、血を飲まないどころか、メシすらまともに食わないんじゃ未来は決まりきってる。
……いいや。もしかしたら、その「未来」こそが目的なのかもな。
「死ぬつもりですか」
オレの質問に、神父様は俯いたまま何も答えない。
「……生きたくないんですか」
質問を変えると、神父様はしばらく俯いたままじっとして……やがて、静かに頷いた。
当たり前だ。
あんなに酷い目に遭ったんだから。
……でも、嫌だ。
だって、神父様は、何も悪いことなんかしてねぇだろ。
「お願いします。生きてください」
更にやつれ始めた手を握り締め、伝える。
「酷いこと言ってんのはわかってます。でも……」
涙が頬を伝う。
分かってる。きっと、今の神父様にとっては、死ぬよりも、生きる方がよっぽどつらくて苦しいことだ。……それでも、オレのわがままだって分かってるけど、生きて欲しい。そばにいて欲しい。
「また、笑って欲しいんです」
オレの言葉に、神父様はゆっくりと顔を上げた。
虚ろな瞳は、相変わらず何も映さない。
「愛してますから」
光を失った瞳が、わずかに揺れる。「愛して……?」と、血の気の失せた唇が、声もなくオレの言葉を繰り返した。
「飲んでください」
雑草刈り用の小刀で自分の親指を切りつけ、神父様の口元に差し出す。
「……っ」
神父様は嫌がるように顔を背けたが、その程度で諦める気なんかない。追いかけるようにし、口元に手を伸ばし続ける。
しばらくそんな押し問答が続き、神父様はやがて、恐る恐るといった様子でオレの指先をちろりと舐めた。
「ん……っ」
そのまま、神父様は溢れる血を無我夢中で飲み下す。
「あぁ……」
赤く染まった瞳は光を映さないまま、恍惚と蕩けていた。
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