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【敗者の街番外編】遺されたもの

 失われたものについて、悔いたことも、嘆いたことも、なかったわけじゃない。
 いびつな状態での「存在」を、喜ばなかったと言えば、嘘になる。

 亡霊として、時折自我や記憶を揺らがせながら、それでも笑いかけてくれた彼と、私だって共にいたかった。

「……でもね、分かっていたの。このままじゃ先に進めないって。だから……そうね。忘れはしないけど、大切な『過去』として、思い出に留めることにしたのよ」

 傍らの部下に、そう語る。夫婦について……結婚について知りたい、と、新入りの青年は私を訪ねてきた。
 デスクの上の、写真立てを手に取る。亡き夫の姿を、ガラスの上からなぞる。

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