【敗者の街番外編】I love your warmth.
アンが熱を出した。
「ただの微熱だし心配いらない」と本人は言っていたが、どうしても心配で病院に連れていくと、診断はごく普通の風邪だった。ひとまず安心したが……帰りの車の中、助手席でぐったりしている姿を見ていると、また不安になってくる。
「……大丈夫か、ほんとに」
「大したことない」
強がっているようには見えないが、アンの「大したことない」ほど信用できない言葉はない。
一定の苦痛を超えると、彼女は自分の苦痛を認識できなくなる。無理をしていることにも気付かなくなって、本人ですら気付かないうちに限界を超えている。……マシになった方だとはいえ、彼女はまだ、どこか壊れている。
「……手、握っていい?」
そう言ったのは、俺だった。
どうしようもなく不安だった。……彼女の手を握って、温もりを確かめたかった。
「……ん……車、停めたら……いいよ」
頷いてくれたから、路肩に駐車し、手を握る。
熱のせいか、いつもより温かい。ちゃんと、生きている手だ。
「キスはいる?」
俺が黙っていたら、冗談っぽく聞いてくる。
もちろん俺はしたい。……けど、彼女がそういう聞き方する時は、たぶん、そこまでやりたくない。
「……していいのかよ」
「……風邪、うつしたくないから……やっぱりだめ」
「言いたかっただけってやつか?」
「……まあ……そうなる、よな……」
赤くなった顔を隠すように、アンは窓の方を向いた。
今日は元からほんのり赤いけど、雪明かりのおかげか、変化がよく見えた。
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