異端なスター
長いまえがき
先日、活動していたSNSのアカウントを消した。
時折、この世から「私」という存在をひとつ残らず全て消してしまいたくなることがある。築いてきた関係、書き綴ってきた文章、自分なりに素敵な人であろうとする心など「私」が大切にしてきたはずのもの、ぜんぶぜんぶ。
ありがたいことに、私には私の文章を好いてくださる方がいる。文章を超えて私自身を好きだと言ってくださる方もいる。そんな私にはもったいない心優しい方々に心底申し訳ないと思いながらも、私はこの悪癖をやめることができない。
持病を患ってから、趣味で文章を書くことを覚えた。初めはがむしゃらだった。ある日突然学校に行けなくなってそのまま家で数日過ごしていたとき、創作活動なんてしたことがなく知識もなかった私がふと思い立って、今考えても驚くべき速さで当時ハマっていたジャンルの動画を完成させた。
そして、幸運なことにその動画に添えた文章にたくさんの方から素敵な言葉をいただいた。生きてきた中で一度も文章を褒められたことのなかった私が、だ。
この体験は私の大きな糧になった。私の文章を受け入れてくださる方がいる、褒めてくださる方がいる。顔も知らない誰かの「言葉」は確かに私を癒した。大げさかもしれないが、ここにいてもいいと認めてもらえたような気持ちになった。
それからずっと、私は文章を書き続けている。訪れたイベントのレポ、大好きな人を布教するための文章、一から世界を紡ぐ一次創作小説、ありったけの好きと思いの丈を伝えるお手紙など。
残念ながら、文章を書くきっかけとなった持病は一向に良くならないし、むしろ年を追うごとに悪化している気がする。でも、書くことをやめられなかった、やめたくなかった。私にとって書くことはいつしか「生きること」になって、そして「楽しいこと」にもなったから。
しかし、ふと冷静になったときに筆を折りたくなる瞬間があった。投げつけられた心無い言葉にもうやめてしまおうと、復元できないアカウントを消して大切にしていたはずの創作物を無に帰したこともある。
今年に入って二次創作を始めてから特に、何度も筆を折りたくなった。私が身を置いているのが大きなジャンルということもあり、周りを見渡せばたくさんの素晴らしい才能がごろごろと転がっている。書いてきた年数も、言葉選びのセンスも、文章の構成力も何もかも勝てない素敵な文字書きさんが恐ろしいほどの数いた。その方々の文章を読む度に打ちひしがれた。なんで私は「こんなもの」しか生み出せないんだろう、界隈の文章が上手い文字書きさんの言う「カス」すら書けないんだろうと忸怩たる思いだった。
けれども、続けたもの勝ちという風潮のあるこの世界で、筆を折ることを私自身が許さなかった。温かい言葉を送ってくださる方の声にも応えたかった。それにお借りしている作品とキャラクターは何があったって大好きだったから、どんなに苦しくても、辛くても、書くことをやめられなかった。騙し騙し書き続けた。
書き続けていさえいれば、素晴らしい文章は書けるようにならなくても、近づくことくらいはできるかもしれない。一縷の希望に縋って、ここ半年ほど自分なりに勉強したり、インプットをしたりしながら、書いて書いて書き続けた。
そうして辿り着いたのが、「アカウントを消す」という笑えない結果だった。
『異端なスター』という曲に出会う
積み重なっていたものが決壊してアカウントを消してから数日、何もかもに疲れ果てて寝込む日々が続いた。誰の声も聴きたくなくて、世界から自分を遮断するための音楽をかけながら、全ての時間を睡眠に費やした。
そんな日々の中で唯一私の琴線に触れたのが、Official髭男dismさんの『異端なスター』という曲だった。イントロが印象的で前々から気になっていた曲ではあったのだが、自然と作業や生活の中に溶け込んでいて、きちんと向き合ったことはなかった。
そのまま寝込んで数日過ごしてほんの少し気分が上を向いたとき、時間だけはたっぷりあるし一度耳と心をしっかりと傾けてみようと思い立ち、歌詞と共に『異端なスター』を聴いた。
泣いた。びっくりするほど泣いた。
ここ数日は泣く元気すらなくて、最悪の気分で日々をやり過ごしていた私の心と体に、いきなり極彩色の音楽と言葉が流れ込んできた。
歌詞を構成するひとつひとつの言葉が心に刺さってしかたなかった。すこんと突き抜ける爽快な歌声に励まされた。
声を上げることを、叫ぶことを、歌うことをやめないでと力強く語りかける雄弁な歌声にひとしきり泣いたあと、前を向こうと思った。そして今、きっかけとしてこの文章を書いている。
短いあとがき
私が文章を書くのは、突き詰めるとどこまでも自分のためだ。けれども、私の文章がほんの少しでも誰かの心を動かしたらいいなとも思っている。小さな小さな祈りが、私の文章には込められている。
多分、私はこれからも何度も苦悩し、傷つき、辛い思いをしながらも書くことをやめられないのだと思う。何かを変えるために、伝えるために、私はこれからも言葉を紡ぐ。大げさな決意だけ、ここに残しておこうと思う。
ここまで読んでくださってありがとうございました!またいつか、文章を通してあなたとお会いできたら嬉しいです。
ここまで目を通してくださりありがとうございます!もし記事を気に入ってくださったら無理のない範囲でサポートしてくださると嬉しいです。