back number/高嶺の花子さん が、小説のなかで流れたら
厚みのあるストリングスが、悲しげなメロディを奏でる。B'zの「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」に似たなつかしさ。
バンドサウンドになると、エフェクトをきかせたギターが空間を満たす。ドラマーがタムを交えて勢いをつけると、ストリングスも加わり4発のキメ。
Aメロでは、ギタリストが淡々と8分音符を刻んでいく。《たかが知人Bにむけられた 笑顔があれならもう 恐ろしい人だ》とは、恐ろしい発想の歌詞だ。
Bメロに入ると《黒魔術》というワードまで登場。「んんー」をよくはさむ歌い手だ。《車もない》《でも見たい》とのベーシックなライムが気もちいい。そのうしろに《おはようと笑う君を》を持ってくる倒置法。
サビは生演奏のディスコビート。《夏の魔物》と言われると、スピッツを思いだす。何となくメロディラインも、「青い車」のころのかれらのテイストにきこえる。
スピッツといえば、男性ヴォーカルがよく使うファルセットの源泉は、あの「ロビンソン」にあるのではないだろうか。《夏の魔法とやらの力で》と歌うメロディからも、その匂いが漂う。
サビの2回し目では、《違くたって》という、耳を疑うフレーズが入ってくる。金子みすずの「みんな違ってみんないい」への冒涜か。いや、かれらは確信犯としてやっている。
20年まえにはポルノグラフィティも、ら抜き言葉を自信満々に発音していた。さらに時代がここまできて、ついて行けなくなった自分に愕然とする。「違ってたって」としてもそれなりに曲は成り立つはず。なのに、今の感覚でこだわれば、何かが違っているのだろう。
いや待てよ、「生まれた星の下が違う」とはどういうことなのか。並べかえれば「違う星の下に生まれた」となり、そのほうが一般的な言いかただ。「違う星の下に生まれてたって」と歌ってもメロディにのりそうなものだけれど、きっと音楽的なハマりが違うのだろう。
《僕のものに》のロングトーン。それこそスピッツなどであれば、「なってほしい」が省略されてサビが終わりそうだ。この曲の場合は、《なるわけないか》と付け足して落としこまれる。イントロのストリングスの旋律にもどると、おなじ旋律をギターもなぞり、ディスコビートが疾走感を引きつぐ。
2番のAメロでもやはり「んんー」とはさむヴォーカル。彼女の彼氏を想像する歌詞が、ここまでのストーリーに入りこみはじめた僕の胸をつく。背伸びしてのキスや、頭を撫でられている姿がイメージされて苦しい。たいした経験もないくせに、不思議なものだ。
2回目のサビでは《夏の魔法》を《アブラカタブラ》と言いかえ、末尾は《僕のものに》で宙吊りに。《なるわけない》とならなかった妄想が、Cメロでふくらんでいき、《怖すぎる》と、結局は現実へ引きもどされる主人公。
静から動へとつながるクライマックスのサビ。ラストひと回しであらためて確認される《僕のものに なるわけないか》。アウトロで悲しげなストリングスが、ディスコビートに乗りつづける。
数えてみると、この1曲に使われていた「魔」の文字は7つ。やはり恐ろしい発想の歌詞だった。