DISH///猫 が、小説のなかで流れたら
イルカの「なごり雪」でもはじまりそうなピアノとストリングスから、甘い歌声が聴こえてくる。《夕焼けが燃えて この街ごと飲み込んでしまいそう》という鮮やかなイメージ。《この僕も一緒に飲み込んでしまえよ夕焼け》と、比喩は続いていく。《明日ってウザいほど来るよな》も攻めたワードだ。
Bメロでは一転、《家まで帰ろう》と、懐かしい日本の風景が漂う。だけど、夕焼けのシーンで語られていたのは、主人公の別れのストーリーだった。当然のように帰り道は、《1人で帰ろう》となるしかない。
《忘れてやるさ 馬鹿》と、強すぎるほどの悪口が——と思った瞬間、もう一度続けられる《馬鹿》——耳をとらえた言葉は、そうか《馬鹿馬鹿しい》だったのか、と、日常会話のリミッターのなかにおさめられる。
サビに入ると《寝転んで》の「ネコ」の音を拾い、《猫になったんだよ》と曲のタイトルが登場する。《馬鹿馬鹿しい》と同じような言葉遊び。遊び心が逆に、主人公の悲しみを照らしだしていく。喜劇と悲劇は紙一重とは、だれが言ったのだったか。
2番も夕焼けの比喩からのスタート。《家までつくのが こんなにも嫌だ》とつぶやくBメロは、《歩くスピード》が遅いことの理由を、《君が隣にいる時のまんま》だからとする。主人公は彼女に合わせてゆっくり歩いていたのだろう。
《歩くスピード》が遅いのは、彼女のいない家に帰りたくないからでもある。自覚していながら目をそらそうとする主人公。
《馬鹿馬鹿しい》があったタイミングで、今度は《ため息ばっか》《馬鹿にしろよ》とつながる言葉遊び。無理やりではあるものの、直後に《笑えよ》と補われることで、《馬鹿にしろよ》の意味がかろうじて飲みこめる。
オーソドックスなサビで今度は、《面白いくらいにつまらない》というワードが飛びだす。さらに《全力で》《全身で》と重ねられる修飾語。気持ちが静かに高まっていく。
上品なストリングスのうえで、乾いたギターのソロタイム。細かく揺らされたビブラートは、ぎりぎりまでピッチを外しにいき、まるで主人公の代わりに泣いているようでもある。
ピアノのみの伴奏で静かにはじまる締めのサビ。段々とバンドサウンドに包まれていくヴォーカルが、もう言葉遊びを忘れ、《会いたいんだ忘れられない》と、赤裸々に気持ちを吐きだした。