映画を言葉に!「バリアフリー日本語字幕」③~価値観の違いがスタートライン~
移動のバリアゼロ!の映画配信プロジェクト #うちドキュ第2弾 「うちにいながらドキュメンタリー映画で旅しよう」 なんと、残すところあと2日となりました!!ドキュメンタリー映画をバリアフリー日本語字幕と音声ガイド付きで観られる機会、なかなか珍しいです。お見逃しなく!
ということで、今日はバリアフリー日本語字幕から観た映画の魅力をご紹介! 配信中の映画『アラヤシキの住人たち』の字幕制作時のポイント、監督や映画製作者、ご覧いただいた字幕ユーザーのコメントをお届けします!
映画『アラヤシキの住人たち』
公開時、バリアフリー版のチラシも作成いただきました!
北アルプスの山裾、長野県小谷村。車の通わない山道を1時間半歩いたところにある真木共働学舎。今の社会に肉体的・精神的な生きづらさを抱える人も、そうでない人も、だれもが固有に持つそれぞれの能力を尊重しあい暮らす様子は、きっと毎日を楽しく生きるヒントを与えてくれる。
写真家である本橋成一監督が映し出す四季はとても美しく、誰もが懐かしい原風景。雪を踏む音、雪解け水の音、鳥のさえずり、夜の鈴虫、枯葉の音など、目でも耳でも旅を満喫できる映画です。
本橋成一(もとはし・せいいち)監督の自撮りトーク
なんと、本橋成一監督が今回のうちドキュのためにコメントをくださいました!!!これにはスタッフもビックリ!
本橋監督には、この映画について、コロナ禍の現在の状況について、お話しいただきました。このなかで字幕に関してもコメントいただいています。
映画っていうのはことばが録音されて出てきて 当たり前だけど
僕は写真をずっととってた人間だから
それだけでもすごいなあと思うんだけども
今度 この映画 文字も出るように作り足したんだけどね
そうするとまた 画(え)が立体的になるっていうのがね
やっぱりこれは すごく新鮮で
字幕によって、映像が立体的になる
これがどういうことか詳しく見ていきましょう。
「字幕協力:公益財団法人日本野鳥の会」
ご覧になった方、こちらのテロップは気になりませんでしたか?
字幕モニター会当時のエピソード。
モニターさんからこんなご質問がありました。
『"鳥の鳴き声"と字幕が出るときはすべて同じ鳥なのでしょうか?』
季節をめぐるこの映画はさまざまな鳥の鳴き声が聞こえます。
一般的な映画だったら、朝の雰囲気の効果音くらいの印象で観ていただけるんですが、何しろ回数が多すぎたようで、聞こえるのはぜんぶ同じ鳥の鳴き声なのかな?と気になったとのことです。
ハッとしました。
実は季節の移り変わりとともに、鳴く鳥の声も違うんです。
意識せず聞き流していましたが、鳥の鳴き声によって秋を感じたり春を感じたり、季節をとらえていることに気がつきました。
はじめは、鳴き声のちがいを表そうと擬音にしてみました。
「鳥の鳴き声:チュンチュン」
「鳥の鳴き声:ホーホケキョ」
「鳥の鳴き声:キーキーキー」
鳴き声に違いがあるのはわかるけど、季節の移り変わりはわからない…
また、擬音での表現は主観的過ぎて「キーじゃなくてピー?」「いやいや、キキ―って聞こえない?」と、聞こえる人も混乱。
そこで、わかる鳥の名前を入れてみようとなりました。
「ウグイスの鳴き声」
「ヒヨドリの鳴き声」
違いがあるのがわかる。しかも、春に「ウグイス」の名前が出て、別の季節に別の鳥の名前が出たら、季節感も出るかも…!
これだ!
でも、これって本当にヒヨドリで合ってるのか…?鳴き声から鳥の名前を調べるってどうしたら…?
「日本野鳥の会に問い合わせてみましょう。」
なんと、映画製作側の方の鶴の一声で、日本野鳥の会の方に映画をご覧いただき鳴いている鳥の名前を調べていただけることになりました。
ウグイス・ヒヨドリ・キジバト・アカショウビン・ホオジロ・シジュウカラ…
調べた鳥の名前は字幕に反映し、鳴き声が季節によって移り変わることを楽しめる字幕となりました。聞こえていても「これがキジバトの鳴き声なんだ~」って知ることができて楽しい字幕です!ご覧になった方はどんなふうに感じたのでしょうか?
石川絵理(いしかわ・えり)さん
特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)
字幕ユーザーの石川さんにコメントをいただきました!
あなたという人は地球始まって以来、絶対いなかったはずです。
あなたという人は地球が滅びるまで出てこないはずなんです。
わたくしはそう思っています。
−−−宮嶋眞一郎
印象的なイントロダクションから始まる
この映画の底に一貫して流れているのは、
誰もがそのままで、
そこに居ていいんだということ。
監督のコメントに「立体的になる」というのがありましたが、私の場合は野鳥の声が特にそうですね。
鳥の名前がわかったことで、鳴き声まではわからないまでも「こんなにたくさん種類があるところなんだ!」と分かります。
それが、まったく聞こえない私にとっては「立体的になる」ということですね。
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製作の方の自撮りトークでは、そのほかの字幕モニター会のエピソードについてもお話しいただきました!
大槻貴宏(おおつき・たかひろ)プロデューサー&中植(なかうえ)きさらさんのトーク
(中植さん) アラヤシキに行くまでの道を歩いているときに
鈴の音がするシーンがあるんですが"この鈴の音は熊よけのためにつけてるんですよね?"っておっしゃるモニターの方がいて、そうなんですっていう話をしたんですけど、それを"熊よけの鈴"と表記するか "鈴の音"と表記するかっていうので、すごくもめて、というか議論になって…
最終的には、聞こえてる人でも鈴の音がしてるなっていうことで過ぎる人もいれば、状況から見て熊よけの鈴だって思う人もいるから、その広さを持たせるために"鈴の音"にしようっていうことになったと思うんですけど
みなさんそれぞれ同じ価値観ていうか感覚ではないっていうところに立って作るっていうのがすごくおもしろかったですね
(大槻さん)(映画館で上映するときは)"バリアフリー版"上映、みたいな言い方になっちゃうけど、もっとそこがフラットになればいいなと思っていて。配信ていうのは個々でオンにしたりオフにしたり「これやってみよう」とかっていうことができるのですごく可能性があるんじゃないかと思ってますね
みなさんのコメントを拝見していると、映画のテーマとバリアフリー版の制作がリンクしているように感じました。
私たちは字幕や音声ガイドの制作を仕事にしていますが、字幕や音声ガイドで映画を楽しめる方法を準備することも「個性」を尊重する、ということ。さらに、決して押し付けず、ひとりひとりの価値観で映画を「立体的」にとらえられるような制作を目指していくことの大切さを、この『アラヤシキの住人たち』と出会って、改めて思いました。
今回のようにバリアフリー版の映画を配信するなど、より多くの方に映画を楽しんでいただくことの可能性についてもこれからも挑戦していきたいと思っています!
#うちドキュ は明日7月5日(日)まで!
今回ご紹介した『アラヤシキの住人たち』のほかに、『イーちゃんの白い杖』『四万十~いのちの仕舞い~』『老人と海』『沖縄うりずんの雨』をあわせた全5作品を配信中。
鑑賞後はぜひ「#うちドキュ」「#映画で旅しよう」を付けて感想をお寄せください。
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字幕についての①と②の記事はこちらから。