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【過去詩】一行ファンタジア【10秒小説集】

強い宇宙線を浴び頬を火傷にただれさせて、彼女は言った、あなたに会うためにこの星まで来たのです。

ステファンの五つ子のどこかを巡る石ころのどれかひとつで、海に落ちた硫黄の欠片がほろりほどけてそれから。

ちょっと醤油を垂らしてワサビを添えて、優雅にすくいあげる竹箸の先、なまめかしく淡い桃色に輝くあなたの前頭葉。

アンドロメダの涙からやってきた航宙船団は、数億の生物を地表に落として溶け去った。

薪のなかで死んでいた小さなカナヘビが、あなたに会えと言ったのです。

あたし消されてしまった、ブラウザを終了させたあなたの手によって。

猫に根気よく話し続けた老女が暮らしていた廃屋に、いまは、二匹の仲睦まじい猫が住んでいる。

物語を物語る物語の老婆の皺は、物語が物語られるたび、物語を物語るものになってゆく。

沼から手が出るの、と母親に怖い昔話を聞かされて育った男が、沼から突き出た死体の手を発見した。

微熱が続くのと言う少女の体温は13度、蜥蜴人なんだから微熱なんか気にしないで早く寝なさい、冬が来るよ。

地下鉄に乗りこむと自分以外のすべての乗客が死体だったので運転士と車掌を探したらどちらも死んでいた。

彼は一生このままなのだ、と納得した彼女は彼の胸に伏して泣き、彼はその重みと暖かさを懐かしく認識することができた、そのときは、まだ。

塩をひとつまみ、黒糖を小さじ一杯、あと何か必要だったのだけれど、どうしても思い出せないまま鍋に夕日が落ちてくる。

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