見出し画像

閃怪10-2

1.バターナイフ

女子高生二人でデパートの四階の食堂でラーメン食べて、エレベーターに乗って降りた。二階でエレベーターが止まった。ドアがあくと知らないおっさんがいて、手を伸ばして「これあげる」、突然のことでなにも考えず受けとるとバターナイフである。ふと気づくとおっさんはいなかった。そのバターナイフはまだうちにある。


2.生首

頭が痛いと思いながらベランダに佇むと空から黒いものが落ちてきた。よく見ると生首だった。驚いて後ずさるとポンと空気が抜けるような音がして崩れ、バラバラになったのを見ると大量の黒蟻である。腰を抜かしている間に蟻はみんなどこかに消えてしまった。


3.雨の夜

雨の夜、彼女と歩いてた。そしたら道端に女がうずくまってた。苦しそうに見えたから声をかけると、ひょいと上げた顔が彼女と瓜二つ。振り向くとそこにも見慣れた彼女の顔。え、と驚くとにやっと笑って消えちまった。それからだ。彼女なんかいなかったって誰もが言うんだ。


4.マグロ

父から聞いた話である。私の父は私鉄で車掌をしていた。線路でマグロを拾ったことがあった。マグロが何かは聞かないでほしい。バケツに拾い集めて休憩していると線路のほうで呻き声がする。見に行っても誰もいない。しかし足元に肉片があった。それを拾ってバケツにおさめ、線香をあげた。呻き声は消えた。


5.隙間男

義姉から聞いた話である。暗い雰囲気のホテルで。寝ようとしたら壁に人影がある。エアコンと壁の隙間の狭いところに細い男の人が挟まっている。怖いから目をつぶって無理やり寝て。それから何年も経ってまたそこに行ったの。もうホテルはなくて。近くの店で「あのホテルは」と尋ねると言葉を濁された。


6.廃ホテル

宛先は確かにこの住所なんだけど。車を停めて見上げる廃ホテルの窓はひどく割れている。どうしたものか考えあぐねていると奥の階段から黒いものが降りてきて礼を言う。宅配の荷物を捨てて逃げたよ。サインなんか要らねえ。


7.水に棲むもの

ごく穏やかな流れで水面には顔が写るほどなのに澱んではいない。微妙な違和感に立ち上がる。ここはどこだ? いつからここにいた? 私は? 走り出そうにも木道は不安定だ。足を滑らせて落ちる。「ずっとここにいればいいのに。いるっていったくせに」緑にぬめる顔が微笑む。


8.社の奥

角ある像二つあり、右は紅の、左は紺の衣を纏ふ。ひとたび見れば目潰るるとて社の奥深くひた隠す。されど我は知るなり、目は潰れぬ。鏡の中の我が背なに紅と紺の影立ちて笑ふ。既に人の世に立ち紛るること叶はぬ我が額に角くろぐろと伸びゆくなり。


9.ひまわり畑

青い色紙みたいな空の下、ひまわり畑の中で麦わら帽子が上下する。あの子だ。会いたくて走る。見失う。また走る。ひまわりのあいま、遠いところでひょこっと麦わら帽子が飛び出る。むくむく伸び上がる。見上げれば見上げるだけ高くなり、もう、どこを見てもひまわりしか見えない。…戻れない。


10.やまい

毎年の夏、若い娘を山にやります。娘は山の幸を抱えて戻ります。それはやまいと呼ぶ風習でございました。しかし数十年に一度、娘が戻らぬことがございます。やまいとは、山に居ると書くのでございましょう。ええ。次はあなたがやまいになるのですよ。老いた私と入れ替わりに。

いいなと思ったら応援しよう!