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二十年の季節の物語

その星では、四季それぞれが二十年の長さを持つ。

1.祖母(夏のはじめの生まれ)

もう夏が終わるのだと父が言う。父は冬生まれでこれまで二季を過ごしている。祖父はといえば地球生まれなので何季とか言えないらしい。三百六十五日で春夏秋冬全部が巡るなんて、祖父が生まれたところはなんて目まぐるしいのか。私は夏のはじめの生まれで一季しか知らないから、夏以外の季節を想像できない。汗と雑草と水泳の夏、と父は言うけど、汗も雑草も水泳もない毎日ってどんなのだろう。私は少し怖い。

2.祖父(夏のはじめの生まれ)

秋もじきに終わる。秋というものはものはずいぶん穏やかで暮らしやすい季節だと最初は思った。秋の嵐に出くわすまではそう思っていた。夏にも嵐はあったが秋の嵐はたちが悪い。一季と半分を生きた僕にこどもが生まれたときは本当にひどい嵐で産婆もきてくれず大苦労して僕がとりあげたが僕の妻は死んだ。あの子ももう半季生きた。一季生きれば成人だ。僕も年をとるわけだ。


3.父(秋の半ばの生まれ)

秋生まれの俺はまだこの土地が暖かかったことを覚えている。いまここは厳寒で雪と氷に閉ざされているけれど。もうこの冬は終わらないのではないかとも思うのだけれど。それでも俺はこの真冬の真っ白な世界で君に会うことができた。冬にこどもを育てるのは大変だと言われて俺たちはまだこどもを作らないでいる。春はくるのだろうかと空を見上げる俺の手を君がそっと握る。


4.母(秋の半ばの生まれ)

春が来た! 私にとって生まれて初めての春だ。まだ氷も雪も残っている大地にはそれでも緑が芽吹き始め花が咲き始めた。私は赤ちゃんを抱っこして窓辺に佇む。この子はこども時代と青春時代を春と夏という素晴らしい季節のなかで過ごせる。正直少しうらやましい。秋生まれの私はまだ夏を知らない。夏は素敵な季節なのだと義父はいうが、この春ほど素敵な季節があるとは思えない。私がこれまで生きた中で最も美しい季節だ。


5.私(春のはじめの生まれ)

もうすぐ夏が来るのだという。春のはじめに生まれた私は夏を知らない。というか私の家族で夏を知っているのはおじいちゃんだけだ。夏のはじめに生まれたおじいちゃんは四季を全部知ってるはず。それで夏がどんなものかおじいちゃんに聞いたけど「また夏が来るのか、懐かしい、本当に懐かしい」と言うばかりでよくわからなかった。でもわかってることもある。私の春は終わる。私はこれから夏を生きる。人生でただいちどの夏だ。素晴らしい夏になりますように。

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