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身だしなみから一歩進んで、自分を演出するメンズコスメへ。「男らしさ」の概念から変わっていくのか

by パケトラご意見番 北山晃一

はじめに

男性の読者の皆さんは、どんな化粧品を使っているでしょうか。「MG5」「LUCIDO」などをお使いならミドル、シニアですね。以前、化粧品メーカーの方から、中高年の男性は若い時に使い始めた化粧品ブランドをずっと使ってきて、ブランドスイッチをしない傾向があるとお聞きしたことがあります。

そういう筆者もそうなんです。しかし、長く固定的な印象のあった男性化粧品市場にも、この10年でにわかに変調が見えてきました。ギラっとした男らしいルックスよりも、スッキリとナチュラルで清潔感漂う男子を目指す若い男性が増えてきたのであろう、そうした新しいメンズコスメが登場しています。

富士経済の調査では、ヘアケア、フェイスケアなどを含めたメンズコスメ市場は2018年までの10年間で約20%伸び、8年連続増加を示し今後も好調を維持して、2020年には1191億円まで増えると予測しています。

そして特に注目したいのは、男性用メイクアップ商品の登場です。ソウル在住の二俣愛子ライターによるレポート「増えるメイク男子。韓国市場から見る、未来の「メンズコスメ」市場」では、日本にも大きな影響を与えている韓国のコスメ事情が報告されています。

さあ、日本でもK-POP男性アイドル風メイクの男子が増えていくのでしょうか。一緒に考えてみましょう。 

国内に続々登場し始め、注目されるメンズコスメ商品

そのソウルからのレポートにありましたが、フランスのシャネルが2018年9月にメンズメイク商品「BOY DE CHANEL」を世界で最初に韓国で販売開始し、同年11月には日本市場へ投入しています。男性のためのメイキャップライン展開は、シャネル約100年の歴史の中で初の試みといいます。

そして、米国のラグジュアリーブランド「トムフォード」のメンズメイク製品「TOM FORD FOR MEN」も2019年3月日本に上陸しています。

国内メーカーではポーラ・オルビスホールディングスが、2018年秋からカラーメイク用製品も取りそろえた業界初のメンズ総合コスメブランド「FIVEISM × THREE(ファイブイズム バイ スリー)」を立ち上げ話題となりました。アイシャドウやリップなど多数のアイテムを揃えています。

そして昨年末に、韓国で人気のジェンダーニュートラルメイクアップブランドの「LAKA」も日本に上陸しています。いよいよ日本でも世界のミレニアルズやZ世代と同じく、中性的、ジェンダーフリーなメンズコスメの傾向に向かうのでしょうか。

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Photo:LAKA公式サイト( http://laka.co.kr/product/detail.html?product_no=52&cate_no=1&display_group=3 )より

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Photo:LAKA公式サイト( http://laka.co.kr/web/upload/supload/img/product/smliptint_04-1.jpg )より

メンズコスメは世界規模で市場を拡大し続けているようです。COMPASS(メディアサイト)で紹介されている米国の調査Allied Market Researchでは、男性のパーソナルケア市場は2022年に1,660億ドルにのぼると予測しています。同じく調査会社のNPD Group のレポートでは、2018年の男性用スキンケア製品の売上が7%以上増加し、現在同カテゴリは1億2,200万ドルとなっているとのことです。

合わせて米国の18〜22歳の男性の40%近くがジェンダーレスな美容製品に関心を示しているとし、男性回答者の56%以上が、2018年に少なくとも1回、ファンデーション、コンシーラー、BBクリームなどのフェイシャル化粧品の使用を行なっているという結果を伝えています。

その他の情報でも、中国では男性化粧品市場が毎年2倍の割合で拡大しているといいます。そして韓国の男性化粧品市場は、近年の日本のメンズフェイスケア市場の6.5倍以上はあると予測されています。

国内の大手化粧品会社は以前よりメンズコスメをラインナップしていましたが、そのほとんどがヘアケアもしくはヘアスタイリング剤やシェービング関連商品です。

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Photo:日本のドラッグストアのメンズコスメコーナー

メンズコスメ関連の近年の流れで筆者が思い起こすのは、1990年代中盤の茶髪ブームでのヘアカラー、1990年代後半のフェイシャルペーパー、2000年代後半のギャツビーのムービングラバー(ヘアワックス)などのヒットで、これらは若い男性が主体であったものです。この中でフェイシャルペーパーは身だしなみと清潔感のため、つまり昔からの身だしなみ目的の延長線上にあるものかと思います。

一方、ヘアカラーは「ちょい不良イメージ」の演出から始まったと思いますが、ヘアワックスの自由なヘアスタイル作りと同様、自分演出のためのものであるところが少し違うように思います。今注目されているメンズメイクへの下地作りと言えるようなものであったのではないでしょうか。

男子のメイク、社会環境の変化に押され拡大か

男性のフェイスケア、メンズメイクが盛り上がってきています。もともと女性比率の高まってきた職場で女性の目を意識することから、ビジネスパーソンでは見た目の意識の高まりがでてきました。

また、若い世代を中心にSNSの動画、画像などで自分が被写体となることが多く、意識することも要因でしょう。韓国の男性アイドルの人気や、ジェンダーレス男子がメディアで活躍し、その化粧がオシャレに感じるようになったという社会価値観の変化が見られます。

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Photo:LAKA公式サイト( http://laka.co.kr/mundane/html/sub_page/about.html )より

ここに興味深いデータがあります。マンダムが2018年に行った平成男子への意識調査です。平成男子が自信がないのは、内面より、外見だということ。「肌のキレイさに自信がない」が4割超で1位となり、10-20代の男子の約6割が「視線耐性がない」と自覚している、との結果であります。視線耐性といえばスマートフォンの影響が大きいと思います。

女性に関しての話になりますが、画像加工アプリで小顔にしたり、目を大きく加工した自撮り写真を示して「こうなりたい」と希望する20~30代の女性が急増中で、国内の美容整形市場が拡大していると、矢野経済研究所の調査で報告されています(美容医療の市場規模:2017年は2011年に比べ約25%増で約3200億円)。

こちらも女性中心の話ですが、日経ビジネスの記事で報告された「ストリートアカデミー(講師と学びたい個人のマッチング)」で2019年に最も売れた講座は、写真の「撮られ方」講座であったというものです。受講生は女性が主だと思いますが、いかに美しく被写体になるかということで、今やこのニーズは男女をこえているのではないかと思われます。

男子もアプリで簡単に肌をキレイに加工できることから、美肌に対する理想と意識が高まっている可能性もあると、先のマンダムの調査報告にはあります。

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Photo:LAKA公式サイト( http://laka.co.kr/mundane/html/sub_page/about.html )より

ホットペッパービューティーの調査(2017年)では、「外見を今よりよくすること」「若さを保つこと」への関心があると答えたのは、男性の61.1%。20代が74.5%(最も関心が高い)、10代が72%となっており、10代・20代は関心度が前年よりも10ポイント以上高くなり、若い層の「美容への関心」の高さが顕著になっているということです。メンズコスメも7割以上の男性が利用しており、増加傾向にあると報告されています。

メンズコスメのパッケージデザインにも新風が現れる

ここで、メンズコスメのパッケージを見てみましょう。話題になっているブランドのシャネル「BOY DE CHANEL」、トムフォード「TOM FORD FOR MEN」、シスレー「Sisleyum for men」、スリー「FIVEISM × THREE」。各社の公式ホームページでパッケージを確認ください。

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Photo:シャネル公式サイト( https://www.chanel.com/ja_JP/fragrance-beauty/makeup/p/boy-de-chanel.html )より

図6

Photo:トムフォード公式サイト( https://www.tomford.com/s/tomford/beauty/men/ )より

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Photo:シスレー公式サイト( https://www.sisley-paris.com/ja-JP/for-men.html )より

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Photo:ファイブイズム バイ スリー公式サイト( https://www.fiveism-x-three.com/ )より

各社の主要アイテムはほぼブラック(またはそれに近い濃い色)一色、「FIVEISM × THREE」はホワイト一色で、白黒モノトーンの世界です。特にブラックカラーは日本の商品でもずっと変わらない「男性といえば」の色で、このあたりは高級ブランドゆえの伝統(ある種固定観念)であると言えそうです。そうすると「FIVEISM × THREE」のホワイトには、よりトレンドリード=ジェンダーレス志向の意図を感じます。

さらにファンデーションをバー形状にしたり、アイシャドウには持ち手を付けたデザインにするなど、男性はモノを指先で持って使うという動作特性を自然に取り入れたものにしています。

そして異色な方向を出しているのが、2018年2月に登場した「BOTCHAN(ボッチャン)」です。スキンケアを中心に展開する「男らしくを抜け出す」をコンセプトとしたブランドで、男性的イメージな「黒・白」ではないカラフルなパッケージが目を引きます。これらパッケージデザインを見ても新たな狙いが試されていることがわかります。

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Photo:ボッチャン公式サイト( https://botchan.tokyo/ )より

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Photo:ボッチャン スキンパーフェクター マット メンズ肌補正クリーム(ボッチャン公式サイト https://botchan.tokyo/item004.html より)

日本の男子も身だしなみから一歩進んで、自分を演出するメンズコスメへ向かう

さて、日本でその動きが気になる資生堂は、メンズメイクには慎重姿勢を崩していないようです。国内市場の開拓はこれからだということでしょうか。とはいえ繊研新聞電子版で資生堂のメンズメイクの調査が紹介されています(男性のスキンケアと肌や眉を整える等の行為に関する意識調査 20~50代の男性439人が対象)。

メンズメイクをしてみたい人は「機会があったらしてみたい」「すごく思う」「思う」の合計が86.8%で、興味の高さが表れているということです。メイクをすることで「ビジネスの場で有利になる(出世する、商談の成果が上がるなど)」と考える男性は68.6%いるという結果であるというのです。筆者が注目したいのは、後者のデータであります。

ビジネスパーソンが化粧をして好印象を与えることで成果につながるのなら、これは普及が期待できるものではないか。欧米の政治家の世界では見た目の効果に注目し、化粧を戦略的に使い始めています。フランスのマクロン大統領は自分のメイクに多額の公費を使って「メイキャップゲート」問題になったり、トランプ大統領のオレンジメイクが若く活力あるイメージ演出で話題になったりしています。

現在はまだファッション感度の高い男性に限られています。株式会社ドクターシーラボの調査では、男性の美肌になりたいという声は向上しつつも、まだまだ実行に移せていない実態であるとありました。

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Photo:LAKA公式サイト( http://laka.co.kr/mundane/html/sub_page/about.html )より

筆者の感じるところですが、先に見たような近年登場したメンズコスメの商品においては、日本で広く男性の感覚に訴求するとしたら少し難解、高度ではないかと思うのです。女性のようには化粧の経験もなく、商品意図や使い方を理解するのに慣れていないと思われるからです。

まずはわかりやすく、SNSでの自己表現でもビジネスシーンでも、自分をよく見せて有利に働くという価値を伝えるならば、積極的に使っていくことになるでしょう。そうすれば、従来の身だしなみから一歩進んで自分を演出するコスメへと変わっていくことでしょう。

韓国で拡大するようなジェンダーフリーの化粧品市場へシフトしていくには、まだしばらく時間が必要なのではないでしょうか。

▼参考
メンズコスメティックス市場(富士経済グループ・プレスリリース
メンズメイクはもう世界の常識!?欧米からアジアまで、世界で広がるメンズコスメトレンド(COMPASS)
Men are a multibillion dollar growth opportunity for the beauty industry(CNBC)
初公開 2019年に売れた「スキル」ランキング、上位の共通項は?(日経ビジネス )
男性のメイクに関する意識調査(2019)(ホットペッパービューティーアカデミー)
メンズメイク「してみたい」が約9割(繊研新聞電子版)

ビジネスのヒントに。「パケトラ」

by パケトラご意見番 北山晃一


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