2023・宝塚記念 〜青い帆を揚げグランプリの大海原へ〜
I はじめに
「せっかくのグランプリだし、好きな馬を買いたい。」
競馬において、馬券の当たりハズレよりも重視したいことはあると感じる。私にとってのそれは推し馬の応援。結論から言うと、今回の本命は推し馬のヴェラアズールである。有馬記念で買っておいてここで買わないわけにはいかない。
ただ、馬券を買う以上は好走する可能性がどれだけあるのかを把握した上で、適正な金額の馬券を握りしめて応援したいところ。(有馬記念の◯万負けで学びました。)そこで今回は、私の推し馬であるヴェラアズールが宝塚記念という舞台においてどれだけ期待できるのか、様々な角度から考えていきたい。(いつもの予想記事とは趣旨がやや異なります。)
II ラップ適性
私がレースの予想をする際に最も重視しているのがラップ。まず、ヴェラアズールの得意とするラップはどのような質のものか?また、今年の宝塚記念はどのような展開になりそうか?といったところを考えていきたい。
①ヴェラアズールの得意とするラップ
芝に転向してからの国内7戦のレースラップを振り返る。()内のタイムは勝ち馬のタイム。
・1着 淡路特別(阪神 2600m/2:38.4)
「12.8-10.8-11.9-13.2-13.0-12.4-12.3-12.3-12.3-12.1-11.8-11.4-12.1」
稍重のコンディションの中で、序盤はそこそこの負荷を受ける流れ。緩む部分もあったが中盤からは淡々と刻まれるラップ。持久力が問われたレースで完勝。
・3着 サンシャインS(中山 2500m/2:33.2)
「7.3-11.0-11.5-11.4-12.1-12.8-12.3-12.8-13.0-13.1-12.4-11.5-11.6」
※0.5F-1.5F-2.5F-…の記載。
ラスト4F目→ラスト3F目にかけて0.7、ラスト3F目→ラスト2F目にかけて0.9も速くなっている瞬発力戦。
ほぼ最後方から上がり最速で届かず3着も、ラスト4F目まで13秒台で緩すぎ。届かなくて当然。
・3着 緑風S(東京 2400m/2:24.4)
「12.7-11.4-12.2-12.1-12.5-12.3-12.4-11.8-11.8-11.5-11.8-11.8」
ラスト5Fでギアが上がり、淡々と刻まれるラップ。
・1着 ジューンS(東京 2400m/2:25.7)
「13.1-12.0-13.2-13.1-12.4-11.9-12.2-12.1-11.4-11.2-11.3-11.8」
後半5F57.8。中盤負荷もそこそこかかっている。
・1着 京都大賞典(阪神 2400m/2:24.3)
「12.1-11.2-12.5-12.6-12.3-12.8-12.6-12.4-11.9-11.3-10.9-11.7」
序〜中盤スローからの瞬発力戦。ラスト7F目の12.8からラスト2F目の10.9までずっと加速ラップ。この間に2秒近く加速している。瞬発力だけでなく持続力も問われている。
・1着 ジャパンC(東京 2400m/2:23.7)
「12.8-11.2-12.3-12.5-12.3-12.2-12.4-12.1-11.7-11.4-11.3-11.5」
レース当日の高速馬場を考慮するとスロー寄りと言える。ラスト5Fでペースが上がっていくラップ。(シャフリヤールの得意な後半5F戦で勝ち切れたという点でかなり評価できる。)
・10着 有馬記念(中山 2500m/2:32.4)
「7.0-11.3-11.7-12.1-12.5-13.1-12.7-12.4-11.8-11.9-12.2-11.4-12.3」
※0.5F-1.5F-2.5F-…の記載。
1500m地点でペースの上がる、先行馬には厳しい流れ。外差しに展開が向いた。ヴェラアズールも展開的には恩恵を受けられるはずだったが直線伸び切れず。
ヴェラアズールの評価で多数を占めるのが「瞬発力型であり、持続力型ではない。」とするもの。確かに瞬発力が求められるレースでのパフォーマンスもかなりのものだが、持続力質のレースでも勝ち切れている。世間の評価ほど瞬発力一辺倒のパラメータではない。上がりのかかるレースは向かないというのも淡路特別(レース上がり35.3)のパフォーマンスが否定材料となる。
②2023宝塚記念のラップは?
以下の画像は過去10年のラップをまとめたもの。
(当たり前だが)開催年によって前傾戦となるか後傾戦となるかは異なっている。メンバーと枠順次第。
今年は逃げ・先行型のユニコーンライオン、ドゥラエレーデ、アスクビクターモア、ブレークアップが外枠に固まったことで序盤のペースは上がりそう。ドゥラエレーデ陣営が今回は逃げ宣言を出しており、ハナを譲りたくないユニコーンライオンとポジションを争いそうなことも序盤ハイペースを後押し。ただ、どちらも道中ハイペース逃げをするタイプではないため、隊列が決まってからはスローで流れるか。2021宝塚記念の序盤を速くしたようなラップを想定。
→今年の宝塚記念は「速→遅→速」のラップ構成になりそう。
以上のようなラップを想定するならば、これまで経験してきたレースのラップから、ヴェラアズールにも適性的には向くのではないか。ヴェラアズールはジャパンCの勝ち方の外見上のインパクトや、有馬記念の敗戦から瞬発力特化型と評されることが多いが、私はそうは思わない。むしろ、ジャパンCの後半5Fの速い流れの中で一頭際立つ脚を披露して見せたことは、持続力を要する展開でも切れ味が鈍らないことの証左であると捉えている。
ただ、阪神内回りで行われる宝塚記念において中盤スロー展開は基本的には先行有利。渡辺調教師は「前でタメを利かせていければ」との姿勢だが、スタートがあまり速くないため序盤のハイペースに付いていくのは難しいだろう。かと言って直線を向いた時に縦長の最後方では厳しいため、コーナーで加速する等の騎乗の工夫は必要。(馬群が詰まっていた場合は後方からでも問題ないが。)では、それができるコースなのかといったところを次項で考えたい。
III コース適性
①コース形態
宝塚記念が行われる舞台は阪神・芝2200m(内回りコース)。
「阪神内回りは中山とほぼ同一」という説を時折見かけるが、本当にそうなのだろうか。
阪神・芝2200mの特徴を軽くまとめると、「コーナー4つ。直線は短めの約357m。直線途中には急坂がある。」
中山と阪神内回りで異なるのはコーナーの角度。同じ小回りでも阪神内回りの方がコーナーが緩めで、加速しながら直線に向かいやすい。また、3コーナー〜直線途中が下り坂になっている点もコーナー加速を後押しする。分かりやすい例は大阪杯のダノンザキッド。ストライドが大きく、中山かつ内枠ではあまり成績が振るわない馬だが、阪神内回りで外枠を引いた大阪杯ではストライドを伸ばしつつ直線へ向かうことができたため、勝ち馬とタイム差なしの3着と好走した。
ヴェラアズールもストライド走法のため、上記理論が当てはまる。同じ小回りでも、中山よりはコーナー角度の緩い阪神内回りで、好枠を引けた今回は、コーナーで加速しながら直線へ向かい、再び異次元の脚を披露することも可能か。
②馬場
ヴェラアズールのこれまでのレースの馬場については以下の画像にまとめた通り。
阪神競馬場は木曜〜金曜で雨が降ったが、週末は晴れ。阪神は水捌けがよく高クッション値になりやすいため、過度な散水が無ければ高クッション値での開催だろう。(金曜朝時点で9.4発表、土曜朝時点で9.8発表。当日は10超えもあり得るか。)ヴェラアズールはクッション値10超えの経験こそ無いが、比較的高クッション値のジューンSで、高クッション値が得意なブレークアップに完勝している点から問題なさそう。また、ジャパンC当日はクッション値9.3という数値にしてはかなりの高速馬場だったことから、高速馬場自体の適性は十分。
③右回り
コース適性への懸念点としては右回りであることが挙げられる。ヴェラアズールは右手前で走るのが得意な馬。本質的には左回りが合っている。
ただ、「右回りの京都大賞典で上がり33.2を使ってスローを後方から差し切る強い内容だったため右回りでも問題はない。」と考えることも可能だし、私もそのように捉えている。ちなみに、京都大賞典の直線では手前を3回替えている。直線を向いた直後は左手前。右手前に替えるが、途中で左手前に戻す。最後にもう一度右手前に戻しグンと加速し差し切り。左手前でもじわじわと加速していたが、右手前に切り替わった瞬間にかなり加速しているため、やはり本質は右手前が得意な馬(=左回りが得意)だろう。ただ、状態さえ良ければ右回りでも強いことを証明できたレースだった。
有馬記念では直線を右手前で走っていたがあまり伸びず。となると、これは状態面によるパフォーマンスの低下と考えるのが妥当か。次項ではその状態面についても考えてみたい。
IV 状態面
怒涛の快進撃を続け、臨んだ暮れの大舞台。4番人気10.0倍(と私の◯万円)を背負いながらも惨敗を喫した有馬記念。敗因は舞台適性のほか、状態面も大きかったと考えられる。ここでは有馬記念時及び今回の状態の考察を行う。
①有馬記念時の状態
状態が良くなかったと捉えられる根拠は大きく分けて2つ。ローテと輸送である。
まず、ローテについて。ジャパンC→有馬記念のローテは鬼門とされており、ヴェラアズールも疲れが抜けきっていなかったためか有馬記念前は軽めの調教しかできず。(手前の変換が頻繁すぎる点についてはそこまで問題ではない。上述したように京都大賞典の直線だけで3回替えているあたりからもシンプルに器用なだけかと。)
次に輸送について。降雪の影響でヴェラアズールを含む9頭は輸送遅延に巻き込まれていた。ヴェラアズールについても、ジャパンCの調教後馬体重522kg→ジャパンC馬体重518kg(−4kg)に対して有馬記念の調教後馬体重526kg→有馬記念馬体重518kg(−8kg)と、影響を感じ取れる。
また、話は逸れるが有馬記念では序〜中盤で包まれながらの競馬となり、かかってしまうシーンが何度もあった。これによる戦意喪失も敗因の一つだと考えている。
以上のことから、有馬記念時は状態が芳しくなかったと言える。道中の不利も考慮すればこの敗戦はノーカウントと捉えて問題ない。
②今回の状態
ドバイへの挑戦からの帰国初戦となるが、ダメージの溜まるようなレースをしていない点、間隔が空いている点から問題なさそう。
調子の良さは追い切りにも顕れている。
2週前:「6F78.6-5F63.4-4F49.3-3F36.3-2F23.4-1F11.7」
1週前:「6F80.0-5F65.1-4F50.6-3F36.3-2F22.8-1F11.4」
最終:「6F82.2-5F66.6-4F52.1-3F37.2-2F23.0-1F11.3」
一週前までに負荷をかけて最終は軽めの調教、というのはジャパンCを制した時と同じ。(今回も手前はコロコロ替えていたがそれによって疲労分散+加速できているため全く問題ない。恐らく走り方のクセみたいなもので、ジャパンCの調教でも直線で何度も手前を替えている。)これだけでも今回は調子が良いと言っていいのではないだろうか。さらに今回は輸送の心配もない。状態面に関しては有馬記念の時から全てにおいて上向いており、ジャパンC時と同等かそれ以上かもしれない。(陣営コメントはジャパンC、ドバイよりは落ちるというニュアンスだが果たして。)
V おわりに
ここまで、宝塚記念におけるヴェラアズールの可能性について探ってきた。
結論としては、今回のヴェラアズールは状態面、想定ペース・展開面から好走する可能性は十分で、「買い」である。有馬記念よりは自信を持って買える。直線が長いコースの方が向くのかもしれないが、買い要素が0ではないことが分かっただけでもファンとしては収穫ありと言える。来ないだろうと思いつつ買うのと、可能性があると思いつつ買うのでは応援の熱も違ってくるからである。
もう一度ヴェラアズールを信じて、グランプリの夢を見ようと思う。
おまけ 見解と印
おまけです。ヴェラアズールの単複だけ買って終わりでも良かったけどしばらくGI無いしちゃんと予想したいな〜と思ったので考えてみました。
①印
◎8.ヴェラアズール
○9.ジャスティンパレス
▲12.アスクビクターモア
△10.ディープボンド
△3.ダノンザキッド
△13.ジオグリフ
☆5.イクイノックス
買い目(予定)
・単勝:◎
・馬連、ワイド:◎−○▲△△△
・馬連:◎☆
・三連単:◎→○☆→○☆▲△△△(10点)
ヴェラアズールの単勝とイクイノックスを外した馬連・ワイドが本線。5点ずつは個人的には買いすぎ感もあるがオッズは付くので許容範囲。
ヴェラアズールとイクイノックスの馬連は抑え。
三連単は飾りです。
②各馬見解
◎8.ヴェラアズール
本編で述べた通りなので割愛。
状態さえまともなら本当に強いお馬さん。心中するつもりはない。勝つぞ。
○9.ジャスティンパレス
高クッション値でハイパフォーマンスだった馬が前走、稍重の天皇賞・春で完勝。本馬が充実期を迎えたことの証左。その馬が高クッション値阪神に戻ってくるというだけで買える。恐らく中盤が緩んだ方がいいタイプではあるが、想定する展開は中盤がやや緩むものなので問題ない。中盤が締まったとしても、菊花賞や阪神大賞典のパフォーマンスから持続力もある程度担保されているので対応可能なはず。イクイノックスと阪神で対決するのは初なので逆転できる要素は十分。
▲12.アスクビクターモア
分かりやすく高クッション値向きの馬。近2走はどちらも明らかに馬場、展開向かず度外視可能。(日経賞は前有利展開で出遅れ、天皇賞・春は序盤ハイペース前受け)
高クッション値かつ距離も得意レンジの今回は巻き返しても。先行最有力馬としての単穴評価。
△10.ディープボンド
クッション値は低い方が良いが、高クッション値でも2022宝塚記念では3着と差のない4着。追い切り等から状態が良さそうなので抑える。タフな展開になった時に前で粘れそう。
△3.ダノンザキッド
高クッション値は良い。ただ、本編でも触れたように走法的に阪神内回りはあまり合わなそう。外枠なら評価を上げるつもりだったが内枠なので連下まで。隊列次第では内枠からでもスムーズに走れるかもしれないし、距離ロスが少ない点はメリット。土曜のレースを見る限り、内側が荒れているにも関わらず伸びる印象。その傾向が続くならチャンスあり。
△13.ジオグリフ
適性内の条件に戻ってきてくれたという印象。新馬戦の東京18で後半5Fを57.3でまとめたパフォーマンスから東京でこその馬だと思い、ダービーでも天皇賞・秋でも本命にしてきた。しかし最近はトップスピードに限界を感じる走りで、札幌や中山で結果を出しているように結局は小回りコースの方が向いていそう。ピッチ走法で小回り適性よし、開催が進んで荒れた馬場もよし。
直前まで帝王賞との両睨みだった点や、追い切りが昨年の方が動けていたように見えた点で減点して連下評価で。
☆5.イクイノックス
本馬にとっては初の高クッション値阪神。オッズ的に切る選択肢もあったが、世界一位の馬に敬意を表して抑える。
キタサンブラック産駒は低クッション値での活躍が主。重賞ともなると9.5以上のクッション値での勝利はソールオリエンスの京成杯のみ。その京成杯は高クッション値ではあっても冬の中山でタフ馬場。高クッション値の高速馬場でこの人気なら通常は買いたくはならない。(しかし、この馬は通常ではない。)
末脚は一級品でコーナリングも完璧だが、強いて言えば上述の高クッション値適性とペース耐性に不安。今回は比較的前目につけるつもりらしいが、実質的にはスローしか経験のない本馬がどこまで対応できるか。(楽に追走して4角馬なりで上がっていくイクイノックスを容易に想像できてしまいますが。)
その他各馬
・ライラック
追い込み馬の最内枠で軽視。
・カラテ
基本的にはマイル馬。平坦な新潟なら2000まで守備範囲かな?
・ボッケリーニ
タフ馬場の方が向きそう。鳴尾記念は強かったが、メンバーレベルが格段に上がる今回は微妙。
・スルーセブンシーズ
高クッション値での成績は良いが、今回のメンバーが相手では足りないとみて軽視。
・プラダリア
レースでもスムーズに手前を替えることができるようになれば勝負になりそう。
・ジェラルディーナ
オールカマー〜有馬記念まで破竹の勢いも、全て低クッション値バフあり。ロンスパ戦には強いが、高クッション値の阪神で人気なら嫌ってみたい。
・ブレークアップ
高クッション値は得意だが、今回は強力な同型が多い。序〜中盤スローが好ましい馬だけに展開もやや合わなそうなため軽視。
・ユニコーンライオン
スロー逃げしたいが序盤はペース上がりそう。メンバーも強力で厳しそう。
・モズベッロ
降水量が足りない。
・ドゥラエレーデ
斤量は魅力だが本馬も序〜中盤スローが好ましい。