【天皇賞・秋】〜予知するのは己の戴冠〜
I.はじめに
天皇賞・秋といえば数々の名馬が制した伝統のレース。その舞台である東京・芝2000mのコースは実力がそのまま結果に反映されやすく、ここでの好走は純粋に能力の証明に繋がると言っても過言ではない。過去10年の優勝馬を遡っただけでも、イクイノックス、アーモンドアイ、キタサンブラック、モーリス等、超弩級の名馬たちの名が連なっている。競馬に触れたことのある人なら殆どが聞いたことのある名だろう。
さて、今年もそのレースの名に恥じない強豪が揃った。その中でもとりわけ注目を集めるのが、イクイノックスとドウデュースのダービー以来の対決だろう。世論も2強対決の様相を呈している。しかし、私は2強を凌ぎ得る怪物に期待したい。
結論から言おう。今回の本命はプログノーシスである。本馬は現役最強馬である可能性を秘めている。本記事ではプログノーシスの能力・レース適性についての考察を主に行う。
II.天皇賞・秋の展望
まず、前提として本レースの展開・傾向について簡単にまとめておく。
①傾向
以下の画像は天皇賞・秋の直近5年分のラップをまとめたものである。(いずれも良馬場開催)
基本的には序盤のペースは比較的落ち着いて、ラスト3ハロンor5ハロンの後半力勝負になる傾向。
2022のラップは極端な前傾ラップになっているが、これは大逃げのパンサラッサが刻んだラップであり、後続は実質的にはスローからの後半3F戦であった。(イクイノックスやダノンベルーガは上がり3F32秒台の脚を使っていた。)
そこで、見た目上は異質なラップとなった2022を除いた4年分のラップの平均をグラフ化してみる。
やはり全体バランスとしては序盤が落ち着き、後半力勝負となる傾向。
②2023
今年はどのような展開になるだろうか。ペースを実質的に握るのは十中八九ジャックドール。ジャックドールの持ち味は持続力を活かしたロンスパ逃げ。昨年の天皇賞・秋では後続集団の得意な上がり3F勝負の土俵に上がってしまったが、本来はより締まったラップを刻み、後半4〜5Fでさらにペースを上げていくのが本馬の得意なレース質。以下の画像は東京2000mでジャックドールが逃げて勝った際のラップ。
ウェルカムSは中盤をスローに落とし込む溜め逃げ。白富士Sのラップは11秒台のラップを刻み続けるタイトな逃げ。重賞を制した時は後者のようなラップを刻むことが多いので、ジャックドールと言えば締まったペースの逃げという印象を持っている方が多いのではないだろうか。
参考として、以下の画像は2000m重賞でジャックドールが逃げて勝った際のラップ。
もちろん、コース等の条件が異なるので単純に比較はできない。しかし、いずれも4〜5F時点でペースを引き上げているのが分かる。ジャックドールの持ち味はやはり、序〜中盤からタイトなラップを刻み最後まで粘れる持久力である。それを最大限に活かすなら、今回も締まったペースにする可能性はある。また、鞍上は昨年に引き続き藤岡佑介騎手。昨年の天皇賞・秋での経験を活かすという意味でも単純な上がり勝負に持ち込むのではなく、締まったペースを刻み、後続を消耗させる戦法を採る可能性は考えられる。
ただ、今年は11頭立ての少頭数かつ競りそうな相手がノースブリッジ以外にいないという状況。このメリットを捨てる覚悟で自滅の可能性も厭わないハイペース逃げの手を打つことは考え難いか。藤岡騎手は2022大阪杯で、2Fが10.3まで速くなるペースで逃げて本馬を馬群に沈めてしまった経験があることもこの思考を加速させる。ただ、上がり3Fだけの勝負では分が悪いことは分かっているはずなので、仕掛けはやや早いはず。
上記のコース形態、ジャックドールの特長、騎手心理から恐らくはスローorミドルペースからの後半5Fロングスパート勝負になるだろうという想定をしたい。ジャックドールに関しては恐らく昨年のパンサラッサよりも警戒されるため、相当なペースで逃げないと大逃げにはならないはず。下記の想定ペースぐらいなら後続は付いてくるだろう。(ジャックドールのペースが上がれば後続もペースを上げるため、昨年のような単純な上がり3F戦にはならない。)
・後半の締まった流れからのさらなるギアチェンジ。
・それを東京の長い直線で最後まで持続させること。
上記が最重要であると考える。ジャックドールと藤岡騎手が作り出すペース次第では序盤の追走力、延いては全体を通してのペース耐性も必要となる。
III.プログノーシス
以上を前提として、今回の本命馬であるプログノーシスについて考察する。
①馬場適性
まずは、本馬の馬場適性について。以下の画像は出走した全レースの馬場と結果についてまとめたものである。
3歳1勝クラスや札幌記念は低クッション値・高含水率で1着。武田尾特別や京橋Sでは高クッション値・低含水率で1着。様々な馬場コンディションで結果を残していることが分かる。カシオペアSや中日新聞杯では高クッション値で差し損ねているようにも映るが、これらは後述するように馬場の問題ではない。札幌記念の見た目上のインパクトから、重馬場・洋芝巧者であって高速馬場は不向きとする見解をしばしば見かけるが、本馬は馬場不問と言える。
②レース回顧
それでは、プログノーシスのこれまでの出走全レースを振り返っていく。
・3歳未勝利 阪神芝2000m・稍(1着)
デビュー戦が未勝利戦となった本馬。今思えば3月の未勝利戦とは思えないほどのメンバー構成。
ラップ推移は以下の通り。
「2:02.0/12.5-11.2-12.8-12.9-12.3-12.4-12.2-11.9-11.8-12.0」
稍重のコンディションで行われた本レースは後半6Fがほぼ同じペースを刻み続ける持久戦。レース上がり35.7に対してプログノーシスは上がり35.1。持続力を要するタフな流れからのギアチェンジが可能であることを初戦から証明。一際目立つ脚を披露し、後の重賞馬を含む好メンバーを相手に快勝した点でも、価値のある勝利。
ちなみに、本レースのプログノーシスはそこそこのスタートを決めて好位〜中団のポジションで進める競馬。自身のキャリアの中でもトップクラスにスムーズなレースだった。
・毎日杯 阪神芝1800m・良(3着)
デビュー戦から中1週、2戦目での重賞挑戦となった毎日杯。言わずと知れたレコード決着の超ハイレベル戦。(コースレコードは2023ローズSで更新されたが。)
「1:43.9/12.4-11.2-10.9-11.4-11.7-11.9-11.5-11.2-11.7」
前半5F57.6のハイペースにも関わらず、最後まで11秒台を刻み続けるスピード感のあるラップ。流れるペースからの末脚勝負で、前走よりも格段にハイレベルな持続力を求められた。
プログノーシスのレース内容としては最内枠で出遅れ→最後方から進めて末脚に懸ける展開に。直線では馬群を縫うように追い上げてきているが、前に壁ができるシーンもあった。とはいえ、最後は上位2頭と同等程度の脚色で差は縮まらず3着。
しかし、ここで強調したいのはプログノーシスはまだ2戦目、それも中1週での重賞挑戦だったにも関わらず1:44.2の好タイムで走破したということである。稍重の前走とはうってかわって高速馬場レコード決着の本レースで、後のダービー1、4着馬を相手に0.3差の3着にまとめたことはむしろ、相当な評価をすべきである。
・3歳以上1勝クラス 中京芝1600m・良(1着)
「1:32.9/12.1-11.1-11.5-11.7-11.6-11.7-11.2-12.0」
当時のコースレコードと0.6差、現レコードとは0.7差の好タイム。
ここもかなり大きく出遅れ最後方スタート。11秒台で推移する比較的締まった流れの中で、最内から位置を押し上げる。直線を向いた直後に先頭のアンドヴァラナウトを捉え、そのまま突き離す強い内容。2着のアンドヴァラナウトが後にローズS1着、秋華賞3着等、結果を残していることもプログノーシスの能力の高さの裏付けか。
・武田尾特別 阪神芝1800m・良(1着)
プログノーシスはもちろん、2着にも推し馬フラーズダルムがいることも相俟って個人的にはかなり好きなレース。
「1:45.3/13.0-11.4-11.5-11.4-11.4-11.6-11.8-11.4-11.8」
テン1Fは遅いが2Fからの流れがマイルGIレベル。
恒例の出遅れから最後方で進める。直線では別格の末脚を発揮し1着。レース上がり35.0に対してプログノーシスの上がり3Fは驚異の32.8。締まった流れから抜群のロングスパートを披露。
・京橋ステークス 阪神芝2000m・良(1着)
「1:58.3/12.3-10.9-12.3-12.4-12.3-12.1-11.7-11.2-11.6-11.5」
スローからの後半力勝負。ここもレース上がり34.3に対して上がり33.1の末脚を発揮して1着。内回りコースのスロー展開を直線だけで後方から差し切り。急坂にも関わらずラストは加速ラップ。圧巻のパフォーマンスだった。
ちなみに阪神芝2000mでの上がり3F33.1という数値は父・ディープインパクトの新馬戦と同じ。2013産経大阪杯では2着ショウナンマイティと1着オルフェーヴルがそれぞれ上がり32.9と33.0を記録しているが、33.0は阪神内回りにおける勝ち馬の上がり3Fとしては最速である。
これらの比較対象からもプログノーシスの末脚は確実に超GI級であると言える。
・カシオペアステークス 阪神芝1800m・良(2着)
「1:46.1/12.9-11.4-11.6-12.2-12.3-12.1-11.3-10.8-11.5」
スローからの後半3F戦。前半5F60.4のスローペースから逃げ馬のアドマイヤビルゴが上がり33.6を使う展開で、差し馬にとっては厳しいレースだった。それでも力負けということでは断じて無く、直線の進路がスムーズなら差し切っていただろうと思わせてくれる見事な末脚を披露。
・中日新聞杯 中京芝2000m・良(4着)
「1:59.4/12.7-11.3-13.2-12.7-12.0-11.3-11.1-11.2-11.5-12.4」
前半5F61.9の超スローペース。直線を向いて縦長の最後方にいるのではノーチャンスであった。さらに直線での進路取りもスムーズにいかず、一旦下げて外へ出すロスがあった。
レース上がり35.1に対しプログノーシスは33.2の圧倒的な末脚を発揮するも届かず4着。後半5Fの急に速くなった流れの中でも末脚の質は一級品。
・金鯱賞 中京芝2000m・良(1着)
ここでようやく重賞初制覇。
「1:59.8/12.7-10.9-12.7-12.5-12.1-12.2-12.1-11.2-11.6-11.8」
スローペースからの後半3F瞬発力戦。イン前有利の馬場・展開であったが、大外枠かつ出遅れやや後方から差し切り。(出遅れというよりかは外にヨレながらのスタートという表現が適切か。)イン前の馬たちが瞬発力を発揮する中で、プログノーシスは後方からジワジワと追い上げる。このレースの走りからも明らかなように、プログノーシスの本質は瞬発力ではなく、長く良い脚を使うロングスパートである。
・クイーンエリザベスII世カップ シャティン芝2000m・良(2着)
初のGI挑戦がまさか香港とは。ただ、クッション値の低いレースでも問題なくパフォーマンスを発揮できる馬なので、洋芝でもそこまで心配はなかった。結果としては2着だったが、本馬の強さを海外に知ってもらうことはできたと思う。
まず、レースラップについては以下の画像にまとめたとおりである。レースラップは香港競馬公式サイト(The Hong Kong Jockey Club)にて確認できる。(レースラップだけでなく各馬の個別ラップも公表されている。)
400mを1sectionとしており、2000mは5sectionである。ラスト2sectionについては200m(1ハロン)ずつのラップも公開されている。1000m通過時のタイムは正確には分からないが、公開されているレース映像を見る限りは1:04.2ほどと、かなりのスローペース。プログノーシスはこのペースを最後方で追走し、直線で伸びるもロマンチックウォリアーには届かずの2着。この内容を受け、ロマンチックウォリアーに完敗と評価する見解が散見されたが、私はそうは思わない。その根拠は、上記のスローペースとポジショニングである。
道中を最後方で進めていたのだから、いくらでも外に出すタイミングはあったと思うが、そうはせず内に拘る競馬。結局、直線を向いた時にはジェラルディーナに上手く蓋をされ外に持ち出せない状況になってしまっている。内を何とか捌きながら伸びるが届かず2着。対して勝ち馬のロマンチックウォリアーは終始絶好の先行ポジション。直線も不利を受けることなくスムーズな競馬だったことを鑑みれば、そのパフォーマンス差は着差ほどはないだろう。
また、プログノーシスの個別ラップにも注目したい↓
「28.37-25.30-23.71-22.45(11.21-11.24)-22.40(11.14-11.26)」
後半4Fを44.85でまとめている。前半がスローとはいえ、直線での進路がスムーズでない中でここまでの後半力を見せたパフォーマンスは破格。その末脚は確実に世界に通用するものであるということを改めて確認できたのではないだろうか。
・札幌記念 札幌芝2000m・稍(1着)
最後は、GI馬3頭を含む強力な相手達に4馬身差を付け完勝した札幌記念。
「2:01.5/12.3-10.9-12.3-12.6-12.3-12.2-12.5-12.0-12.0-12.4」前60.4–後61.1
楽な手応えで完勝。ただし、このレースの結果については馬場適性の差が大きく顕れたという評価も可能。
では、このレースでのパフォーマンスを評価しないかというと全くそんなことはない。前半5F60.4は一見スローペースだが、馬場状態を考えればタフな流れ。実際、本レースは前傾戦であり、上がりもかかるかなり特殊なレースだった。タフな流れの中で楽にポジションを押し上げ、直線で他馬を突き離すその内容は圧巻。これも今年の天皇賞・秋に繋がる持続力の証明となる。
発汗が目立っていて、状態的にはより上積みを見込めそうな中で圧勝したのだから言うことなし。
③高速決着?左回り?
以上で見てきたようにプログノーシスの能力は相当なものである。しかし、本馬に関するネガティブな見解もしばしば目にする。
特に多いのは「プログノーシスは重馬場・洋芝巧者であって高速馬場向きではない」というもの。これに関しては既に軽く触れたが、高速馬場で好タイム・抜群の上がりを記録している本馬には該当しないと考える。毎日杯で本馬はキャリア2戦目にして1:44.2で走破しているわけだが、終いの脚は全く鈍っていない。仮に1ハロン伸びたとしてL1Fを12.5で流したとする。それでも、タイムは1:56.7である。これは今回出走するメンバーが経験したレースの中で、2000m戦最速であるガイアフォースの国東特別(1:56.8)よりも優れたタイムである。もちろん机上の空論ではあるが、ある程度の目安にはなるだろう。
もう一つ、「プログノーシスは右回り巧者なのではないか?」という説がある。それに対する反論も述べてみたい。確かに、戦績を振り返ってみると中日新聞杯で馬券外となっていたり、金鯱賞の上がり3Fが最速とはいえ本馬の他のレースと比べてやや物足りなかったりと、左回りのレースにおいては一見、比較的低パフォーマンスに映る。それに対して、右回りのレースでは阪神、シャティン、札幌と、数々のコースで圧倒的なパフォーマンス。これは、プログノーシスが左手前巧者であることに起因すると考える。
右回りの阪神やシャティン、札幌で破壊的な末脚を繰り出してきた本馬の走りをよく見てみると、いずれも直線を左手前で駆け抜けていることが分かるのである。
では、右手前がダメかというとそうではない。中日新聞杯では馬券外とはいえ上がり最速、それもレース上がりと1.9秒差の33.2。金鯱賞でも内有利バイアスを大外から上がり最速の33.9で差し切り。これらは直線を右手前メインで走って出したパフォーマンスである。しかし、良く見るといずれも最後には左手前に切り替えており、そこでさらにもう一伸びしている。左手前で走っている時の方がストライドが広く、スピードの最大値も上であるように見える。結局、直線を左手前メインで走れる右回りの方が良いという話になってしまいそうだが、ここで強調したいのは左回りでも最後に左手前に替えてさらに伸びることができているという点である。直線の長い東京なら直線途中から左手前を使えるはず。左手前でコーナーをまわってきて、直線の坂を右手前で登り、最後は得意な左手前で走れる。そういった意味でも東京コースは本馬に確実に合うと考えている。
④調教
一週前追い切り(栗東CW併せ馬 馬なり)の内容が秀逸。
「6F83.9-5F68.6-4F53.6-3F37.6-2F22.5-1F11.3」
(15.3-15.0-16.0-15.1-11.2-11.3)
全体時計は抑えられ、ラップも加減速しておりチグハグ。ただ、終いの伸びは抜群。特に気になったのは3F→2Fの加速。馬なりにも関わらず、抑えきれない手応えで3.9秒も加速している。これだけ急激に加速する追い切りは今までに見たことがなく、本馬の次元がさらに高まっていることの証左。まさに今が充実期だろう。
最終追い切りは栗東CWの単走で83.7-11.9馬也。中内田調教師の発言にもあるようにリラックスが目的の調教に見える。一週前追い切りの反応が良すぎた点をケアするリズム重視の内容。
一週前、最終のどちらも全体時計は抑えられた。札幌記念を使った分、軽めでも大丈夫という判断か。
⑤まとめ
卓越した末脚が武器のプログノーシス。その持ち味は馬場の影響を受けず、どのような展開でも発揮できる。道中のポジショニングについても、1勝クラスや札幌記念を見る限り川田騎手なら問題なし。今回求められそうな、後半の締まった流れからのギアチェンジとその持続力は既に証明済。序盤のペースが想定以上に上がったとしても、マイルや1800mを走ってきたペース経験が活きる。左手前巧者ゆえに一見課題と感じる左回りへの対応についても、直線の長さがカバー。近走の内容や一週前追い切りからも今が最盛期と見る。
IV.印・見解
印
◎9.プログノーシス
○7.イクイノックス
▲3.ドウデュース
△5.ガイアフォース
買い目
・単勝:◎
・馬連:◎−○/△−◎○▲
・馬単:◎⇄▲(オッズ次第で馬連に変更)
・3連単:◎→○▲△→○▲△(6点)
面白みのない印になってしまったがやはりイクイノックスとドウデュースは軽視できず。単勝が本線。馬連・馬単は上振れ狙い+保険。3連単はおまけ。
本命
◎9.プログノーシス
本命はプログノーシス。能力については以上で見てきたとおり。適性・展開は向く上に状態も良さそう。
それでも本来は、自信を持って本命に据えるためには他馬との比較の上で得られる根拠が欲しいところ。しかし、本馬は今回出走の他馬との対戦経験がほぼ無く、単純比較は難しい。強いて強調材料を挙げるならば、イクイノックス、ドウデュースの2強に比して臨戦過程が良いこと。ただ、それだけで十分とも言える。本馬のこれまでのパフォーマンスから能力自体は超GI級であることは明白であり、臨戦過程が良いという一点の優位性のみで本命にするに足る魅力がある。
また、川田騎手との相性が良い(6.0.0.0)ことが話題となったが、長く良い脚を使える本馬と、比較的早仕掛けをして最後までしっかり追える川田騎手は本当に合っていると感じる。
遅れてきた怪物が予知するのは強豪達を倒し戴冠する己の姿か。牝馬三冠を達成した超一流ジョッキーを背に最高峰の闘いへ臨む。その豪脚で以て最強を証明してもらおう。
対抗
○7.イクイノックス
昨年の覇者。その後も有馬記念、ドバイSC、宝塚記念を制し、GI4連勝中。もはや説明不要の名馬。
後半の速い流れからのギアチェンジも、2022ダービーのパフォーマンスから心配無用。
締まった流れからラストにもう一段階ギアを上げる必要のあったダービーは、まさに今回の天皇賞・秋の後半5Fに繋がりそう。
宝塚記念ではスルーセブンシーズをクビ差で凌いで1着と、これまでのパフォーマンスからするとやや物足りなく映るが、イン前有利なコースを大外からぶっこ抜きは着差以上に強いと評価すべきだろう。しかも高クッション値×キタサンブラック産駒のデバフを破ってのもの。
次に左回り適性について。本馬もプログノーシス同様、左手前巧者であることは既に軽く触れた通り。つまり、どちらかと言うと右回りの方が得意なはずである。ただ、既に述べたように直線が長く、左手前に切り替えてから時間的余裕がありそうな東京コースでは左手前巧者でも末脚を発揮できる。ダービーや2022秋天においても直線途中まで右手前で走り、途中からは左手前に切り替え、綺麗なストライドで伸びている。このことから、本馬に関しても東京の舞台なら左回りは減点材料にはなり得ない。ちなみに、走法は跳びの大きいストライド走法のため、宝塚記念が行われた阪神内回りコースよりは圧倒的に東京コースの方が合うはず。
これまで、差し、先行、逃げ、捲りなど多様な勝ち方を見せてくれた本馬だが、今回はどのような作戦で臨むのかは気になるところ。ダービーの再現とならないように、ドウデュースよりも前に位置を取りに行くか。走法的にトップスピードは恐らくこちらが上回っているため、いつでも追い出せる位置さえ取れていれば問題なさそうだが果たして。
ローテについても軽く触れたい。本馬は元々体質が強くなかったことから、これまでは叩かずに本番へ直行する一戦必勝のスタンスを採ってきている。今秋の大目標はジャパンCと明言されているように、陣営は叩きを示唆している。しかし、中間の乗り込み具合や一週前調教の自己ベスト超抜時計を見るに、ただの叩き台ではなくここも勝ちに来ていることが分かる。(このクラスの馬になると叩きと言えども負けられないという思惑はありそう。)成長し、体質が強化されたことから秋天→ジャパンCのローテでも、どちらも勝てると見込んでの出走ではないだろうか。素直に信頼して対抗に据えたい。
単穴
▲3.ドウデュース
イクイノックスと双璧をなす、現4歳世代の象徴的存在。両者の対決はダービー以来。1年以上の時を経てそれぞれがどのような成長を遂げたのか、その証明の舞台とも言える本レース。
さて、2022皐月賞は結果として外を回った馬が走りやすい展開になっており、本馬もそれに該当するのだが、1・2着馬と比べ明らかに位置取りが後方だった。続くダービーではイクイノックスよりも早めに動き出し、見事に戴冠を果たしている。本馬もダービーでのパフォーマンスを主な根拠として評価したい。さらに、2023京都記念はラップ的にはスローからの瞬発力が求められたレースだったが、自身は大外を回しながら捲っていくロンスパの競馬。楽な手応えで抜け出し圧勝。開幕週で内外ともに伸びる綺麗な馬場だったとはいえ、2:10.9のタイムも優秀。
それでもイクイノックスを上位に取ったのは走法の差。ストライド走法のイクイノックスとは対照的に、ドウデュースはピッチ走法。京都記念でのパフォーマンスを見ても分かるように小回りのコーナーでメリットを得るタイプ。今回の舞台で利があるのはイクイノックスの方である。ただ、回転数が凄まじく、加速にかかる時間は短いので、イクイノックスよりも良い位置で進められるなら早めに抜け出してダービーの再現となる可能性もあるだろう。
ちなみに本馬に関しては右手前巧者で、左回りは純粋に利を得るタイプ。イクイノックスも東京なら左回りは苦にしないと述べたが、ダービーにおいては得意な右手前で早めにトップスピードに乗ることができた本馬が勝利。今回ももちろん侮れない。
しかし、臨戦過程だけはどうしても気になるところ。追い切りの動きを見るに杞憂かもしれないが、他馬も一線級なだけに8ヶ月ぶりの出走では若干の割引をしたい。
連下
△5.ガイアフォース
国東特別の走破タイム1:56.8や今年に入ってからのマイル2戦を見るに、高速馬場適性が非常に高い馬。特にマイラーズCではやや出負けしながらもマイルのペースに対応。直線の進路取りにやや手こずりながらも33.2の上がりを使ってシュネルマイスターとタイム差無しの2着。速い流れから上がりを使えるというのは大きな武器。土曜のレースを見る限り、東京はかなり時計の出る馬場という印象。
天皇賞・秋のレース質としても、ペースが上がった際はマイラー質のスピードを有する馬が好走している。(2019年のアエロリット、2018のサングレーザーなど。)ジャックドール&藤岡騎手がハイペースを作り出すなどの展開の助けは必要かもしれないが、オッズ以上の可能性を感じる。
その他
・4.ダノンベルーガ
まず、同舞台で行われた新馬戦のパフォーマンスから振り返る。ラップ推移は以下の通り。
「2:01.3/13.2-12.0-11.9-12.4-12.9-12.8-12.2-11.2-11.2-11.5」
前半5F62.4/後半5F58.9、3F33.9
序盤〜中盤スローで逃げ・先行有利の流れ。実際に逃げていたバトルボーンが2着に残している。バトルボーンもこの後4連勝でOP入りしており、実力は確か。その馬の楽逃げペースを中団後方から差し切ったのだから間違いなく強い内容だった。続く共同通信杯でもジオグリフ等を相手に完勝。皐月賞・ダービーでの4着を経て臨んだ天皇賞・秋(2022)は展望の項でも触れた通り、実質スローから後半の瞬発力が問われるレースだった。このレースではイクイノックスに続く上がり2位(32.8)で3位入線。通った馬場の差を考慮すればイクイノックスと同等のパフォーマンスだったと言っても過言ではない。間違いなく、本馬のベストパフォーマンスであった。ダービーやジャパンC、札幌記念など、これまでの敗戦の理由を全て距離や馬場に求めるのは少々短絡的すぎるというか浅薄な見解であるかもしれないが、これまでの東京コース、とりわけ1800〜2000mでの打点から考えるとコース自体は向いていると言える。
しかし、使える脚の長さはラスト3F戦向きで、今回想定している後半5F戦に対応できるかは要審議。実際、ハイパフォーマンスだった新馬戦、共同通信杯。天皇賞・秋(2022)はいずれもラスト3F勝負。それに対して、パフォーマンスを落とした皐月賞、ダービー、ジャパンC、札幌記念ではタフさが求められていた。(昨年のジャパンCはスローからの瞬発力戦と言われることもあるが、後半5Fは11秒台を刻み続けるラップであった。)ただ、皐月賞と札幌記念は馬場の悪い最内選択に加えて右回り、ダービー、ジャパンCは距離で言い訳が可能か。もし、これまでの敗戦の理由が5F戦への適応云々ではなく、単純に距離や馬場、右回りだとしたら…?2000mで馬場の良いところを走ることができた場合は後半5F戦でも能力を発揮できるとしたら…?面白い存在かもしれない。鞍上も不気味。(堀調教師の外国人ジョッキー起用はガチ)
ただ、可能性に賭けてみるにしてはオッズがやや物足りないかなと感じてしまったため今回は軽視して勝負したい。
・10.ジャックドール
持続力を活かすレースをした際に最もパフォーマンスの上がる馬。前走の札幌記念は特殊馬場で度外視可能。高速馬場なら巻き返しは必至。とは言っても大阪杯は馬場とコースが向いていた中でスターズオンアースにギリギリまで迫られる内容。東京コース替わりでは逆転される姿が想像に難くない。(スターズオンアースは残念ながら回避だが他の差し馬も相当に強力。)
これまでのレースを振り返ると、浜名湖特別では逃げて後半5F57.2と驚異的な数字だが、本レースは前半5F64.3の超ドスロー展開。ウェルカムSでは前半5F59.9のペースで逃げたが、ラストは11.3-12.0の減速。白富士Sも前半5F59.4の流れからラストは11.4-12.4。後続の脚も削っているとはいえ、これほどの減速だと今回のメンバー相手では交わされてしまいそうな気がするが果たして。特に差し勢の中でもイクイノックスやドウデュースはペース耐性があり、ジャックドールの勝ちパターンである後半ハイペース逃げの手を打っても、対応される可能性が大いにある。かと言ってスローに落とし込んでも、昨年の天皇賞・秋から瞬発力勝負ではやや分が悪いのは明白。
本馬は強力な逃げ・先行馬ではあるが、相対的評価と外差し馬場を考慮した上で今回は軽視するのが賢明と判断。追い切りから察するに、過去1番レベルで調子が良さそうで期待できそうだが…点数を広げすぎるわけにもいかず無印。
・6.ジャスティンパレス
元々高クッション値でしか好走しなかった馬だが天皇賞・春では稍重のコンディションで勝利。これを覚醒と捉え、前走の宝塚記念では対抗の印を打った。直線入り口で鞭を落とすアクシデントがありながらも一線級の馬を相手に3着好走。やはり今が充実期だろう。
ただ、2000mで速い上がりを繰り出せるタイプの馬ではなさそうで、どちらかと言えば長距離向きである印象。中距離のスペシャリストが集う今回は軽視したい。
・8.ヒシイグアス
高クッション値に強い馬。そのため前走の札幌記念では軽視したが、思いの外高パフォーマンスだった。高速馬場ならさらにパフォーマンスを上げてくる可能性は高い。2021中山記念や2022宝塚記念では締まったペースから末脚を発揮できているのも評価できる。ただ、勝ち鞍が内回りコースに集中していることからも明らかなように、使える脚が長くないタイプ。東京2000mで真っ向から末脚勝負をするとなると、今回のメンバーが相手ではやや分が悪いか。
・11.アドマイヤハダル
本馬の2000mのベストパフォーマンスはジャックドールに0.2差まで迫った白富士Sだと思うが、ジャックドールを物差しにして考えるとここでは買えない。前走の毎日王冠ではほぼ最後方から上がり最速の4着も、全く不利を受けずに走った上で差しきれなかったのはやや物足りない印象。前走は夢を見せてもらったが今回は軽視したい。
・1.ノースブリッジ
本馬も今回出走他馬との勝負付けが済んでいる感があり食指が動かない。逃げの手を打つ可能性も無くはないが、昨年の秋天でも後続馬群の先行ポジションを取り、コーナーで飲み込まれる結果に。今回はメンバーレベルを考慮して軽視したい。(次回人気落ちで低クッション値の東京に出てきたら買ってみたい。)
・2.エヒト
2週前になって急遽参戦を表明した本馬。陣営にどのような思惑があるのかは推し量れないが、そこまで速い上がりを使えるタイプではなく、大箱は向かない。チャレンジCや小倉記念の走破タイムから高速馬場は合っている印象。ただ、それ以上に高速馬場適性のある馬が多数出走する今回は、相対的評価の観点から軽視したい。
V.おわりに
以上が、2023天皇賞・秋の見解である。はじめにも述べたように例年多くの強豪が揃うレースだが、今年は群を抜いて豪華なメンバーが揃った。世界最強のイクイノックスや、それをダービーで負かしたドウデュース。その超ハイレベル世代で鎬を削ってきたダノンベルーガ。牝馬2冠のスターズオンアースを大阪杯で振り切ったジャックドール。そして、遅れてきた怪物プログノーシス…。その他にも強者が大勢揃った。彼らは明日、府中にてどのような光景を見せてくれるのだろうか。
多士済々ではあるが、私は大器プログノーシスの初のGI戴冠に期待したい。