東京優駿(日本ダービー) 〜世代最強を証明する12ハロン頂上決戦〜
I.はじめに
今年もやってきた競馬の祭典。期待感と興奮、緊張が入り混じる独特な空気感。この至高のレースを以て現段階における3歳世代の頂点が決まると言っても過言ではない。一競馬ファンである私たちをも昂らせる特別な一戦。馬を育て、仕上げる陣営・騎乗するジョッキーの方々の感情は如何程のものだろうか。
さて、特別なレース故に馬券にもロマンを求めたくなるところだが、ここは冷静に各馬の能力を見極めることを第一に考えたい。
さすがはダービーと言うべきか、今年も競馬の祭典に相応しい兵が各路線から集結した。各路線の評価・比較、展開予想、馬場などあらゆるファクターを駆使して的中を目指したい。
II.展開・傾向
①舞台
まずは簡単にダービーの舞台についておさらいしたい。
東京・芝2400mで行われる本レース。コースの特徴は以下に列挙する。
・コーナーは4つ。
・最初のコーナーまでは約350m。
・最後の直線は約525m。
・Cコース替わり1週目で基本的に内枠有利。
癖の無いコース。実力がそのまま結果に反映されやすい。
土曜のレースを見る限りはCコース替わりの影響はそこまで感じられず、差しの効く馬場という印象。
長い直線を活かして加速できる脚力を持つ馬を中心に買いたい。
②傾向
以下の画像は過去5年分(2019〜2023/いずれも良馬場開催)の平均ラップを抽出しグラフ化したもの。
前半3F35.4-後半3F34.9
前半5F59.8-後半5F58.9
平均タイム:2:23.3
ハイレベルな後傾戦。追走力と末脚の両方を高い次元で求められる。昨年のダービーが特徴的な逃げ馬の不在・直線向かい風の影響で平均と比べて極端に遅い流れだったことを考慮すると、平均の実質はよりハイレベル。
③想定展開
ハイペース逃げ候補のメイショウタバルが回避。逃げ・先行の候補馬が外枠に集まる並び。序盤のポジション争いでそこそこテンの負荷はかかるはず。
大逃げするタイプは不在。距離不安もあり、隊列が決まってからはスローで流れる想定。
▶︎「中→遅→速」型のラップを刻む想定。
III.各路線の評価
ダービーは東京・芝2400mの舞台で行われるわけだが、これは多くの出走馬にとって初めて体験する距離であり、この時期の3歳馬たちにとってはタフなレースとなる。加えて、上述したようにそこそこのテン負荷がかかることも考慮したい。
これらのことから、各路線の評価をする際に最も重視したいのは「距離経験値」もしくは「ペース経験値」であると言える。ダービーの前半5F平均が59.8であることを考えると、ペース経験値としては最低でも前半5F60.0ぐらいの経験はしておきたい。
以上のことに留意しながらトライアルレース、ステップレースを中心に各路線の評価を進める。(評価はS→A→B→Cの4段階とした。)
①皐月賞
前半3F34.2-後半3F35.8
前半5F57.5-後半5F59.6
タイム:1:57.1
評価:S
ダービーを予想する上で真っ先に考慮しなければならないのが皐月賞組の評価。結論から言うと、今年の皐月賞のレベルはかなり高く、ダービー馬もこの組から生まれる蓋然性が高いと考えている。
今年はメイショウタバルの逃げによるハイペース前傾戦。前半5Fの通過は後方3番手にいたレガレイラでも60.0ほど。ここでのペース経験はダービーに繋がる。
普通なら逃げ・先行勢は総崩れになってもおかしくない展開。実際にペースを作り出したメイショウタバルは17着、2番手追走のシリウスコルトは14着、3〜4番手追走のアレグロブリランテは16着といった具合に、大方はペースに耐えきれず沈んでしまった。
この流れをまともに前受けして1着のジャスティンミラノ、3着のジャンタルマンタルは世代トップレベルと見て間違いない。それを証明するかのように、ジャンタルマンタルは3週後のNHKマイルCで2馬身以上の差をつけて完勝。そして、このジャンタルマンタルに二度土をつけたジャスティンミラノの能力は疑いようもない。
また、中団からの差しで展開向いたとはいえ、そのジャスティンミラノにクビ差まで迫ったコスモキュランダも強い競馬をしたと言える。あとは、後方からとなり展開の向かない中で、上がり3F34秒前後の末脚で追い上げたアーバンシック、レガレイラまで評価したい。
②青葉賞
前半3F35.6-後半3F36.2
前半5F59.5-後半5F60.7
タイム:2:24.2
評価:B
青葉賞。ダービーに繋がらないジンクスのあるレースではあるが、歴としたトライアルレース。距離経験は心強い。
今年の青葉賞はパワーホールの大逃げ。後続の5F通過は61秒台で実質スロー戦。後方勢ノーチャンスの展開に思えるが差し決着となった。
レースレベルとしてはやや低調。スローにしては後半ラップが物足りない。とはいえ、ラップが示すようにラスト200mまではパワーホールが粘る展開。出走馬たちの真の後半力が数値として表れていないだけとも受け取れる。
勝ち馬のシュガークンは全くロスのない完璧な競馬。本番で再現できるか、再現をしてなお足りるかどうか。後方から追い上げて最後まで脚色の鈍らなかった2着馬ショウナンラプンタはラップ数値以上の評価をしたいが、今回はそれ以上に買いたい馬が多いのが現実。
③プリンシパルS
前半3F36.9-後半3F34.2
前半5F61.6-後半5F58.0
タイム:1:59.6
評価:B
スローで瞬発力の問われる後傾戦。
高速馬場にしては時計にやや物足りなさは感じる。
勝ち馬ダノンエアズロックが本気で走っていたのはラスト400m-100mの区間のみであり、最後は余力残しで流しながらのゴール。時計のみを根拠として軽視するのは些か早計かもしれない。
しかし、ダービーへ繋がるようなペース経験値を積んだわけではなく、それでいながら後半力も頭抜けて示せたわけでもないレースであるのは否めない。
また、ダノンエアズロックはアイビーS、プリンシパルSのようにスローペース戦では比較的ハイパフォーマンス。一方、5F通過60.4となった弥生賞では実力を発揮できなかった。序〜中盤の負荷がそのまま後半のパフォーマンスに繋がるのだとすれば、東京コースへの適性だけを以てダービーの舞台で信頼するのは危険か。
(もしくは単純に距離の壁があるか。いずれの理由にしてもGIペースで距離延長の今回は積極的には買えないかな。)
④京都新聞杯
前半3F35.7-後半3F33.8
前半5F60.3-後半5F58.2
タイム:2:11.2
評価:B
この組からは1着で賞金を加算したジューンテイクが参戦。
本レースは序〜中盤の緩む後半4F戦(後半4F45.6)。
道中の負荷は及第点未満な印象だが、後半力は評価したい。
ただ、個人的には勝ち馬のジューンテイク、2着馬のウエストナウはイン前有利展開バイアスの恩恵を最大限享受した結果と受け止めたい。最も強い競馬をしたと評価したいのは出遅れから後方を追走し、コーナーでも大外をまわしながら最後まで伸びてきていたヴェローチェエラ。いずれは重賞を獲れる器だと感じる。
⑤弥生賞ディープインパクト記念
前半3F35.2-後半3F35.1
前半5F60.4-後半5F59.4
タイム:1:59.8
評価:A
皐月賞のトライアルレースではあるが、過去10年の1着馬のその後の成績を見ると、
皐月賞(0.4.0.5)
ダービー(2.0.2.6)
となっており、どちらかと言うとダービーに繋がる傾向のあるレース。
今年の弥生賞は2016年を上回るレースレコード決着。
弥生賞にしては流れたペースだが、後傾ラップ。稍重に近い馬場だったことを考慮するとかなり優秀なラップ。1,2着馬の皐月賞での頑張りを見てもレースレベルは高かったと言える。
当日は上がりがかかり、差しの効かない特殊馬場だった。勝ち馬のコスモキュランダは鞍上のミルコ騎手の好騎乗(捲り)により、素質馬シンエンペラーを抑えて1着。この時点では上位2頭は互角な印象だったが、皐月賞でのパフォーマンス差は歴然。
⑥スプリングS
前半3F37.5-後半3F33.7
前半5F63.1
評価:C
ダービーに直接関連のあるレースではないが、今回の人気馬の一角たるシックスペンスに触れないわけにはいかないのでスプリングSについても。
道中の向かい風や直線の追い風の影響で極端なスロー瞬発力戦となった本レース。ラスト2Fの10.9-10.8は優秀も、レース質としてはダービーに繋がるものではないため過信は禁物。また、スロー展開とはいえ、追い風の恩恵を受けながら同週フラワーCより1.4秒遅いタイムも気になる。ダービーで信頼できるほどの打点の担保とはならないレース。
IV.印・見解
①印
◎8.アーバンシック
◯15.ジャスティンミラノ
▲2.レガレイラ
買い目予定
・単勝:◎
・馬連:◯−◎▲
・3連単:◎◯→◎◯→▲
やはり中心はハイレベル皐月賞組。
その中でも特に、東京替わりがプラスに働きそうな3頭をチョイス。
単勝はアーバンシックを狙うが、馬連の軸はジャスティンミラノ。3連単は宝くじ気分で。
注目馬として挙げたコスモキュランダは東京コースで求められるトップスピードの打点を示せていない点、コーナー加速のアドバンテージが相対的に弱まる点で購入見送り。
②見解
◎8.アーバンシック
本命はアーバンシック。
本馬が最も強い競馬をしたのは百日草特別。
前半5F60.8-後半5F58.6の後傾ラップ。さらにその後半は12.2-11.9-11.7-11.5-11.3と加速し続けるラップ。圧倒的に逃げ・先行馬が有利な展開の中、後方2〜3番手からただ一頭追い上げて全馬をごぼう抜きしたのがアーバンシック。
東京コースでの打点は証明済で、皐月賞も好走。これだけでも能力は十分評価に値する。
そして、本馬はまず間違いなく皐月賞よりパフォーマンスを上げてくる。
その根拠は走り方の癖。新馬戦では右回りの札幌コースにも関わらず、直線では右手前優位の走り。重賞初挑戦で2着に好走した京成杯でも、残り200mを切ってようやく左手前に替えた。しかもゴール直前に再び右手前に戻している。皐月賞に至っては向正面→コーナー→直線途中までをずっと右手前で走っており、ラスト200mでようやく左手前に変換。それに対し、左回りの東京コースが舞台の百日草特別では直線に入ってすぐに右手前に変換。長い直線を最後まで右手前で走り切っている。
これは明らかに右手前が得意=左回り向きの馬の特徴である。
皐月賞では後ろからレガレイラに差を詰められていたが、右手前をフルに活かして走れる東京コースではその差は広がると見る。ただ、好位〜中団で進めるであろうジャスティンミラノについてはトップスピードの持続力にも長けた馬のため、差し切れるかは展開次第。ただ、鞍上の横山武史騎手はマークする意識が強めの騎手。今年の最有力であるジャスティンミラノをマークして、直線で交わせるようレースを組み立ててくれるだろう。
私は、アーバンシック・横山武史騎手とともにダービーの夢を見ようと思う。
◯15.ジャスティンミラノ
対抗はジャスティンミラノ。
デビューから一貫して高いパフォーマンスを発揮し続ける現3歳世代最強候補。
まず新馬戦。
前半3F37.8-後半3F33.5のドスロー瞬発力戦。後半4F45.9で新馬戦としてはかなり優秀。外枠から強気にポジションを確保しに行く競馬で、へデントールを相手に2馬身弱の差を付けて完勝。
続く共同通信杯も前半3F37.3-後半3F33.1の究極の瞬発力戦。
スタート直後こそ行き脚がつかなかったが、鞍上の促しに即座に反応して先行ポジションを確保。利口な一面を見せた。
後のNHKマイルC馬ジャンタルマンタルを寄せ付けない完璧な競馬でここも勝利。
そして何と言っても皐月賞。
前半3F34.2-後半3F35.8と、これまでに経験の無いハイペース戦。加えて初となる右回り。不安要素だらけの一戦だったが、ハイペースを前受けしての勝利で文句無し。
コスモキュランダにクビ差まで迫られたが、これはコーナリング性能と直線での進路の差。東京コースでパフォーマンスを上げるのはジャスティンミラノの方だろう。
さて、ここまで強い競馬をしてきたジャスティンミラノではあるが、ダービーの舞台ではどうか。適性未知数の2400mという距離。ここで重要となるのがペース経験値、という話は序盤に述べた通り。
ジャスティンミラノはこの世代で最もペース耐性を問われたレースである皐月賞を最も強い競馬で勝利している。さらに、東京コースで必要となる末脚の持続力も新馬戦、共同通信杯で証明済。鞍上の指示に素直に従えるので折り合い面も不安無し。
以上のように、距離延長に対する不安がほとんど無く、打点についても世代トップレベル。文句無しで買える一頭。
▲2.レガレイラ
単穴はレガレイラ。
ハイレベルの皐月賞組の中から本馬も指名。
新馬戦は前半3F37.5-後半3F34.9とスロー瞬発力戦。逃げたのは後の札幌2歳S馬セットアップ。インベタでのスロー逃げで完全に勝ちパターンのセットアップをあっさり交わしたレガレイラのパフォーマンスは傑出していた。
続くアイビーSでは3着敗戦も、超スロー瞬発力戦の位置取りの差で度外視可能。モレイラ騎手に蓋をされるシーンがありながら勝ち馬と同じ上がりを使い、最後まで差を詰めた。東京コースへの適性を示した一戦。
3戦目のホープフルSはこれまでよりも速い流れのレース。やや出遅れから追走経験の不足を物語るような後方追走。それでも4コーナー途中からルメール騎手が動かしていき、直線で鮮やかに差し切り。
そして皐月賞。ホープフルSよりもさらに格段にペースが上がり、また後方からのレースとなった。道中はずっと後方2〜3番手。直線を向いた時には既に手遅れの位置だったが、それでも最速の上がりを使って勝ち馬と0.5差の6着まで追い上げた。
本馬を3番手評価とするには皐月賞で本馬に先着したコスモキュランダ、シンエンペラーをダービーでは逆転できるとする根拠を示さなくてはならないわけだが、逆転は十分可能だと考える。
まず、コスモキュランダは弥生賞・皐月賞の両レースにおいてコーナー加速性能を活かしながら走れているが、これが皐月賞4着以下との差であると言える。東京コースはどの馬も、広く長い直線を十分に使って末脚を発揮できる条件となるため、コーナーリング性能のアドバンテージは薄くなる。
直線でのトップスピードの打点となるとレガレイラに軍配が上がるだろう。
シンエンペラーは不利なく中団で進めた割には最後の伸びが物足りなく、東京コースでのトップスピード勝負では相対的に厳しいと見る。
なお、上述した通り、基本的にはアーバンシックをより上位として評価したいところ。しかし、内枠かつルメール騎手に手綱が戻ってポジション意識が高まるであろう点を考慮すれば、本馬の戴冠の可能性も十分。
V.おわりに
飛ぶような走りで世界に衝撃を与えたディープインパクト。無謀な挑戦と揶揄されながらも冠を掴み取ったウオッカ。他馬を完全に置き去りにした怪物オルフェーヴルとウインバリアシオン。最強世代における最高峰の戦い、ドウデュースとイクイノックス。数々の名馬・名勝負が生み出されてきた府中決戦。今年の兵たちはいったいどのような光景を見せてくれるのだろうか。
全人馬が無事に持てる力の全てを出し切れることを願っています。
ダービー、楽しみましょう。